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「しかし、あれだと川を越えるのは一般的な視点だと無理難題だな」
「そうなのですか?」
「川に近づいただけであの巨大な魔物が出てきたのは見ていたと思うが……少し近寄っただけであれだ。川の上、川の中、水に入れば確実にもっと色々と出てくるだろうし、あれより近づけばもっと活性化するだろう……あの出てきた魔物は多分あの川でもそこまで強い方じゃない可能性がある」
「ええっ!? あれでですか!?
「……キミヤ様が倒しましたけど、あの規模であれば魔法使いが多数、冒険者も結構必要とするレベルではありませんか?」
「一応広範囲に強力な攻撃を叩き込める……要はあの水の馬さえ倒せるなら数をそろえる必要もないとは思う。水で生まれた動物の動きも決して早いっていうほどではないし、馬の方も動きはそこまで早くはない。ただ、普通の攻撃だけじゃ倒せないから水のような不定形な相手を倒せる手段は必須だが」
「十分に厄介なものですね」
川を超える、という話に関して船のことはアストロとの対話時に話題に上がったが、公也が思いつく川を渡る一番の手段は飛行することである。水は確かに厄介だが空を行くのには問題がない。魔法で空を飛ぶのは簡単ではないができないことはなく、魔法道具であれば魔石さえ用意できるなら魔法を使うよりもやりやすいだろう。ゆえに川を超えるのは難しいということに疑問があったが、今回川に近づきその様子を見ることでその内容を信じることになった。
つまりは川の魔物が凶悪すぎるがゆえに、川を進むどころか川の上を渡ることにすら難があるということである。川に近づいた公也が遭遇したのは巨大な下半身が水の馬の魔物であったが、それ以外にも多様な魔物がいるだろう。海と見間違うような広大、遠くまで続く幅のとても大きな川である。深さも相当なもので淡水ながらほぼ海、あるいは湖のような者に近いと思っていい、もちろんそれでも川は川であるが。そこに存在する生態系は複雑で、さらに言えば地脈の真上、地脈から漏れる力の影響も大きく、魔物も多種多様に発生し得る。この大陸のあちこちでわずかに出てくる魔物程度目ではなく、とんでもなく強大な魔物がいくらでも発生し得るものである。川の上に人のような存在が現れれば、そういった魔物を刺激し活性化させてしまう。襲われるだけならいいが最悪今回の馬の魔物のように川の外に出てくるような例も出てくるだろう。
そういったあれこれがあるがゆえに川越えは一般的にできないとされているのだろう。ただ、四島の他の島からの侵入者、スパイのような存在に関しての話もあった。それらの存在がある以上川越え自体は不可能ではなく、やはり水を進むよりは空を進む方が川越えの手段として使われている可能性は高いかもしれない。
「それで。川に近づくのはよろしくないということがわかりましたが」
「そうだな。川の様子、事情、ある程度は分かった」
「そういう問題ではありません。キミヤ様が魔法を使うこと自体面倒を引き寄せる可能性があるということでしょう?」
「……そうだな」
魔法を使うことの問題に関して忠告されたばかり。別に魔法道具に見えるような攻撃性能の低い魔法は幾らでも使っていいだろうが、今回の相手のように強力な相手に対してはどうしても強大な魔法を使うことがあり得る。その場合魔法使いであることがバレ面倒なことになり得る。つまり川の側に行けばそういう事態を招きかねないためあまりちかづkのはよくないということだ。特に公也は他の人間よりも強く大きな力を持つ存在であるがゆえに強力な存在が鋭敏に察知し引き寄せかねないという問題もある。今回色々とわかったりこれ以上近づく必要はない。
「他の島に渡ったりはしないのですか?」
「流石にそれは危険でしょう」
「そうだな。興味がないわけじゃないが、今回は別に……アリルフィーラが一緒にいる状態で渡るのはな」
「あんな魔物が出てくるようなとこ対策なしで行くのは怖すぎです」
「あら……全員行かないで意見は一致するのね」
「行ってもこの島と大きく違いがあるかもわからない。またこちらに来た時、メルで川の中の魔物たちに刺激を与えることなく移動するのがいいだろう」
今回公也たちが旅をするのはあくまで今いる島のみ、この大陸全て……四島のすべてを渡るつもりは流石に公也も考えてはいないようだ。ただ、いずれはこの大陸に来て各島を渡ってみるつもりはあるらしい。まあこの大陸のそれぞれの島でどれほどの違いがあるかは怪しい。魔法道具が広まっているのはこの島だけではなくこの大陸全土であり、それぞれの島の状況、仕組みは特に違っていたわけではない。もちろん交流が薄まりなくなり、それからどれほどの時が立っているかと考えれば独自の発展を遂げていてもおかしくはないが、それでもそれぞれの島の特徴に合わせた発展や多少違いのある独自の魔法道具の作成など、そこまで極端な違いはないだろうと思われる。であれば行って何か得られるようなことがあるか、その点について疑問が浮かぶ。
「それで次はどこに行くつもりですか? わざわざこんな危険なところまで来る必要はありましたか?」
「意味がなかったとは言わないだろう。アストロと話して知れたこともあるが、それ以外にもまだまだ知らないことは多いわけだし。情報を得られたのは悪くはないと思う」
「確かに無意味ではありませんが……」
「この辺りでないと知らないこともあっただろうし、やはりこの大陸の川に関する情報は重要じゃないか? 大陸を分かつ四つの川なんだし」
「…………わかりました。来る必要はあった、ということでしょう。それで、次はどこに行くのです? いつまでも旅をし続けるわけにもいきませんし、いずれはアンデールの方に戻るのでしょう? 目的地がないのであればもう戻ってもいいでしょう」
「海の方に行くつもりだが」
「………………」
「やっぱりフィリアは危険なところに行くのに文句があるのですね」
「何も言っていません」
「言ってなくてもわかりますよ……心配してくれるのはありがたく思います。でも公也様がいるので危険は問題ないですから」
「…………わかっています」
次の目的地は海の方らしい。話に聞く限りでは川と大差がない環境であるということで川に近づいた時と同じ、街の方も似たようなものでは……というのがフィリア推測である。もっともそれ以外の目的地となると今度はおそらく未管理地域だろう。結局どこに行くことになろうと危険はあることに変わりなく、フィリアの心労は募るばかりだ……結構な苦労人気質である。




