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暴食者は異世界を貪る  作者: 蒼和考雪
四十七章 旅の道連れ
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3




「あんだらみだいなの、珍しいわ。ええんとこの出やろ? よぐこんなどこきたけ」

「俺たちのような貴族やその関係者は個々には来ないのか?」

「そんなごとなが。たんだ殆ど滅多なごとでくることなかけん。こんご住んどるお人らは別んやけどな」

「そうか」

「あんま出歩かん方が良かと。こんご乱暴なん多かとよ。かんねやもっとったら寄ごぜ言われて襲われるごともめずんらしくね」

「……それはまた危ない話だな。ところでここでどこか馬車を置ける宿はないか?」

「馬車が? 特別置げるとこはなか。たんだどこん宿でも馬車で行っても良かと」

「馬車を置く場所は?」

「宿ん前や。だんれも見張ることせんけ。夜番置いとかんと盗られても知られんよ」

「……なるほど」


 川の近くまで来て、それなりに近くにあった街に入った公也たち。街へ入る分には特にそこまで厳しい追及みたいなものはない。もともとこの大陸では人の出入りはそこまで厳しく見られているわけでもない。しかしそれを考えてもこの街は大分緩いようには感じる。その緩さの原因はやはり周囲の状況、環境の影響が大きい。この大陸ではほとんどの街で魔物が出ないことから外への防御のための体制が整っていない。戦争の類も島同士の争いはともかく、同じ島内ではあまりない。ある時もあるようだがそういった事態はほとんどない……魔法道具の使用が戦闘の要であり、そのために必要な魔石を牛耳る大本の存在、国の根幹、トップがそういった魔石や魔法道具の管理を行っているがゆえに争うことが難しい状況にあるからだろう。一応四島はそれぞれの島で一つの国が基本に近い。もっとも未管理地域もあるし決してそれが絶対とは言えない。

 まあともかく、外への危険への体制が整っていない……整えられない。しかし川の近くまで来ると川の方から魔物が来ることもある。それに対応する方法は結局のところ人力、いわゆる冒険者とかそういう類に力を頼るような形が基本となる。だがこの大陸には冒険者が存在しないわけであり、戦力に期待することはできない……魔法道具を使う形にするにしても魔法道具も魔石もその総数に限度がある。ただ、それでも人間そのものが一切戦えないわけではない。ゆえに荒事に長けた人間が集まるようになる……それが無法とまではいかないが荒れた街の状況を作り出すに至っている。力ある人間は決して品行方正な人間ばかりではない、むしろそういう方向に成長する要因があるからこそ力を得る……すなわち暴力経験が多い、ということになる。暴力経験とはつまりそのまま暴力行為、大抵は悪いこと。犯罪者……とまではいかない、いや、大抵は犯罪行為だろうから悪い人間、そうでなくとも真っ当ではない人間の方が多いだろう。

 つまりそういう人間が多く集まるがゆえに問題事、騒動事は多い。恐喝盗難、様々なことが起きる。とはいえ、場所柄というか街の成立要因もあり、本当に重大な犯罪は対応が厳しいためあまり起きない。具体的には殺人など。もっとも全く起きないわけではないし騒動の延長で殺人になってしまうこととかもある。そもそもただの街の人間ならともかく貴族の類か関係者とみられる公也……公也に限らずそういった人間相手に揉め事を起こせば別方面で問題になる。なので直接的なことはおそらく怒らないだろう、と言ったところだ。もっとも盗難は起こり得る。そういう意味で馬車は管理が面倒というか厄介なものになるだろう。


「それで宿は?」




「外に出しておくしかないと」

「盗まれる可能性があるのは問題ですね。この馬車は元々私たちのものではないですし」

「問題はそこではないと思いますが……」

「そっちも問題ですけど今重要なのって盗られると移動が大変になりますね」

「まあ、そもそも自分の物を誰かに盗られるのは嫌だけどな」

「そうですね」


 馬車に関してはこの街ではどこに止まるにしても街の外に出しておくしかない。しかしそうすると馬車の安全は保証できない、保証されない。そもそもこの街の宿がそういう体制なのもこの街の荒事が原因というか、下手に厩舎などを作っても襲われ破壊されるような状況なのが原因というか。つまり宿側の安全を確保するためにそうしている、というのもある。

 元々こんなところに馬車に乗って旅してくる貴族の類は無いし、商人などもろくに存在しない。一応魔石の補給、魔法道具の運搬などを担う関係者が来ることはあるが、この街に滞在しなかったり、するにしてもこの街の事情を分かっているためきちんと対策をしていることが多い。


「防御の魔法道具で何とかなるか?」

「かもしれませんが、一番の安全はキミヤ様が乗っていることでしょう」

「宿があるのに公也様を馬車に止まらせるつもりですか?」

「それは流石にどうかと思います、わたしも」

「……しかし馬車を残しておくわけにも」

「空間魔法で使っている別空間に移動させるのはありかな」

「……そうでしたね、そういうこともできますねキミヤ様は」

「あるいは隔離の防御魔法でも張っておくのもありだろう。魔法道具で安全は分からなくても俺が魔法を使うなら確実なものができる」

「それなら問題はありませんね。どちらにしますか?」

「流石に馬車が丸々消えるのはどうかと思うし、馬の問題もあるからな……隔離して外からの干渉を完全に遮断する方がいいだろう。空間魔法は安全性もわからないし」


 外に馬車を出しておくと盗まれる……と事前にわかっているのであれば対策は簡単、馬車自体を手の出せない場所にしまい込むか、あるいは馬車自体に手を出せなくすることである。防御の魔法道具があるので多少外部からの攻撃は何とかなる……が、別に攻撃でない乗り込んで奪うとか、馬車を操作して馬を走らせることはそもそも魔法道具で防ぐことはできない。防ぐつもりがあるならば防犯の魔法道具とかそういうものになるだろう。盗難されること自体、その行為自体は問題であるため警報の魔法道具でも仕掛けておけば盗まれる確率は下がる。盗みに入られる確率は別に下がらないとしても。

 しかしそういった魔法道具ない以上、公也が取れる手は空間魔法で別空間に移動させるか、あるいは風や空間の魔法で外から干渉できなくすることくらい。前者は馬車の存在が完全になくなるため不思議に思われる、怪しまれる可能性があるし空間魔法で作った別空間は安全とも限らないため、今回公也が使うのは干渉できなくする隔離の魔法のようである。これはこれで魔法道具に同じようなものがないため謎に思われるだろうが、まだあり得る現象、わかりやすい現象であるためそこまで不思議には思われないだろう。


「とりあえずまずはどこの宿にするかだな」

「安全面がどこでも同じなら質のいい宿でお願いします。アリルフィーラ様が泊まられるのですから」

「私が止まるかどうかはあまり関係ないと思うけど、皆で泊まるのですもの。いい宿がいいでしょうね」

「お金はなんとかなってますもんね……この街でもやっぱり?」

「売る……つもりだが、ここは結構特殊だから状況次第かな」


 魔石を売ることをこの街でするのは良いことか。馬車を盗むような相手もいるわけであるし、あまり大金を得るような様子を見せるのは良くないかもしれない。まあ何にしてもある程度この街の情報を得てから行動することになる。どちらかというとこの街自体が目的ではなく川の方が目的であるため、そこまで滞在しない可能性あるし、どうなるかも不確定である。




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