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「聞きたいのですが、何かいい観光地みたいなものはありますか?」
「急な話だ。四島のことで観光地を聞くなんて……」
「ふふ。公也様はそういった場所のことも知りたがるでしょうから」
「確かに興味はあるが……まあ、聞くにしても何を聞けばいいかと迷うところもある。大陸を見て回るつもりだからどうせなら面白い興味を惹くようなところがいいということもないではないが……」
「幾らか魔法道具を使った独自の都市、というのはなくもないですが」
アリルフィーラが観光地に関して話を聞く、結構重要な話をしている状況で聞くようなことではない……と思わなくもないが、そもそも何が重要で何を聞く必要があるのか現状思いつかず、とりあえずいろいろぱっと思いついたことを聞く状況である。観光地などこの先どこに行くか、目的となる場所について聞くことは護衛が終わった後のことを考えると悪くはないだろう。
「魔法道具を使った独自の都市?」
「魔法道具も千差万別、攻撃系や防御系の魔法道具はもちろん、生活や仕事に使うような魔法道具もあります。当然その中には観光の目玉になるような特別な効果を持たせる魔法道具、巨大で一点物の類を見ないような魔法道具もあるでしょう。そうだな、確か大時計塔とか……虹光樹とかがあったか。大体は巨大なものだが……」
「ふむ……まあ魔法道具ならいろいろできるだろうからな。そういう者を作っているところもあるか」
「あるようだ。魔石の消費もバカにならないしあまりそういうところが増えるとこちらも困るんですけどね」
魔法道具を町興しの道具にする、というのは決して悪いことではない。魔法道具は様々なことに使えるわけだし目立たせることも難しくない。街のシンボルとして使うこともあり得るだろう。ただ、巨大な魔法道具などは作るのも面倒だし、その効果を発揮するために必要な魔石の量も多くなる。街の顔として機能させるためにずっと使い続けるのであれば当然魔石の消費は大きくなる。魔石の供給量は各地にどれだけ供給するか決まっている。そういった巨大な目立つ魔法道具に魔石を使用していればほかの魔法道具に使う魔石が出回らなくなってしまう。生活や仕事に密接な魔法道具の使用ができなくなってしまうのは問題としては大きいだろう。攻撃系や防御系の魔法道具に使う魔石も減ってしまうし、目立つ魔法道具があっても魔石の不便で立ち寄る人は減りかねない、街の住人へも悪影響だ。ゆえに簡単ではない。そして実現しているところも問題が多くあまいいいことばかりではない。だからこそアストロも困ると愚痴っている感じである。
そもそも観光と言ってもこの大陸ではそこまで多いわけでもない。魔法道具があるためあちこち比較的移動しやすい、動物や魔物の危険も多くはないし問題はないわけだが、そもそも移動する意理由があるわけでもない。商人でもなければなかなかないだろう。旅人になるような人物も多いわけではない。結局観光地自体はそこまではない。大体は目立つ何かが置かれているくらいである。
「……実力があるなら川や海の方に行くのもありだろう」
「川に海……魔物か」
「魔法道具を使い海や川の魔物をとる、という仕事はあります。もっともそれだけではなく川や海の周りは魔物が比較的でやすいのです」
「……なるほど」
川や海、水中には魔物がいる。これはこの大陸の地脈の事情である。この大陸の地脈は川と海、島の周りに巡っている。その都合上水中は魔物の宝庫である。地上に出る魔物は地脈の影響を受けた川から流れた水脈の影響が大きい。また一切地脈の流れがないわけでもなく、その点からである。さて、川や海に地脈が巡っていれば地上一切魔物が出ない……わけではない。川や海の付近は他の場所よりも魔物が出やすい。流石に川や海自体が地脈の影響を外、地上の方に出すのを抑えるためそこまで出やすいわけではないのだが……それでも他の場所よりは魔物の数が多くなるのは間違いない。
公也たち……いや、公也であればそういった魔物を相手にすることは余裕だしそれはそれで楽しめるだろう。魔物が普通の場所よりも多いということもあり攻撃や防御の魔法道具も出回りやすく、入手もしやすくなる。首都を含め魔物が出ない地域の安全のため魔石などの類も多く、色々と物資の充実がある。
しかし同時にその地域は治安が悪くもなる。首都付近では盗賊などがほとんど出ない、ということだが地方は増える、それは端の方になればなるほど増える……魔物が出るがゆえに荒くれ者、実力者も増えるし攻撃系の魔法道具が入手しやすくなればその分だけそういった魔法道具を別の方向に利用する輩も増える。そういう事情で実力があるなら面白くはなるだろう。
「一応注意はしておきますが、それ以外にも未管理地域が存在します」
「未管理地域……まあどういう意味かは分かるが」
「名前の通り、国の管理に入っていない場所です。魔物が出ないとはいえ、人が過ごすのに適さない地は多い」
地脈の巡りがない場所は不毛の大地となる……世界に満ちる力である地脈のない場所では生物の発生が難しい。生育は不可能ではないとはいえ、魔力の漏れによる微細な発生も少なくなるのであればなかなかやり辛い。なのでこの地に人の手の入っていない場所もある……あるいは強い魔物が発生しているのが原因な場所もあるだろう。魔物が地上では発生しにくいこの大陸だが一切発生しないわけでもないし、水脈を伝って地脈の影響を受ける点から場所によっては地脈の影響の大きな場所もある。稀に魔物が発生するということもあるがそれは地脈の漏れの魔力を長期に集めた結果……この世界の理屈、理論、法則、そのあたりの事情は不明だが、ともかく強力な魔物がこの地域、大陸で発生することがないわけではない。そしてそういった魔物相手に魔法道具を使って立ち向かえるか……結構厳しい面がある。できないわけではないが数が増えると厄介になってくるだろう。はっきり言って発展の余地のない地域にわざわざ手を広げる必要はない……そもそも今現在人の手の入っていない土地も多い。まずは近場の人が過ごせる地域を発展させる方が重要である。ゆえにそういった場所に手は出さない。
「色々とこの大陸にもあるんだな」
「魔法道具が発展し技術的にも悪くない場所ですが……人の手に及ばない場所はまだまだ多いのです」
魔法道具があれば何でもできる、最強であるというわけでもない。いや、むしろ個人の成長がない分こちらの大陸はなかなか厳しい状況にあるのかもしれない。魔物の発生が起きない、地脈の影響がかなり薄いというのは魔物だけではなく人への影響もある。魔法使いの発生がこの大陸では他の大陸よりも少ないだろう。なかなか厳しい状況である。




