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「全く……我が息子ながら愚かしい行動をしている。話を聞けば結婚ているらしい女性をいきなり家族がいるとはいえ自宅へと連れ込むなど。しかも当日であったばかりの知人でもないという話じゃないか。迷惑をおかけした。息子の行動を代わりに詫びよう」
「いえ……確かに唐突でしたので困惑しましたが、今のところ大きな問題もないので、そこまで神妙に対応してもらわなくとも構わないですよ」
「いや。我が家は騎士、この国に古くから存在し国のため、人のため、民のため、仕え騎士として己が役割を果たしてきた家だ。どのような形であれ迷惑をかけるような行いをすれば詫びることは当然のこと。少し押し付けるような形になるが、謝罪を受け取ってもらいたい……いや、少しこちらの勝手が過ぎるか。しかし謝罪の意を示す、そのことに関しては理解してもらいたい。私も何もしなかったと思われたり言われたりするのは少々好ましくないのでな。いや、私が息子の教育を誤った部分も要因としてはあるのかもしれない。だが」
「あの、もういいですから」
「こちらはあくまで声をかけられた程度、少し絡まれて困惑した程度です。こちらに招かれ何かされたわけでもありません。歓待……とまではいかなくとも持て成しを受けているわけですし、そこまで過度に対応されても困ります」
「そうですか? そういってもらえるとありがたいですが……」
結構押しが強くしつこくストーカーになりそうな息子も結構面倒なものだがその父親も少々押しつけがましいというか、悪意での行動ではないのはわかるがアリルフィーラ側としては若干迷惑な感じのある内容である。とはいえ、それ自体は悪いものではないので何とも言えないところである。
「しかし、ようやく仕え騎士として己が主を見出すことができたというのに……既に結婚している、この街のものでもない何処かのお方がその対象となると少々問題がありますな」
「問題ですか?」
「あなた方には関係のないお話でしょうが、仕え騎士というのは己が主としてふさわしい相手を見て初めて見出すのです。そしてそれは一人だけ……唯一の主なのです。その主のために働く、身を粉にし尽くす。主のためならばどのようなことでもする……それほどまでの使命とでも言いますか。我ら仕え騎士はそれほどの想いを抱くのです。もし仕え騎士が主を見出した後、その主を事故や事件などで失えば後を追いかねないほど、追わずとも腑抜けになり二度と活躍することもなくなるでしょう。それだけ主に対しての敬愛、忠誠は強く、ゆえに主を見出したのならばその肩を主として迎えられるよう全力を、最善を尽くすのです」
「……そうなのですか」
「とてつもなく重いですね」
「そういわれることもあります。それほどまでのものであるがゆえに……主を主として抱くことが難しい状況なのは、仕え騎士としては苦しいものでしょう。しかしあなた方に息子を貰ってくれ、結婚はせずとも騎士としてどのような形であれ使っていただければいい……と思わなくもないのですが、やはりそれは難しいでしょう。だがそれでは息子がどうしようもなくなる……困った物です」
「…………」
どうにも答えづらいことを言ってくるウィルハルトの父親。実際ウィルハルトはこの先アリルフィーラの側にいられない状況になれば騎士として碌に使い物にならなくなることは間違いない。それをわざわざアリルフィーラたちに説明してきたのは……別に悪意とか、この内容を教えることでアリルフィーラ側に雇わなければならないと思わせるためではない。本当に純粋にただ自分たちのことを語った、それだけである。
もっとも、この内容を考えると赤の他人とは言え、その家の人間を完全にどうしようもない状況に追い込むことになるという事実がわかる。そしてその原因はアリルフィーラ……一応ウィルハルト側も原因であるが、ともかくアリルフィーラに原因があるということでその責任を押し付けられたような感じになる。もちろんそこで拒絶の選択を取っても構わないのだが……普通はウィルハルトをどうしようもなくすることを好まない。そういう意味では効果的な誘導ではあったかもしれない。
「別に私は彼を雇うこと自体に反対しているわけではありません」
「おお、ならば騎士として連れて行ってもらえると?」
「それは私が判断できることではないのです」
「……ふむ、そういえばあなたは結婚為されている。つまりお相手の男性がいる、ということですな。その方が全ての決定権を握っている……あまりいいこととは言えないのではないですかな?」
「私が委ねているだけですので。公也様は私が決定したことは普通に受け入れてくれると思います。ですけどそれを私は望んでいません。公也様の迷惑になっては困りますから。なので決めるのであれば公也様と話し合ったうえで決めたいと思っています」
「なるほど」
アリルフィーラ自身はウィルハルトを騎士として迎えることには反対ではない。ウィルハルトの強さ、アリルフィーラを主として働く意思、そういった部分だけで見れば決して悪いものではないからである。それにその意志、精神性……多少厄介なところは有れど、ウィルハルトのそれは決して悪いものではない。結婚しろと言われると無理だとはっきり言うことになるが、騎士として迎え入れろというのであれば別に問題はない。抑々結婚も恋愛感情あってのものではなく、忠誠を抱く主を傍に迎え入れる、護るためだ。ゆえに問題はない……ただ、ウィルハルトの存在が公也にとってどう働くのか、また公也自身がウィルハルトをどう思うのか、そこがわからないから諾と答えられないでいる。
「それであればその方を呼んだ方がいいでしょうな。そもそも当事者となるその方がいない状態で息子のことを決めるのも簡単ではないでしょう。妻がどこの誰とも知れぬ男をいきなり連れてくるわけですから」
「そうですね。私も勘違いされると困ります」
「ふむ……その方はここにおられるのですか?」
「ともに旅をしていますので」
「では宿の方を教えてもらえますか? 我が家の者を使いに出してこちらへ来ていただきましょう。もちろんその方もこちらでもてなすこととなります。宿に泊まるよりもいい部屋がありますので休むにも都合がいいでしょう。しばらくこちらに泊まってもらいその間に事情を話し息子を受け入れてもらえるようにすればいいということだ」
「……そうですね」
やはりどことなく押し付けてきているというか、仕え騎士が仕える主に受け入れられ騎士となることが前提として有るような口ぶりである。まあ彼からすれば仕え騎士が仕える主を見つけた以上は仕えることが絶対である、という考えがあるのあろう。今までがそうだったからこそ、彼の中ではそれが頑なである。もっとも相手がこの地の者ではないという事実もあるため果たしてどうなるのか……それに関しては公也やアリルフィーラたちが同決定するか次第となるだろう。




