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暴食者は異世界を貪る  作者: 蒼和考雪
四十六章 神渡り
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「……それを聞いてどうする?」

「どうするとは?」

「はっきり言うなら……敵対するのか、しないか、だ」

「…………」


 言葉に乗せてじわりと公也が己の気配を強める。基本的に公也は普段は強者の気配を見せないし、戦闘中でも肉体的な強さはともかく気配的な部分ではあまり強い気配にはならない。ただ、今みたいに強くその気配を意図的に見せる形で出す、強めることができるし、本当に強い存在は公也の持つ内在する力に気づく形でその強さを察知する。


「恐ろしい、と感じる。本当にあなたは……」

「魔法道具は便利だな。だけど、魔法道具は魔法道具が強いだけで扱う人間が強いわけじゃない」

「…………」

「もし、一対一で戦うなら、魔法道具の恩恵を得られない状況で戦うなら、誰が勝つと思う?」

「………………」

「まあ魔法道具の中には防御の魔法道具だってあるだろうし、常時起動しているようなものもあるだろう。だから安心、問題なくやれる……というわけでもないんじゃないか?」

「……………………」

「何かしゃべらないのか?」

「あなたが怖すぎる」


 この大陸では魔法道具が発達し、それらを使った戦い方、技術が発達している。そして何より魔物がいない。魔法使いたちも個人の魔法より魔法道具や魔石にその力を費やしている。さて、そういった経緯をたどっているこの大陸において、個々人の戦闘の雨量くとは如何ほどなものか。肉体的に鍛えている者はいるだろう、しかしその鍛え方は魔物を相手することを想定しているものではない。魔法道具を使う人間相手に戦うことを想定しており、結局のところ魔法道具への対処は魔法道具によるものとなり人間個人の強さはそもそもほぼ想定されるものではない。魔法道具の扱い方、魔法道具の強さ、魔法道具の種類、そういったものが戦闘の強さになる。

 要は個人の強さは尊重されない環境である。そもそもいくら鍛えても魔法道具相手にまともに戦えるわけがないわけである。まあ、公也のいた大陸の冒険者の中には普通に魔法道具以上の強さを持つ攻撃ができる冒険者もいるわけであるが……こちらでは冒険者もいないわけであるし、そういった強さを持つ存在はいない。つまり公也の様や圧倒的な強さを持ち強い気配を出すような存在はいない……そんな未知なる感覚をアストロは感じている。ゆえに恐ろしくどうすればいいのかと動けずに困っている状況である。


「キミヤ様、相手は普通の人ですから……」

「そうか」

「…………本当にあなたは何者なのですか?」

「一つ、約束してくれるのであれば話してもいい」

「……何だ?」

「俺たちのことは他の誰にも伝えない。絶対にそれを守るなら」

「…………あなた方がこの地にとって、この国にとって敵となる可能性がある。そういった場合に伝えないわけには」

「勝てるとでも? 魔法道具を使って、俺に挑み勝てるか?」

「……………………」


 公也は自分たちのことを誰かに伝えなければ話してもいい、とアストロに伝える。アストロからすれば公也たちが何者かわからないのが問題……というわけではなく、公也たちが敵かもしれないという問題があるからその素性を知りたがっているわけである。それを伝えるな、と言われても……もし敵になるなら伝えないわけにもいかない。危険すぎる公也は何とかして排除するしかないわけである。

 もっとも、公也の言う通り魔法道具を使い勝つことができるかどうか。そもそも公也の強さなどアストロにはわからないわけであるが、今感じた通り公也の持つ強さ、気配……それを受けて魔法道具を使って倒せるだろうかとつい思う程度には、公也の存在は恐ろしいものと感じてしまっている。実際魔法道具を使っても公也は倒せない。ただその強さの実体はアストロもつかめていないため確信はできないわけであるが。


「それでも伝えなければならない場合もある。私もこの国の人間だ。必要なら、命を張る」

「…………そこまでするものか」

「公也様。別に伝えてもいいのではないでしょうか? そもそももともと私たちは誰かと争うような理由もないわけですし」

「……それは向こうが決めることだからな。確かに俺たちは根本的に迷子のようなものだから理由なんてないだろうけど」

「……迷子?」

「神渡りを知っていますか? 私たちはそれでこの地に迷い込んだんです」

「……神渡り。少しだけ……聞いたことがあるような……」

「唐突な転移現象、突発的な事故みたいなものだ。その転移現象で俺たちはこの地に来たんだ……この地がどういう場所か知らないわけであるし、あくまで観光目的に近い理由で旅をしているのが現状だ。戻る手段はあるからな」

「転移……つまりあなた方は、この地……いえ、この大陸、四島の外の人間であると?」

「少なくともこの周辺ではないだろう」


 アストロの気概に感化されて……というわけでもないが、アリルフィーラがあっさり自分たちのことをばらす。そもそも公也たちのことに関しては絶対に伝えられないような内容ではない。一応盗賊を相手にしていた時に怪しまれたため面倒ごとに繋がる可能性があるかもという理由であまり積極的に話したくはないというだけであり、四島の他の島、という話を聞けば外からの来訪者はそもそも歓迎されるものではない。

 とはいえ、公也たちは四島というこの大陸の外の人間なわけである。そうなるとそもそもからして関係のない相手であり、ゆえに敵になるようなこともないという話になってくる。四島が公也たちのいる大陸からはるか遠い場所というのはすでに公也の関係者とのつながりでわかっている。なので公也たちはまず敵になるようなことはないだろう。


「…………それならまだ、安心……なのか?」

「俺に聞かれてもわからないな。ただ、別にこの地に害を及ぼそうとかそういうつもりはない。いろいろ見て回り、魔法道具とか面白そうだから買ったりして集めてみたりとかそんなことをする程度だよ」

「……そうか。なら心配はなさそうだ……言っていることが全部本当ならですが」

「そこまで心配するのはしつこいような気がするが」


 アストロからすれば話を全部聞いても信じきれるものではないというか、確証のある内容ではない。ゆえにまだ疑いは持っている。それでも多少は警戒は薄れているようだ。



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