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「まず、四島とは何だ?」
「この大陸のことですね」
「大陸なのに島なんですか?」
「そうですね……島というにはあまりに大きすぎるし一応は地続きではある。だけど島と名付けられているには少し複雑な事情がある」
公也とアリルフィーラがアストロと話をして情報収集をしている。シーヴェとフィリアは片づけや夜の準備などいろいろとやっている。二人は無理に会話に参加する立場にない。あくまで従者であり主……アリルフィーラと公也に従う立場だ。そもそも聞きたいようなこともない。この大陸に興味がないとは言わないが、基本的には主に従い主のために働く以上の者ではないからである。
「今は暗いからあまり見えないだろうが、向こうにとても大きな山があるのは知っているだろう?」
「ああ」
「雲がかかっていて頂上が見えない巨大な山ですね」
「あの山の上の方から水が流れてきているのは?」
「……川だな。距離感がよくわからないが、それなりに大きな川がある」
「それなりどころではないものです。あの山から流れてくる川は向こう岸が見えないくらいに大きな川なのです」
「……そんなに大きな川なんですか?」
「そうですね、仮に船で渡るにしても一日はかかるのではないでしょうか」
「……それは川でいいのか?」
「海とは違います。それに一応とても深いですが地面もありますし……一応は川でいいと思います。水も淡水のようですから」
公也たちはそこまで気にかからないというか、気にしたこともないが、山から川が流れてきている。公也たちから見てもそこそこの大きさがあるのは分かるが、川の一つ二つあるからなんだという気持ちになるだろう。もっとも距離的な関係上、公也達でもはっきりと川があると見えるそれはとても大きな川である。船で一日はかかるだろう大きさの川、向こう岸までの距離がとてもある大きな川である。果たして川というのが正しいのか、と思う程度には大きな川である。
「この大陸はそれぞれの島が四つの大きな川で隔てられています。一日かかって渡るような大きな川になりますから当然向こう岸に行くのは難しい、それぞれが孤立した地となっているため四つの島の集まりである大陸として四島と呼ばれています」
「孤立している? 川を渡れるんだろう?」
「渡ろうと思えばとても大きな苦労をしたうえで渡ることができる」
「苦労……ですか」
「川にはうようよ魔物がいるんだ。船で渡るにしてもその魔物たちをどうにかできなければわたることができない」
「魔物? 川には魔物がいるのか?」
「はい。水の中には魔物がたくさん……こうして私たちが生活する地上ではほとんど見かけないのに川の中にはうようよと、それも強い魔物がいるんです。川の付近も比較的魔物が多く、船を作り運ぶのも大変ですし生活拠点を作るのも厳しい、魔法道具があっても魔石がいくらあっても消耗が計り知れない……はっきり言って川を渡るのにコストが大きすぎて向こうにわたる理由が存在しない状況なんです」
四島と呼ばれるこの大陸の名の由来はそれぞれが川によって隔てられ巨大な島のようになっているから、である。川であれば渡ればいいとか端を駆ければいい、と考えるかもしれないが橋をかける場合はとても長い橋になる。まず普通に橋をかけるのが難しい。長さを維持するためにつるのも厳しいし、川底に柱をというには川底が深すぎる。数メートルとかじゃなく、少なくとも数十はあるし、下手をすれば百メートル単位になるかもしれない。もはやそれなりの深い海底レベルの底の深さである。それでも柱を置くことができないとは言わないが……問題は川にいる魔物である。
この大陸にて公也たちは魔物とほぼ出会うことはなく、冒険者ギルドも内容に魔物の脅威はよほど特殊な事例でもなければない。一応魔物が一切生まれないわけではなく、極稀に強力な魔物の発生がこの大陸でもあるがよほど珍しい事例で数年単位で出るようなものでなく数十年、百年単位になり得るような頻度での出現となる。しかし川の中や海の中は別だ。公也と夢見花が把握している通り、この大陸の地脈はかなり特殊な状態となっている。この大陸の地脈は四つの流れがあり、それらは全て川を通ることとなっている。さらに言えば大陸周りの海を囲うような形にもなっており、川も海も魔物だらけな状況である。地上では出ない代わりか水中海中の魔物は異常なほど多く、また強い。
魔法道具の開発が進んでいても、魔物への脅威はある程度までしかできていない。強力な魔法道具を作れても相手の数が数、さらに言えば水中の相手に対してどれほど有効打を出せるか。さらに言えば彼らが川を渡る場合は船を使わなければならず、魔法道具で狙えない場所もできるし船を攻撃されてしまえば魔法道具で攻撃できても自分たちが沈んでしまう、それでは意味がない、渡れないし渡ろうとした人員が全滅することになるだろう。個の強さがないゆえに、川を渡ることが難しい……まあ仮にこの強さがあってもAランクの冒険者がいなければ川を渡るのは不可能に近いような状況だろう。Aランク冒険者がいても無理かもしれない。それくらいに厳しい。
「さらに言えば、四島はそれぞれ敵対関係にある」
「……なぜ?」
「それは今の私たちにはわかりません。過去に何かがあったようで、それからずっと敵対関係が続いている形です。もっとも向こうにわたることも難しいですし、向こうから渡ってくることも難しい。関係を改善するにもそもそも話し合いの場を作ることができない。結局のところ無関係な状況となっている形です」
「……川が結局のところ大きな壁になっているわけか」
「そうですね」
四島はそれぞれ敵対関係にある……あくまで過去にいろいろと何かあった結果の因縁であるわけだが、現状そもそも交流自体がないというか、よほどのことがなければ川を渡る理由もないという点、そもそも渡ることが難しいということもあり、敵対関係は維持されたままその関係性自体が形骸的なものとなっているのが現状である。ただ、敵対関係自体があるということは知られているし、公也たちが怪しまれたようにたまにスパイのような存在が入ってくることはあるようだ。魔法道具でも川を渡ることは難しいと言っても本当に全くそれが不可能というわけではない。ただ、集団で渡るようなことはほぼ無理で個人で渡るしかない。その成功率も微妙なところである。
「とりあえず四島という大陸自体はそんなところですね」
「海を渡ることは?」
「海も川と変わりません。そもそも船を使う技術が発達していない。作ったところですぐに破壊されまともに川や海に出られない……そんな状況で船を作るのも扱う技術も成長するわけがない」
「それはまた……」
この大陸の人間は大陸の外に出ることはなく、それぞれの島の住人は他の島に行くこともない。過去にはある程度の交流はあり、それぞれの島の番号というか四つの島それぞれに数字が振られたのが名残としてはある。しかしそれだけ、今はもうそれぞれ孤立しそれぞれで活動している。それがこの大陸の現状である。




