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暴食者は異世界を貪る  作者: 蒼和考雪
四十七章 旅の道連れ
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「平和だな」

「そうですね。魔物がほとんどいないだけでこれだけ楽になるものですか」

「別にあちらでもそこまで危険があるわけではないと思いますけど。でも確かに止まることも少ないですし、警戒する必要も薄いのはありがたいですね」

「見晴らしもいいですもんねー。おかげで危ないものがあるかもすぐにわかります」

「見るものがない、ろくに何もないともいえるけどな……」


 公也たちは馬車に乗って旅をしている。いろいろごちゃごちゃとした魔法道具を使っていたり、馬も流石にずっと移動しているわけにはいかないが、十分な旅路となっている。そもそもこちらの大陸は魔物がほぼいない状況であり、地脈の流れが川の方に集中しておりそこから漏れた水脈から地脈の影響が発生する状況にあり、自然環境、森などの自然のあれやこれやも特定の場所にしかない……通常の場所では樹々すらあまり生えるようなことはない。多くの場所は薄い緑の野原や丘、流石に荒野とまではなっていないにしても大体は高い木や草もない見通しのいい場所となっている。だからこそ獣や魔物の危険も薄いし、見通しが良く目立つゆえに盗賊なども発生しづらいということになる。そしてそれだけ色々と何もない状況にあるわけだから移動も足を取られるようなことがなく、早い移動となる。

 だからこそ平和、ともいえる。争う存在も争いに有利になる要因も少ないがゆえに。もっともそれは結局あまり目立ったものがない場所であるという事実を示すものでもあるだろう。公也にとっては興味を惹くようなものがない……まあ、この状況、場所、環境もある意味では興味を惹くものであるため公也として面白みがないとまでは言わないが、やはり何か目立つ者が欲しいところである。


「しかしこの平和も今だけですか……」

「フィリア、あまり気にしすぎるのもどうかと思いますよ?」

「これから川の方に向かうのです。魔物がいるらしい場所です。警戒して然るべきかと」

「川なら別にそこまで危険じゃなくないですか? 川に近づいたりは要らなかったらいいだけですし」

「甘いですよシーヴェ。空を飛ぶ魚の魔物も時にはいるものです。水中にいるから地上の存在に攻撃できないわけではありません。あるいは水中の魔物でも陸上で活動できる魔物だっているのですから」

「えっ」

「シーヴェも過酷な環境で過ごしていたのなら多種多様な魔物を見ていてもおかしくはないでしょう……まあ、魔物もその場所次第ですし、絶対に同じ魔物がいるわけでもないみたいですから。それに魔物自体も多種多様ですし。ですがあまり見ていないというのも……アリルフィーラ様について行っている過程で色々い見る機会も……いえ、そこまで危険なことになることはなかったですね。見せる……いえ、そんな機会も余裕もないでしょう。ならばしっかり知識をつけさせて……」

「あ、あの、フィリアさん?」


 これからのシーヴェの教育に関していろいろと考えているフィリア。魔物について知っておくことはいざというときにアリルフィーラを守る糧となる……かはわからないが、四ヴェが無知なままではいろいろ支障が出るかもしれないと若干厳しめにいろいろしようと考えているようだ。空を飛ぶような危険がある魔物のことを知らなかった、あるいは水中海中の魔物でも陸にいれば安全であるなどと思うこと、それは良くない。魔物は何をするかわからない、この世界の当たり前を超えてくるような存在だからこそ魔物なのである。空を泳ぐ魚も空を歩く獣なんかもいるだろうし、もしかしたら土の中を泳げる魚などもいるかもしれない。決して水中に魔物が発生する、存在する状況だから安全とは限らない……少なくとも近づくのであればちゃんと警戒しておくべきである。もっとも一番安全なのはそもそも近づかないことだろうが。


「まあそのあたりのことはフィリアに任せるしかないな」

「そうですね」

「ちょっとー!? 二人ともー!?」







「少し自然が増えてきたな」

「今までがむしろなさ過ぎたというべきですが……」

「川が近づいてきたか」

「まだ見えませんね。流石にまだ遠いってことですか?」

「そうだろうな……まだ遠いか」


 馬車で進む道、その先にぽつぽつと木々が生え、緑……自然が徐々に豊かになっている。大陸の中心側の方から離れかなりの距離を進み、ようやく川に大分近づいてきた……そんな状況の様だ。一応川に近づけば自然が増えてきている、地脈関連で公也も何か感じるか……そう考えるが、今のところはっきりとしたことは分からない。地脈に関しても厳密に何もかもわかっているわけではない。ただ、そもそも前提として色々と不自然なのは確実である。世界の地脈の流れを考えここまであまりにも綺麗に流れが作られているのは妙である。


「人工的……でも誰が、って問題があるか」

「何がですか?」

「ああ、独り言、考え事だ。魔物が発生するのが川沿いや海の近くとかそういうのは普通じゃないって話だ」

「越えるのに一日かかるような巨大な川というのも凄い話ですね。あちらに同じようなものはあったかしら?」

「なかったと思います……が、私も知る限りで思い当たるものがないというだけでどこに何があるかもわかりません。以前聞いたとても巨大な樹のようなものがあるわけですし、何かそういったものがあってもおかしくはないでしょう……もっとも川となるとここの話に出てきた規模となると多くの国を跨ぐでしょうから恐らくはないと思います。ここまで大規模なものでなければもしかしたらあるかもしれませんが」


 この大陸の河川事情はかなりおかしいというか、大陸を四つに分ける川とそこに走る地脈……それが果たして自然にでき得るものか、と疑問に思うところである。普通の場所でも地脈の流れはある程度まとまるところはあるが、それでも結構分散した流れが存在する。しかしこちらでは川から漏れた水脈に地脈の漏れが乗って、というもの以外がない。そもそも地脈の流れが川に四方向にまっすぐというのがおかしい。

 まあそれがわかるのも公也か、ここにいない夢見花くらい……もしかしたらこの世界にわかる存在はいるかもしれないが、把握できる存在はとても少ないだろう。そしておそらくこの大陸にはいない。いる場合があるとすればよほど特殊な特異存在、となるだろう。もっとも現状何かそれが重要であるというわけでもない。他所のことである以上公也たちはそこに存在する問題に対して警戒し安全に楽しむ、観光する、そのあたりのことを優先するだけである。調査して何かわかってもその問題解決はまた別の話。まあ、手を架したり何かしたりを一切しないとも限らないが……今のところその予定はないだろう。




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