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暴食者は異世界を貪る  作者: 蒼和考雪
四十七章 旅の道連れ
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「唐突な話ですが、一体どういうことですか?」

「お伝えした通り、あなたを支えあなたのために力の限りを尽くす、そのためあなたが傍にいてくれることを望んでいるのです」

「あまりにも急な話です。そもそもあなたは誰ですか? 見も知らぬ赤の他人にいきなりそのような話を突きつけられてもこちらが困ります。まず自分が何者なのかを説明しなさい!」


 アリルフィーラはいきなりどこの誰とも知らない存在に告白された状況である。いや、正確にはこれが告白かはアリルフィーラやフィリアにはわからない。言った当人もこれを告白で言ったかは怪しい……が、内容的には告白と言って差し支えない感じはある。しかしそもそもこの告白をしてきた相手は見も知らぬどこの誰ともわからぬ相手。アリルフィーラ自身も既婚者であるし他者に対してそれほど興味がないというか、自分自身の根本、歪みを受け入れてくれている公也に対しての想い以上のものがそう簡単に生まれないだろうということもあり、この告白に対して何とも思うものもない。相手の見た目は十分な格好良さのある人物、そしてこの大陸の事情を考えれば彼の話し方から貴族、あるいはそれに近い家柄、関係者であることは間違いない。


「ああ、私ですか。仕え騎士の家系、ウィルハルト・トリスフェインです。以後お見知りおきを」

「仕え騎士?」

「……仕え騎士ををご存じではありませんか? いえ、おかしな話でもありませんか。今では仕え騎士の家系は殆ど活躍の機会もない。貴族や王族の方々ならば何度かお目通りもしていますし知る機会はありますが、市井の者ともなればあまり我らの名を聞くことはないでしょう」

「どのようなものなのですか?」

「主に仕え、主のために尽くす、仕えることを己が運命、宿業とする騎士です」

「……それならば相応しいものが他にいるでしょう。いきなりどこの誰とも知れぬ相手に声をかけ主と望むことよりもその方が正しいのではありませんか?」

「仕え騎士は仕えるべき主を主の側や私自らが選ぶことはできないのです。それは本能にもにた、直勘にも似た、そうだと主に相応しい方を見て初めて知ることのできるものなのです。あなたを初めて見て、私はあなたを主として仰ぐべきなのだと、そう知ることができた」

「…………なんですかそれは」

「まあ。かなり特殊なものなのですね」


 ウィルハルトと名乗った彼は仕え騎士の家系、そうアリルフィーラたちに伝えた。仕え騎士のことはアリルフィーラたちはこの国、この大陸の人間ではないから知らない。しかしこの大陸、この国の人間であっても今の多くの民は彼らのことを知らない可能性が高い。年齢が上の方であれば彼らのことをまだ知っている可能性は高いが、今の多くの民は彼らの活躍、彼らの仕事ぶりを知らない。魔法道具は広まった結果仕え騎士も貴族や王族の元に仕えその名を知られるくらいであり、貴族や王族は知っていても市井の民はほとんど知り得ていない。ゆえに知らずとも可笑しくはない。


「しかし、いきなりそんなことを言われても困ります」

「確かに突然ではあるでしょう。ですが私の家は今も名を知られています。あなた方に損はないかと思いますが」

「そういう問題ではないと思いますが? 誰とも知れぬ相手と添い遂げるなど普通はありません」

「……それはあなたが決めることではないでしょう」

「でもフィリアの言っていることは間違ってはいないと思います。私はあなたのことを知りませんしいきなり傍にいてくれと言われても困ります」

「そうですか……しかしあなた方も少し事情があるのではありませんか? 従者である彼女を連れこの街に訪れている。この街の者ではなく、貴族や王族、その関係とも違います。そのような方はこの国でも珍しい……いえ、普通は存在していません。私の家であれば何か問題を抱えていても解決できるでしょう。それに我が主となるお方です。その肩を守るためならば私もどのようなことでもするでしょう」


 ウィルハルトもアリルフィーラたちの事情は見当違いではあるが理解している。その話し方、今まで見たことがない人物であること、そういった事情でおそらく旅人か何か、何らかの事情で外に出てきてこの街にたどり着いた状況であると推測できる。もちろんこの街が終着点であるとは思っていない。このまま放っておけばアリルフィーラはどこかに行くだろうと彼は考え、少し強行な押しでアリルフィーラを引き留める……主として傍にいられるようにしたいと考えている。

 それが先の告白である。厳密にはこれは告白とはまた少し違うが、確かにそれに近いものである。ウィルハルトにとってアリルフィーラはかなり特殊な事情を抱えている存在と見られる。貴族の家の人間で何らかの事情で家を出る必要があった、逃げるか何か旅をする理由があった、そしてウィルハルトが知ることのない貴族の関係者であった……どれほど重要な隠され方をしていたのかわからない。少なくともアリルフィーラほどの年齢の人間がこれまで一切ウィルハルトの立場で知ることがないほど隠されていたというのはとてもおかしな話である。どれだけのことがあればそんな風に知られずにいたのか。その奇妙さも考え、アリルフィーラの事情はあり得ないほどのものである、ということになる。

 それをウィルハルトが守ることができる立場にあるかと言えば、ウィルハルトの家柄であれば多少はどうにかできる感じだ。また、ウィルハルトは仕え騎士、主のためならばその身命を賭してでも戦い守ることを選択する。これに関してはフィリアやメルシーネの立場に近いものであり、もはやそれこそが人生の全てともいえるくらいである。ゆえに、彼はアリルフィーラを何としても守らなければならない……ということで嫁に迎える形でも何としても守るため、というために今回の告白である。仕えるべき主が自らの妻となるのであればその方がいろいろとやりやすい……もちろん自身が上ではなく相手が上の形で通る。それが最も効率的な守護となるからこそ。


「そもそも私は結婚していますし……」

「………………なんと。既に婚姻しておられると?」

「はい」

「…………」


 流石にこれに関してはウィルハルトは想定していなかったようだ。実際ウィルハルトの考えていたアリルフィーラの立場から考えれば結婚していることは考えられない。しかし実際しているとなると、当初そうしていた形では自分の意見を押し通すことはできない。もっとも、だから彼が諦めることはない。仕え騎士、その存在の持つ主へ向ける想いは計り知れないものである……それこそ、メルシーネやフィリアの持つものに等しいのであれば、よくわかるものだろう。



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