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暴食者は異世界を貪る  作者: 蒼和考雪
四十七章 旅の道連れ
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8





 川の方から海の方へ。道の関係上公也たちが通る道は一度内陸の方を通ることとなる。川の方では魔物が良く出て危険な部分もあったが内へ向かば魔物も獣も数は少なくなり安全となる……自然も川の方と比べると格段に少なくなり、あまり見るべきものも少なくなり退屈である。


「魔物の素材の買取は普通のところだとしないんだな」

「みたいですね。魔法道具作りとかに使うんじゃ、ってキミヤさんが言ってましたし冒険者ギルドっぽく誰でも売れるかと思いましたけど……」

「基本的にこの辺りだと買取はしていないみたいだな。川の近くでは売れたが」

「なんであそこで売らなかったんです?」

「色々と素材の確認というか、残すものと売るものの分別とかしてたからかな。あそこにいた時点で売れるものはちゃんと売った。あの時点で解体ができていない代物もあったし、全部は売っていないが」


 公也とシーヴェで街に出て店を巡る……もっともそもそも街の中でもそう見て回るところは多くはない。アリルフィーラやフィリアを宿に待たせているし、必要な物を購入しついでにお土産みたいなものを二人のために買いつつ、魔石を売ったりしたりする程度である。そして今回川から内陸へと来て、売るものとして魔物の素材を売ろうかと思った。しかしそれはこの街では売るところがなかった……そもそも売ることができなかった。

 基本的に魔物の素材はそれを求める層が特殊なこともあり、集めるところが限定されている。そもそも魔物の退治もよほどのことがない限りは特定の人物が行う……そういうことを仕事としている人物が行うもの。誰でも行うことはなく、いきなり売りに来られても買取しないこととなっている。もっともふつうはそういうことがなかなか起こり得ない。魔物自体この大陸では内陸の方では少なく、遭遇すること自体それを目的としない限りはなかなかなく、旅の途中で会うにしてもそう数は多くないし素材としてもあまり価値の高いものは少ない。そのうえ旅の途中で嵩張る魔物の素材を保持しておくことが大変だ。また保管も面倒である。それゆえに普通は買取してもらうということにはならないだろう。その点において公也は特殊だった。

 魔物の素材を誰からも買取を行っているのはそれだけ魔物がたくさん出るところ……つまりは川の方、その近辺の街である。実際公也も普通に魔物の素材の買取はしてもらっている。この大陸において公也は魔物の解体を行っている……別にアンデールの方で行っていないわけではなく、こちらでは解体がより重要な要素があるというか、必要とされるものとなっているからである。何が必要かというと魔法道具作りである。魔法道具には魔物の素材を使うことがある、公也は色々素材を持っているので別にそこまで必要としないが現地で素材を使って作るのもありだろうということで確保している。そのため解体は必要不可欠、暇を見て……結構暇も多いので気晴らしに魔物の解体をしたりとか余った時間にしている。普段は自分でやらず誰かに任せるような感じになるだろう。まあそもそも解体せず始末することの方が多いような気がするが。


「残すんですか?」

「魔法道具作りに使えないかなと」

「……魔法道具作るんですか」

「実際この大陸で作られているのを見て、その魔法道具を参考にいろいろやってみようかな、と思ってる。まあそんな機会があるかもわからないが……余裕があればやるんだけど」

「割と余裕ありますよー? 大体やることもなくて馬車で暇してるじゃないですか」

「そうだな……旅は悪くないが、やれることが多くないし、見て回る者も少ないな」

「のんびりするのも時々は悪くないですけどね。ずっとは流石に……」

「もっといろいろと見て回るものがあってもいいと思うが……」

「それは馬車に文句を言っても仕方ないです。あとどのくらい旅を続けますか? フィリアさんもすごくアリルフィーラ様を心配していますし……」


 現状公也たちは大分暇である。旅を一緒に、あちこち見て回る……今回の目的はやることが充実した、様々な事柄が怒るようなわちゃっとした刺激のある物ではない。あくまで公也とアリルフィーラが普段あまりできない二人での旅、という目的である。フィリアやシーヴェもいるがそのあたりは問題ではなく、あくまで妃と王、夫婦としての立場が二人だけの旅ということが重要なものである。

 そういうことなのでただ二人……従者もいつつ二人で旅をする、というだけでも十分というのが現状であるが、しかしあまりにもそれだけというのはつまらないし寂しいし、そんなことをずっとしているのもどこまで意味があるのか。そもそも公也は王である。ずっと国を離れているのも問題がある。今回の件で一緒に移動してきた馬車も返さなければいけないしその馬車を用意してくれた国の方にも一度顔を出して挨拶しておく必要があるだろう。心配をかけているだろうし。

 そして特にフィリアがアリルフィーラのことを心配していることもあり、シーヴェも必要がないなら戻るのもありだ、と考えている。旅をのんびりするのも悪くないがずっとは流石に、という気持ちは彼女にもある。


「とりあえず海まで行って、未管理地域を旅する……その後は……あの山だな」

「山……あの大きい? 登るんですか?」

「それは今のところ考えていないが、登る可能性も考慮はしているな」

「えー……なんかすごいですけど登るのはちょっと大変そうですよ」

「そうだな。だが……気になるところもあるからな」

「気になるところですか?」

「………………まあ、あの雲とか」

「確かにずっとありますし気にはなりますけど……」


 公也は若干言葉を濁したうえで言ったが、気になるのは雲ではない。いや、雲は確かに気になる物であるがそちらよりも気になるところはあった。それは川、地脈である。


「………………」


 公也は遠目に見える山から流れる川に視線を向ける。川の流れは山から海へ、当然自然の、物理法則に逆らわない流れである。しかし地脈は違う。この大陸で大まかに感知しているときは把握できなかったが、地脈の流れは川から山へと向けて、である。これが自然なことかどうかはわからない。地脈の流れに関してはそもそも川などそこに存在する別の流れには影響しない。もっともこの大陸の地脈の流れは山から川を通しての流れ……向きとしては逆方向、川から山へと向けてであるが、それ自体がそもそも作られたような自然の流れではないものである。

 そしてそれは山の方へと向けて……山に恐らく四つの地脈が集中する流れだ。かつて公也はこれに近い流れを見たことがあった。あの時と比べると規模が段違いではあるが、それに近いものだったとすれば……山にかかる雲は何らかの意味がある、何かが隠されている可能性があると推測される。かつてメルシーネが生まれた時、地脈の流れが卵に集中していたような、そんなときのものに近い流れ……意図的に流されているのであれば、何かそこに意味がある物なのだろう。それが何の意味を持つのかは不明だが。



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