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「伴侶がいるというのは少し安心できるところです。それなら多少の問題はともに解決できるでしょう」
「そんなに問題ごともないのですけど」
「……あなたはアリルフィーラ様に結婚してほしいと言ったのではないんですか?」
「それは共にある、護るために最も有効性の高い手段であると考えたからです。決して私は彼女に結婚してもらわなければならないとは思っていません」
ウィルハルトは別にアリルフィーラと結婚したいわけではない。彼のアリルフィーラに向けるそれは決して恋愛感情ではなく、主に対する忠誠心……敬愛、そういった方面のものに近い。行っている通り結婚してほしいみたいな告白は確かに結婚寄りの事実を目的としたものだが、あくまでアリルフィーラを守るためのもの。すでに結婚しているというのならば自分が結婚することを望むことはない。
しかし、結婚を目的としないからと言って一緒にいないでもいいわけではない。ウィルハルトは結婚して側にいてもらう、側にいるつもりであったというだけであり、それは結婚せずとも構わないものである。つまりこのままアリルフィーラの側にいることを選ぶ、そういう選択もできるのである。
「では私を貴女の従者として傍に置いてもらえませんか?」
「えっと……」
「唐突すぎます。いきなり従者に迎えろと言われても困るでしょう」
「私は仕え騎士……騎士として戦う力もあり、暴漢から守ることもできますし魔物や獣の危険から守ることもできます。身の回りの世話も問題なく……まあ私は男の身ですので女性に対してできないこともあるでしょうが、どのようなことでも、力仕事でも雑用でも来ないましょう。雇うというわけでもなく、給料も必要ありません。いえ、必要ならば私の方から生活資金を治めても構いません」
「ちょっと!? 流石にあまりにもありえない内容ではありませんか!?」
「いきなりですね……そう言われても困ります」
「私は貴女を支え、仕え、力になりたい。私にあるのはそれだけ、それ以上のものはないのです。仕えることができればいい、貴女のために尽くすことができればいい……どうでしょう?」
「どうと言われても困りますね。そもそも私は公也様と一緒にいる身です。私自身ではあなたを傍に置いておくかどうかを決めるのは難しいでしょう」
「ではその方に話を。何としても説得して見せましょう」
押しの強いウィルハルト。それだけ彼にとってアリルフィーラの側にいることは重要である。
「ところでそのキミヤ、という人物はどのような方でしょうか?」
「キミヤ様はアリルフィーラ様の夫です」
「なるほど……その方が彼女よりも立場的に強いのですか」
公也の存在に対してウィルハルトは思うところがある……恋愛的なものではない、アリルフィーラが公也に従っている、公也の方がアリルフィーラよりも立場的に上にある、そんな感じの状況が気に入らない様子である。ウィルハルトにとってはアリルフィーラは使えるべき主だが、同時にあらゆる他のすべてよりも価値の高い、至上の存在であるという見方となる。そんな至上の存在を下に置く存在がいるのは気に入らない、そういうことだ。
「しかし、なぜその方は貴女と一緒にいないのですか? 貴女の側にいるのはそこにいる従者の女性だけです。夫であれば妻を守るものではないでしょうか? 何か起こればそちらの女性だけでは貴女を守り切れない可能性があるのではないですか?」
「それは私としては受け入れるのに納得いかない発言ですね」
「失礼。しかし貴方は決して強者と言えるほどの強さは持たないでしょう。私であれば貴方を下すことなど容易です。街に私ほどの強さを持つ人間が易々といるとは思いませんが、そうでなくとも数で襲い掛かれば貴方とて彼女を守り切れるとは思えない」
「…………否定しきれないところですね」
「であればキミヤという人物が貴女を守るしかない。しかし貴女を守らずその人物はどこに」
「公也様ならシーヴェと一緒に買い出しに行っています」
「買い出し……? それにそのシーヴェという人物はどのような方ですか?」
「私の従者です」
「従者…………なぜ従者と一緒に? いえ、そのシーヴェという人物は……男性でしょうか? 彼女が従者として護衛も兼ね傍についているなら男性はおかしな話ですね。ということは女性ですか? なぜ? そのキミヤという人物はなぜ貴女の傍におらず女性と出歩いているのです?」
「えっと、あの……?」
「彼女を護ることこそ、妻を守ってこその夫でしょう。なぜ女性と外に出歩き妻を放り出しているのか。そんな相手が夫でいいものか。何かあった時彼女を護ることもできないでしょう。他の女に現を抜かしている余裕などない、そんな男に彼女を任せておけるのか……?」
「聞いてませんね」
「困りましたね」
思い込みというか、公也という存在に対して厳しい目を向けているウィルハルト。話だけ聞けばシーヴェという女性従者と公也が街に出た……一般的に見ればデートとしても受け止められる行動をした、と見られる。また妻であるアリルフィーラを放っておいてのその行動である。見方によっては浮気か何かととらえてもおかしくはない。買い出しだけならば別にシーヴェだけでも十分である。公也がついて行く理由はない。街は比較的安全なのだから。
まあその点で言えばアリルフィーラも別にフィリアがついているだけで問題はなかっただろう。安全面ではシーヴェもアリルフィーラも大して変わりないのだから。まあシーヴェと比べるとアリルフィーラの方が外見的には狙われる可能性がある。一方でウィルハルトは知らないがシーヴェは獣人であるためその方面でシーヴェが狙われる可能性もある。安全面で言うと実際のところシーヴェは不安のあるところだ。むしろそちらに公也をつける方が正しいだろう。また、シーヴェに公也をつける、一緒に行ってもらっているのはアリルフィーラの意見、後押しがあったからである。ゆえにウィルハルトの意見は少々お門違い……というべきなのである。もっとも彼はそのことを知らないためそのような意見になっても仕方ないが。
「その男性と話をつけましょう。私についてきていただけますか? しっかりとし話し合いをしたいのです」
「あの……いきなりそのようなことを言われても」
「安心してください。私の家はこの国の騎士……貴族やそれに類する家柄です。粗相をするようなことはありません。歓迎し持て成しをしましょう」
「……フィリア、どうしましょう?」
「これは普通ならついて行くべきではないと思うのですが……下手に断っても面倒なことになりそうです。いざというときはキミヤ様が何とかしてくれると思いますが、安全面に細心の注意を払い彼の提案を受けましょう」
ウィルハルトがいろいろな意味で厄介……断っても下手をすればストーカー紛いの行動を取りかねない危険があると考え、むしろきちんと話し合いをしたうえで対応する方がいいとフィリアは思ったようだ。それゆえに不安はあるが相手について行く、そうするように提案した。フィリアではウィルハルトからアリルフィーラを守り切れないという事実もあった。先ほどウィルハルトも言っていたがウィルハルトはこの国の騎士、しかも仕え騎士という特殊な存在であり、その強さはフィリアよりも格段に上。実力行使でアリルフィーラを攫われても面倒なのでついていくということである。何かあれば公也が行動してくれるだろうとも思っているのもある。今ついて行くと連絡は入れられないが……まあそこは公也であるため何とかなるだろう、という考えである。




