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暴食者は異世界を貪る  作者: 蒼和考雪
四十七章 旅の道連れ
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17




「初めまして。ウィルハルト・トリスフェインです」

「公也だ」

「シーヴェです」

「キミヤ様にシーヴェ様ですね。初めまして、よろしくお願いします」


 とりあえず公也たちとウィルハルトの顔合わせである。色々と父親であるカリストロと話してはいたが結局最終的にはウィルハルト自身を確認して判断しなければならない。そういうことで直接会っている状況だ。


「………………」

「何かあるのか?」

「いえ。あなたがどのような方か、しっかり見たいと思っただけです」

「そうか」


 ウィルハルトはじっくり公也を観察している。ウィルハルトの中には主であるアリルフィーラが絶対の価値があり、その夫である公也は恋敵……とは違うが、大分複雑に思う相手なのだろう。そうでなくともウィルハルトはシーヴェの件、アリルフィーラを放っておいて他の女性と買い出しに出ているという点で敵視するところがある。これに関しては他の女性と関係を持つことに怒りを感じているとかではなく、主を放っておく方面で怒りを感じている形だ。そのあたりの価値観はまた仕え騎士独特のものである。


「まずは私はあなたに申し立てることがある」

「……なんだ?」

「決闘だ」

「……決闘?」


 とても唐突に、ウィルハルトは公也に対して決闘を申し立てる。


「一つはあなたが妻である女性を放っておいた事実に対して」

「…………放っておいた、か」

「アリルフィーラ様が宿から外に出て街を歩いている中、護衛となる人物は従者として付き従っていた女性しかいない。多少戦う心得があろうと彼女の強さではどうしようもない場面もある。もし何かあれば彼女に害が及んでいた可能性もある。ゆえに放っておいたこと、彼女を守り切れていないことを私は許せない」

「そうか」


 結構一方的というか、勝手な言い分をウィルハルトは言う。そもそもウィルハルトはこの日アリルフィーラに出会うまでは根本的には公也たちに関わることのない他人である。それ以前に起きた事、決まったことに対して文句を言うのは筋違いであるし、街の中で何か問題が起きること自体普通はあまり想定しないものだろう。従者という形で戦闘能力はどちらかというと不意打ちや暗殺よりとはいえ、暴漢程度には後れを取らないフィリアもいる。ウィルハルトはフィリアを弱いと考えているがそれはウィルハルトの方が圧倒的に強いから。少なくともフィリアは決して弱いというわけではない……まあ最近はあまり戦闘訓練や警戒の練度が落ちているところはあるだろうが。

 公也としては結構一方的な糾弾ながら、否定はしない。実際アリルフィーラを放っておいているのは事実である。一応魔法道具形安全面の対策は取っているし、基本的にアリルフィーラが宿の外に出ないから置いて行っても不安が少ないという事実もある。今回は外に出ているが今までも何度かあった物の、全体で見ればほとんどないと言っていい。ゆえにシーヴェと外に出て行っていた。買い出しということでシーヴェだけ、あるいは公也だけでも良かったかもしれないが……これに関してはアリルフィーラの押しがありシーヴェと一緒に出て行っているわけである。実際それ自体は行動として有り間違ってはいない。その結果今回はウィルハルトという危険な存在に近づくことを許した。まあそのウィルハルトがアリルフィーラの安全に対して主張している……何か間違っている気がするが、実際危険があり得たことは事実だろう。

 だからと言って一方的な言を聞き入れてはいるが受け入れるつもりはない。今回みたいな事例を気にしては何もできないのだから。


「だがずっとつきっきりというわけにもいかないだろう。守るための対策は取ってる。絶対の安全はないが、それは別に俺が守りに入ったところでそうだ。安全性は上がるが確実なことはない。今回でもフィリアに防御の魔法道具があり、街の中だ。それもあまり危険の少ない普通の街で海や川方面の荒くれの多い街じゃない。そんなところで危険かどうかを気にしすぎるのはおかしいだろう。そんなに治安が悪いわけじゃないんだから」

「どれだけ安全かは直接は関係ない。危険があるかもしれないのだから守るのが当然だろう。あなたは彼女の夫なのだから」

「…………守るために色々と手は打っている。それだけでは足りないと?」

「どれだけの手を打とうと足りることはない。ならば一番重大な守りをつけるべきだろう。あなたは恐らくそれだけの実力がある」


 ウィルハルトも相手の強さは何となくわかる。公也が強いのは分かっている。ただ、それでも彼は決闘を挑む。仕え騎士としての主義、在り方ゆえに。


「実力があるのは分かっているのに決闘を申し込むのか?」

「その点の問題もあるからだ」

「……その点とは?」

「正確な実力がわからない。恐らく強いだろうというのがわかってもいかほどの強さかはわからない。私が主として仰ぐべき方の夫なのだから、その強さをしっかり見ておきたい。ゆえに決闘を申し込む」

「……………………」


 主となる人物の大事な人物だからこそ、その強さを知りたい……主を守るのに値するか、相応しいか。それを知るためにウィルハルトは公也に挑みたい。相手の強さを知るのに一番の方法は自分で戦うこと。とはいえ、本来ならばそれは無意味に近いものだろう。


「決闘と言ってもそれができるか? 武器や防具の準備、安全面を考えると」

「それが必要か? それが必要なほどあなたは弱いのか?」

「…………ふむ」


 公也としても無感情ではない。別に怒りを覚えるわけではないが……挑戦されれば買うこともある。仕え騎士という存在に関して、その強さを知りたい、たまに決闘みたいな対人戦をやって感覚を検めて覚えたい、手加減の鍛錬、その他やろうかなと思いつくことは多々ある。それを試す……相手は真剣に決闘、公也の強さを図るつもりなのに公也は結構気楽というか、相手に知られれば怒りを覚えそうなことを考えている。


「いいだろう。決闘……殺し合いではなく、相手の実力を計るそれをやろうか」

「ああ、それでいい」


 アリルフィーラたちやカリストロが口を挟むことなく、それは決定した。



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