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暴食者は異世界を貪る  作者: 蒼和考雪
四十七章 旅の道連れ
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「よかったんですか? 争うことになって」

「別に戦い自体が悪いわけでもないからな。殺し合いじゃなくて決闘だし」

「それでもあまりいいこととは言えませんけど……」

「まあ、別に戦う必要性はあまりないとは思う。でもこれは個人が納得するためのものだから。あの騎士……ウィルハルトは俺と戦わなければ納得しないだろうな、いろいろと」

「……そうですか」


 公也が戦うことをアリルフィーラは良しとしない。別に公也が死ぬとか怪我をする心配をしているわけではない……いや、それがあると言えばあるのだろう。公也の強さを信頼していてもどこで何が起こるかわからない。戦っている中事故みたな事態で何か怪我をするかも、あるいは何も起こらずとも怪我をするかもしれないと思うだけで心情的に好ましいことではない。戦わなければ何も起きない、そもそも意義のない戦いである。個人の納得とか理由があろうと、そういう部分以外では一切やる必要のない戦い。戦わずともウィルハルトは雇うだろうし戦わずとも公也の強さはウィルハルト以外が知って信頼できるものである。

 結局のところこの戦いに利はない。納得があるだけ、興味を満たすことができるだけ。まあそこに損もない。戦うことによるデメリットは基本的にない。殺し合いではないし、何かを賭けているわけでもない。もちろんウィルハルトが死ぬかもしれないとか、公也やウィルハルトの武器や防具の破損があるとか、そういう問題は起こり得るが……それは損と言っても損と見るべきものではないだろう。公也とウィルハルトにとっては損ではないものであるし。あくまで決闘、全力ではあるがある程度戦う上で考慮する部分はある。


「私が頼んで決闘をしないようにしてもらうこともできると思いますけど」

「……そういう感じはあるかもしれないな。絶対に順守するかはわからないが……リルフィに言われれば受け入れるだろう」


 ウィルハルトはアリルフィーラを主とする仕え騎士。もしアリルフィーラが彼に公也と決闘するのをやめてほしいと言えば……苦渋の決断で受け入れるだろう。ただ、そこにある問題としてウィルハルト自身にモヤモヤとするものがある。決してアリルフィーラに不満や敵意を抱くことはないだろうが……公也との間に大きな溝ができる、妙な距離感が生まれるだろう。納得することは結局のところウィルハルトにとって公也という存在を受け入れるために必要なことである。ゆえに決闘は行った方がいい。

 またウィルハルトはアリルフィーラの意見を受け入れる可能性は高いが、決して必ず絶対に受け入れるというわけではない。彼はどちらかというとフィリアやメルシーネ寄りなわけであり主の命を受けるのが基本だが、必ず絶対にそのすべてを受け入れるわけではない。例え主であろうとこれだけは譲れないということや主に良くないことは受け入れない、あるいは別方向に矛先を向けたりやり方を変えたりと色々と頑張ることはある。今回のことに関しては彼もかなり必要としていることもあり、多少性質は変えて、あるいは主の意見を聞き入れ取り入れたうえで決闘は行うことにした可能性はある。


「でも別にこれは悪いことじゃない。これくらいで納得するならその方がいい。面倒が少ないし、はっきりとわかることも多いから」

「……そうですか」

「しかし面倒なことになりましたね」

「面倒でもないが」

「いろいろな意味で面倒ではあります。アリルフィーラ様に心配させているわけですし」

「心配するようなことではないけど」

「それはわかります。キミヤ様の強さは理解しているつもりですから」

「でもフィリアの言う通り心配ではあります」

「そうですね。キミヤさん、確かに強いですけど……あまり剣の技とかって特異なわけでもないですから不安はあるかも?」

「確かに剣技とかまともにやれば勝てない相手も多いけどさ……」


 公也が強いのは確かだが、純粋な技術という点では多くの剣術を学んできた相手には劣る。そもそも公也の強さは総合力、様々な力が強いこと、高いことにある。また多くの場合公也は魔法で戦っている。別に剣を使えないとか、身体能力が低いとか、直接戦闘をしたくないとかではなくそっちの方が手っ取り早いしやりやすいから。安全面でも遠距離攻撃になる魔法の方が優秀なのは確実である。

 だから弱いというわけでもない。そもそも冬将軍などを相手に剣で戦いその技術を学んでいる公也は決してそこまで剣士として劣るわけでもない。ただ、基本的に力押しというか素の力、総合力でごり押す方が高いし、剣士として劣らないとしてもあくまで一流くらいまでなら。プロやトップみたいな上位の方でも上の方相手では公也の技術では負けるという話である。そういう点でまともに……技術での戦いという点では勝てない相手も多い、という話である。


「でも別にそういう戦いでもない。流石に魔法は使わないがちゃんと戦うから大丈夫だ」

「そうですか」

「頑張ってくださいね!」

「……仕方ないですよね。無茶はしないでくださいね、公也様」

「わかってる」







 アリルフィーラたちといろいろ話をした後、公也はウィルハルトと対峙する。


「……何だその格好は?」

「何か問題でも?」

「あまりにも薄着すぎる。殺し合いをするつもりではないがこれは決闘だ。剣も真剣、あなたの体に入れれば斬ることだってできる」


 ウィルハルトは公也の格好に対して注意を入れる。公也はいつも通りの格好だ。冒険者らしくない雰囲気の格好で、戦闘できるか微妙な雰囲気である。しかしこれはいつも通り、戦闘に行く際の格好と何ら変わらない。常在戦場というわけではないが公也は基本的に戦場に行く場合と変わらない格好、スタイルを常に維持している。まあこれは実際には逆で、普段通りの格好で向かい戦えるからその格好でいるというだけだ。とはいえ、決してそれらの装備が戦闘向きではない……ということにはならない。公也の装備は魔物の素材を用いているがゆえに下手な防具よりも強い。

 さて、そんな公也に注意を入れたウィルハルトは多少その重厚さは薄れており、そもそも重層鎧をつけることもないが……軽鎧というにはしっかり金属を使い頑強なものとなっている鎧である。戦う際の動きやすさをしっかりと考えられており、その鎧が彼の動きを阻害するようには見えない。

 これら装備の違いは大陸の違い、大陸の情勢や素材入手の関係がある。この大陸では魔物を相手にすることがほとんどなく人間を相手に戦うことの方が多いためしっかりとした頑丈で重い鎧を使うことが多い。人間に出せる力は限界がある。それゆえにある程度までの防御さえしっかりすれば死ぬ可能性が低くなる。もちろん魔法、魔法道具がないとは言わないが、それらを使ってまで戦うメリットも薄く、また鎧などに魔法道具の力を宿させ使うこともあるため魔法や魔法道具でも必ず勝てるというわけではない。金属素材になるが、魔物の素材がないがゆえに彼らは鎧の装備は金属などこの大陸でも取れやすいものとなるわけである。

 公也の方、アンデールのある大陸では魔物が多いがゆえに動きの重要性がある。巨大な魔物相手に固く重い鎧はつけているだけ無駄、一方的な的になるとかそもそも鎧を着ていても通用するような圧倒的な攻撃をされることもある。受けるよりも回避の方が重要であり、また魔物が置くその素材を入手できることもあり魔物素材を使うことの方が多い。豊富にあり様々な形に利用できる魔物素材を利用しない理由はない。

 結局のところ二人の装備の違いは各々の大陸の環境の違いの結果である。その違いがあるからと言って極端に防御力の差があるわけでもないし、動きやすさという点でも悪くはないというか、そちらの方がいいだろうというものもある。


「それが俺に対してできるとでも?」

「随分と自信家のようだ。その装備で構わないというのならばいいだろう」


 注意はした、とでもいうかのような表情をし公也を睨むウィルハルト。公也も煽るようなことを言っているのでこちらもこちらで問題はある。とはいえ、戦うことには変わりなく。多少本気になるというか心情の違いはある。あるいは公也が積極的なのも、アリルフィーラに関わることだから、と少しだけ本気な部分が出てきているのかもしれない。



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