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暴食者は異世界を貪る  作者: 蒼和考雪
四十七章 旅の道連れ
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 剣と剣が打ち合う。公也の持つ剣はいつも通り変わらずミンディアーター、本来ならこの件はあり得ないほどの切れ味を持ち、並の剣であれば斬り飛ばすようなこともできるほどのものである。しかしこの剣は主の意図、意思に追従する……自らの体とも言えるような感覚で斬るもの斬らないもの、その性質を変えることもできる。ゆえに剣を斬り飛ばすようなこともなく打ち合うこととなっている。その意図は相手を殺さないため、剣で止まるようにするため。これはあくまで殺し合いではなく決闘、殺し合いであれば流石にそんな容赦をすることはない。

 公也の剣と打ち合うウィルハルトの剣は一応決闘なので本当に戦闘に使う愛剣とはまた違うもの。しかし斬撃が当たれば死ぬ可能性もある真剣である。騎士らしい直剣、ロングソードと呼ばれるようなもので片手で持てるタイプである。剣とは反対の方に盾を持つ戦い方だ。公也の方は盾を持たず両手で剣を持ち打ち合っている形、このスタイルの違いもまたやはり大陸の違い、環境の違いがあるからだろう。盾も鎧も強力な魔物相手では通用しづらい。魔法道具という道具が普及し攻撃も防御もそちらを頼りにでき、そもそも人間相手が多いこちらの大陸と魔物相手の方が圧倒的に多い向こうの大陸ではどうしても差がある。まあ、盾を使わないわけでもないが……そのあたりは個人のスタイルの違いであり、どちらかというと盾を使わないほうが多いという話である。

 ともかく、両者ともに剣の打ち合いとなる戦いの状況である。どちらかというとウィルハルトが斬りかかり、公也はそれを迎撃するような形だ。果敢に攻撃を仕掛け、戦いは一方的な状況に見える。手数、速度、攻撃回数ではウィルハルトが圧倒的。公也は迎撃しかしていない。


「……何を手加減している!」

「別にそんなつもりはないが」

「一切攻撃してこないくせに手加減していないとでもいうつもりか!!」


 迎撃しかしていないのは公也の意図的……意識してそうしているというよりは公也が普通にやっているやり方がそれである。様子見し相手の動きを観察する、悪癖と言ってもいいやり方。手加減をしているのではなく相手の行動、意思、そういったものを知りたいという知識的なものが目的にある物で決して相手を侮っているわけではない。いや、侮って入るだろう。そもそも本気を出せば一瞬で決着がつくくらい公也の身体能力は高い。それをまともに打ち合うという形にしている時点で手加減……手抜きともいえるやり方であり、相手を侮っているのは間違いない。


「そうだな。手加減していると言えばいるのかもしれないが……これはこれで本気でやっているんだが」

「舐めるな!」


 ウィルハルトがさらに攻撃を苛烈にする。先ほどまでの戦い方騎士らしい基本に忠実というかしっかりとした剣筋の攻撃だったが、そこに数を、少し戦い方を変えた攻撃を、微妙に違いを加えて攻撃してきている。ただ、若干荒い戦い方になっている。騎士らしさが少し薄れた感じだ。

 もっとも苛烈になろうと公也はあまり気にしていない。騎士として真っ当な剣筋でも、どう攻撃するかが読めない乱雑な攻撃でも、迎撃できている。相手の剣の動き、予測などで見ているわけではなく……単純に相手が動いてからそれを見て反応できるという身体能力があるからこそである。もっとも別にウィルハルトも超一流、絶対的な剣の強さを持つわけでもないため公也でなくとも多少相手を見て対応できるところはあったかもしれない。


「結構強いな」

「くっ! あなたにそんなことを言われても舐められているようにしか思えない!」


 強いと言いながら攻撃に対処できているのだから本気で思っているとは考えにくい。少なくともウィルハルトからすれば自身が強いと思われているとは到底思えない……煽られているようにしか聞こえないだろう。


「さて……そこまで言うなら今度はこちらから行くぞ」

「っ!」


 攻撃と防御が切り替わる。公也がウィルハルトの剣を迎撃し、すぐに剣を振るい攻撃する。流石に咄嗟に盾で受けざるを得ないウィルハルト。そのまま公也が攻撃側となりウィルハルトは防御にかなり意識を向けなければいけなくなる。しかし攻撃と防御を剣に頼らなければいけない公也と違い、ウィルハルトは盾を持っている。盾で受けて剣で攻撃に回れば攻撃防御を合わせて戦いやすくはなるだろう。しかし公也はそれにも対応する。盾で受けられた後剣で攻撃してきても普通に剣で迎撃し攻撃に回る。


「やはり手加減をしていたか!」


 わざわざウィルハルトの攻撃を受ける必要は公也にはない。攻撃後、次の攻撃を待つ前に公也は攻撃できる……それをせずに攻撃を待って受けていたわけだから手加減しているとしか言いようがないだろう。


「本気で戦え! この程度があなたの本気か!」

「………………」


 強さという点ではウィルハルトより公也の方が上……それは現状で判明している。しかし公也はそれでもかなり余裕がある。ウィルハルトは多少余裕が削れているが公也はそんなことなく、特に動きに違いを見せず対応している。ウィルハルトが本気でも公也の本気を引き出せていないところがあるが、それではウィルハルトには公也の強さを把握することができない。それはウィルハルトにとって納得を得られない事態になる。


「本気で戦えと? 別にこれは全力ではないだけで本気だが」

「その強さを見せろ!」

「……強さを見せろ、か」


 アリルフィーラにふさわしい存在、アリルフィーラを守る夫たる相手にふさわしい実力、それを見るまでウィルハルトは納得しない。自分より強ければいいというわけではない。主を守るべき立場にある存在だからこそ、その強さをしっかり見たい、知りたい、把握したい……なによりウィルハルト自身戦って公也の強さを感覚的に理解している。この程度の強さではないのだと。その強さの上、限界まで、本気の本気、全力までいかずとも……納得に値する、自分よりも強いその本気の力を見たい。


「なら、殺さない程度に、済ませられる全力でやってやる」

「ぐっ!?」


 公也が振るった横薙ぎをウィルハルトは盾で受ける。先ほどまでは公也の攻撃は盾で受けられるほどだった……しかしこの一撃は盾ごと薙ぎ払いに体を持っていかれる。受けきれない……体をそのままその位置から吹き飛ばすほどの強烈な一撃。


「うおおっ!」

「それは大丈夫か? 鎧をつけているとはいえ、受けきれるものか?」

「ぐっ……まだ、まだだ!」


 公也の攻撃を自身の腕で受けるウィルハルト。斬らないようにミンディアーターの切れ味を下げ攻撃しているが、それでもまともに受ければ骨折の危険はある。防ぎきれないだろうとしても腕で受けるのは厳しい。まあ、耐えることはできている。流石に重鎧ほどの頑丈な鎧ではないため結構なダメージは受けているが。それでもダメージを受けたのは腕だけ、それならばまだ何とか出来る。


「そうか。だが!」

「くっ!」


 キィンと金属音がして、ウィルハルトの腕が跳ね上がる……ぎりぎりまで掴んでいようとしたようだが、流石にダメージを受けた腕でそのまま剣を掴んでいることはできなかったようだ。盾だけで戦い続けることはできない。


「これでもまだ戦えるか?」

「………………いや。私の負けだ」


 剣を失い戦い続けるのは無理だ。仮に戦うにしても今の公也相手に勝ち目はない。自信を上回る……それもかなりの実力、強さで上回る相手であるとようやく確認でき、ウィルハルトは納得を見せ敗北を告げた。



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