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暴食者は異世界を貪る  作者: 蒼和考雪
四十七章 旅の道連れ
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 川、海と公也たちは巡り今度は未管理地域へと向かう予定である。未管理地域はどこからでも入れるとはいえ、道の整備などの都合もあり馬車で移動できる範囲は制限されている。未管理地域は国の領域ではない大陸内、それぞれの国、四島のそれぞれの島の管理されていない領域である。しかしそれはあくまで国の庇護下にない、国の影響の及ぶ範囲ではないというだけであり未管理地域は完全な独立……孤立した状況にあるわけではない。隣接するのだから当然接する部分は国の管理の範疇にある。その内、未管理のエリアに入らない手を出さないというだけだ。

 人の行き来もその未管理の領域の開拓を目的としていたり、あるいは中にある未知の素材を求めたり、あるいは魔物を狩るために赴くなど。また罪を犯して国にいられない人間が逃げ込んだり、犯罪組織が隠れ家を作り生活していたりもないとは言えない。そのあたりの状況、内部の事情に関しては国の方は全く管轄していない。もっとも全く知らないというわけではない。何かあった時未管理領域から何らかの存在が出てくること、事件の大本となる可能性があるためある程度調査はしている。

 しかし根本的に未管理地域は管理できないだけの理由があって未管理地域となっている。その理由とはやはりこの大陸ではめったに見られない魔物だろう。海や川から上がってきた魔物、川や海から膨大な地脈の流れの漏れが生まれてできた魔物の発生地域であるなど、人が住めない理由は基本的に魔物以外にはあり得ない。あるいはこの大陸の地脈状況なら地脈の漏れによる自然の生育が一切ない荒野や岩山のような緑のない無機質な大地であるとかもあり得るが、それはわざわざ未管理地域にする意味がないため未管理知己にはされない。そういう場所は通ることはできなくもない、利用にもできないわけではない。未管理にする意味はないだろう。ともかく、魔物の存在がゆえに未管理となり、魔物の存在があるゆえに手を出せない調査もできない……特に奥地の方にはほとんど手が出ておらず、知る者も少ないという感じである。

 そんな未管理領域に向かうのだから事前準備は必要になる。魔法道具の入手、暫くの野営の準備、十分な休息なども必要となる。また未管理地域は海や川よりであるが内陸に近い方にある面もあり、そちらの方の街を経由していくこととなる。そんな感じで公也たちはうちの方にある街の一つへと訪れていた。


「外に出られるのは本当はあまりしてほしくないのですが」

「もう。フィリア、またそれですか?」

「アリルフィーラ様の立場、悪人に襲われる様々な可能性と理由、そういったことを考えると思わずにはいられません」

「私だって外に出て街を歩きたいときもあります。ずっと宿の部屋に閉じこもってばかり、旅の途中もずっと馬車の中では不健康です。街の中ならまだ安全なのだからこんな時くらいいいでしょう?」

「確かにそうですが……」

「川や海の近くの街に比べればこちらは全然治安がいいんですから、少しくらいはね?」


 アリルフィーラは現在宿の外に出て街の中を散策中である。公也とシーヴェがいないがそちらは買い出し中、アリルフィーラは買い物にはならないがあまり動かずにいるのも体力が落ちるし不健康であるということで普通に散歩というわけである。

 基本的にアリルフィーラが外に出ないのはこの大陸、街においてアリルフィーラが外に出て安全かどうかが微妙だから、である。アンデールであれば街に出歩いても城下の街であるしそこまで危険はない。ハーティアでも祖国だし大丈夫だろう。しかし他国ではあまり出歩くのは難しい。そもそも出歩く理由もない。基本的に街は治安がいいところばかりではない。一般的な街は別に治安が悪いわけでもないが、当然悪いところもある、街の一角だけ、所謂スラム的なところがあるとかもあり得る。仮に治安が良くとも悪人がどこにいるかもわからない。そんな場所に王族、王妃が出向くのは流石に問題があるだろう。立場的に他国で出向くわけにもいかない事情もある。他国のことにその国の者ではない王族が関わるわけにもいかないだろう。

 まあアリルフィーラの立場に関してはこの大陸では特に意味がない。彼女はあくまでアンデールの王族でありハーティアの元王女である。アンデールのある大陸、さらに言うならばアンデールのことを知っている国でなければその立場に関してはそれほど大きな意味は持たない。だからこちらでは安全……というわけではなく、治安的な面でこちらの大陸はアンデールと比べると厳しい。アンデール以外となると今アリルフィーラがいる場所、街はそうでもない。だが川の方や海の方の街は治安という面では管理悪く、出歩くのはあまり好ましいことではなかっただろう。ここならばいいかと言えば、まだマシ……というのがフィリアの意見である。

 なぜそうなるかというと、この大陸では魔法道具の脅威があるから。それにより人の強さの平均化が進み治安が良くなった面もあり、同時に魔法道具を隠し持つ使うという危険性もあることになった。結局アリルフィーラの身の安全にはそこまで繋がらないというか。一般的な危険性で言えばそこまでではないが……アリルフィーラは見た目的に美人であり女性としての価値……悪人、犯罪組織としては結構価値があるとみることができる。それが旅人ともなれば攫い売りやすい、使いやすいということになるだろう。フィリアがついているとはいえ、公也が守るよりも危険は高い。それ故に不安がある、という感じである。


「ですが……」

「フィリアの欠点は私に関してしつこいくらいに安全重視なところですよ」

「当然の事です。私にとって何よりも優先されるのはアリルフィーラ様の安全、幸福です。そのためならばどのようなこともするでしょう」

「本当に固いんだから……」


 基本的にアリルフィーラに関わることに関して、フィリアはしつこく厳しく鬱陶しいくらいに追及する。安全のためということで悪いこととは言い難いが、それがアリルフィーラにとってはもう少し何とかしてほしいと思う程度には……あれである。


「キミヤ様がいればまだいいのですが」

「公也様がいれば安全だから?」

「あれだけの力をお持ちです。シーヴェと一緒に行かせずアリルフィーラ様がともに行動すればよかったと思うのですが」

「ふふ、そうね。でもシーヴェも……あの子もあまり積極的に公也様と一緒にできない子ですから。私はどうしても機会の問題があるのですけどシーヴェは自分からはなかなかできないみたいですし」

「普通はすでに結婚している方に懸想することがおかしいのですが。それも相手は王であるわけですし。しかも仕える主の夫です」

「私は別にいいのですけどね。対外的なものはちょっと考えなければいけませんけど」

「……それはそれでどうなのでしょう。本当ならいいことではありません」

「あら。世の中の王族は多くの妾を持っていてもおかしくないでしょう? 公也様がそうであってもおかしくないじゃない」

「それを王妃であるアリルフィーラ様が仰いますか?」

「味方は多い方がいいですし、公也様を好く方が多い方が少ないよりもいいでしょう。私は公也様の想いが変わらないのであればそれでいいのです」


 公也がいればフィリアも安心できる……まだ安心できるが、今回もまたシーヴェと一緒に街で買い出しである。それを勧めているのはアリルフィーラ、シーヴェと公也の中の進展を目論んでのものである。仮にも王妃、妻としての立場であるのにそういうことをするのは果たしてどうなのか、と思うところだがそこはアリルフィーラにも己の中に変わらぬ理由が存在するからだろう。そのあたりアリルフィーラはかなり特殊であるというだけだ。

 そんなことを話しつつ、二人は街の散策をしている。そんな中声をかける者はこの街にはいなかった……一般的なナンパ、という点では。


「すまない。少しよろしいだろうか」

「……誰でしょうか?」

「これから先、あなたを支え力の限り尽くしたい。仕え騎士として、側に、あなたと共にあることを望んでいる」

「…………えっと」

「いきなりあなたは何を言ってきているのですか?」


 唐突に愛の告白……かは厳密にはわからないが、そう思うような内容の言葉をアリルフィーラに投げかけてきた人物がいた。これはこれでフィリアの不安や心配をする先に近いものだったと言える。




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