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暴食者は異世界を貪る  作者: 蒼和考雪
四十六章 神渡り
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 公也たちの馬車に乗るのはマービィとなったようだ。公也たちは話し合いの末、乗せることに決定した……そもそも護衛としてついていくこともあり、一応は依頼者であるアストロ側の意見を拒否するのもどうかという想いもあった。馬車自体は公也たちが参加する宴に誘った王族が使っていた物であり四人で満杯になる、ということもなくそれなりに余裕がある。荷物に関しても公也が異空間に確保しているから余裕を作れる。荷物の少なさに疑問を抱かれるかもしれないが魔法道具の中にはそういった倉庫的な効果を持つ魔法道具もある。なのでそこまで妙には思われない……かもしれない。


「ほんとに何も知らへんのやなあ」

「偏っているというか、いろいろあるんだ」

「あんたらもかい? 多分偉い人かなんかやと思うけれんど、わからんもんやで」

「こちらにはこちらの事情がありますので。あまり詮索はしないでください」

「わいに言われても困るやけどな……」

「それで。やはり魔法使いも一般的ではないか」

「魔石作りが仕事や。魔法っちゅーもんを使うんに魔力使っとられへんよ。魔法道具を作るんもあるしなぁ。魔法道具さえ作れば魔法なんてわざわざ使わんでもええわけやしな。昔に魔法とか言うもんが使われ取ったとは聞くけどもうほとんどは使われとらせんやよ」


 色々と話を聞く限り分かったことが一つ。こちらの大陸には魔法使いがいない。魔法道具や魔石づくりを行う魔法使いに等しい能力を持つ人間はいるが、魔石や魔法道具を作る以上のことはせず、魔法を行使することがない。魔法道具の中には普通では使わないような攻撃や防御の魔法もあり、それを使えるようにする都合上魔法構築を行うことは有れど、その魔法を使い続けるということはしない。

 マービィの言う通り魔法道具さえあれば魔法を使う必要がない。事前に作った魔石を魔法道具に組み、詠唱や呪文も必要とせず魔法道具さえ使えばすぐに魔法を使える。もちろん魔法道具に組みこまれている魔法しか使えないという問題はあるが、もともと魔法使いもそう多種多様の魔法を使うことはない……公也や夢見花など、すぐに魔法構築を作れるような魔法の仕組みを深く理解している側ならばともかく、一般的な魔法使いは覚えている魔法を使う以上のことはなかなかできない。その覚えている魔法も普通は多くても十もあるかないかくらい。それなら魔法を憶えるよりも魔法道具を用意する方がよほど効率がいい。

 そういうこともありこの大陸では魔法使いはほぼいない。そもそも魔法使いの素質を持っているなら魔石作りや魔法道具作り、開発などでお金を稼ぐ方がよほどいい。冒険者もいないように魔法使いの力を求めるようなこともほとんどない。魔法使いの魔法は決して戦闘だけにしか使えないわけではないが、主に魔法は戦闘に使われるものという意識が強く、それゆえに魔法使いが必要とされない。結局のところ魔法使いの素養があったとしても魔法使いとしてではなく魔法道具や魔石づくりにその力を使われるということである。


「冒険者も魔法使いも過去の産物か」

「ほんまどこでそんな話を聞いてきたんかねえ。常識を教えられとらへんやないの?」

「ふふ、そうですね。あまり一般的ではないことばかり知ってきたのでしょう」

「あまり追及はしないでほしい」

「そやな……そっちの娘はんも珍しいもんやし」

「やっぱり獣人もいない感じでしょうか……」

「おらへんわけやないけど、ほとんど話も聞かん程度には普通じゃ見かけへんわ。どっかに離れて過ごしとるらしいわ」

「差別とかそういうのか?」

「んなことあらへん。せやなあ……なんちゅーか、数が少なすぎっから保護せんとあかん、種が絶滅するんちゃうか、って意見があるんやなかったかな」

「……そこまで数が少ない、と」


 こちらの大陸でも獣人はいる。ただ、一般的な場にはほぼ出てこないというか、絶対数が公也のいた大陸やシーヴェのいた大陸よりも圧倒的に少なく、このままでは種族が絶滅しかねない状況にある。表に出てこないのは出てこれないとかではなく数が少なくて外に出る自由自体がなかなか得られない難しい状況にあるから。人間側が種の絶滅に至らないように特区というか、隔離的な保護を行っている状態であるため見られることがない。そういう点ではシーヴェの存在はおかしなものだが、別に特区があるから獣人は全員そこに集めなければいけないというわけでもない。外から内へは自由、家から外へが厳しいというもの。ゆえに獣人自体は大陸のどこかに他にいてもおかしくはない。とはいえ、生殖の関係や仮に他の人種と子を生すことができたとしても獣人がどれほど子として生まれてくるか。そう考えると外の獣人は減っていきいなくなる。結局のところ特区などの保護した獣人以外が消えていくことになる。


「みたいやなあ。まあそういうんは偉いさんが頑張るもんやて。わいらは気にせんでもええんちゃうか?」

「そうだな。余計なちょっかいさえかけてこないならそもそも関係ないし」

「そうですね」






 そうして色々とマービィと話しつつ知らない情報を集めて行く公也たち。とはいえ、踏み込みやすい話題とそうでない話題も多い。例えばこの大陸のことに関してや公也たちの今いる地について、国の名前や周辺事情など。はっきり言ってこういったことを知らないのはおかしい、ということの方が多いわけである。魔法使いに関してや獣人に関してもそうだ。まだおかしな教育をされている、程度の認識になる領域だったからよかったが流石に国などの一般常識は知らないのはあり得ないと考えられる。まあ、公也たちの妙な知らなすぎる事情を考えればそういった部分もまともな教育はされていないかもしれないと考えられてもおかしくはない。もっとも魔法使いや獣人に関しては過去と現在の差異などの部分もあり、古い知識を教えられた妙な教育と考えられている部分もあり、古くとも変わらない国や大陸事情になればやはり怪しまれるのではないか。

 あまり深くは聞けず、そのまま旅の途中で夜になる。途中宿が取れるような小さな拠点もあったがそこに止まることなく、アストロたちについて行き野営となる。抑々急ぎの予定だったという話であるしこれは仕方のないこととおもうしかない。一応その想定自体は元々していたわけであるし公也たちも別に構わないものであった。


「どうです? そちらは大丈夫ですか?」

「ああ。特に問題はない」

「それはいい。食事などの用意をするのは難しいからどうかと思ったが、問題はないようですね」

「荷物は持っているように見えないかもしれないがちゃんとあるからな」

「そうですか…………少し話をしてもいいか?」

「構わない……こちらとしても色々聞いてみたい知りたいこともあるしな」


 アストロが声をかけてきて、話をしたいと言ってくる。先ほどマービィがアストロたちの方へと行き、色々と話しているのは公也たちも確認している。その時に公也たちのことを話したのだろう。公也たちの知識の妙なこと、その事実に関して。


「単刀直入に聞く。あなたたちは何者だ?」

「何者とは?」

「……この島において私の家名を知らない。おかしな話ではないですが、あなたのような人物ならば知っていてもおかしくはない。それなのに知らない」

「俺のような人物?」

「話し方でわかります。私を含め、高貴なる血が混ざっている者は話し方が普通になる。薄まれば徐々に普通ではない話し方になるが……」

「話し方、か。あの方言みたいなもののことか?」

「多くの人々は私たちとは明らかに違う話し方をしている。しかしその内容はしっかり理解できる、私たちの話し方と同じ内容に認識できる。それならば普通ではない話し方、ということになるだろう」

「……言語的には確かに違うが、それを普通でないというのはどうなんだろうな。まあ、確かに聞こえる音と理解できる内容が違うことはおかしな話ではある。そして貴族は話し方、聞こえる音と理解できる内容が一致する内容になると。そういうことか」


 方言自体はそもそもそれぞれの言語的な差異……土地やその地域の人特有の話し方というだけで別におかしなものではない。しかし、その話し方になるという事実……いや、その話し方であるのに理解できる内容が違う、自分たちにとって正しい音での理解をしてしまうこと……そうなる環境は確かに妙である。そもそも方言で話すと言っても、護衛三人もそうだが二人は微妙に似通っているが一人は二人と違う音で聞こえている。多様な人々と話していれば理解できるが、それぞれで話している音が違う……公也的に言えば方言の内容が違う、あるいは混ざっていたし方言とも違う内容だったりとする。普通ならば一定の地域で同じ内容になるだろう。しかし、それぞれで違う……公也的に言えば親は北の方言を使っているのに子は西の方言を使っている、みたいに普通ならば親と同じような内容になるはずなのに明らかに違う形になる、みたいなことがあるのが確認できる。

 そしてそれらに縛られないのが貴族であり、その血筋である。公也たちは話し方からして貴族の一員のはず、というのがアストロの認識である。しかしそれならばアストロの家名を知らないはずがない。アストロと似たような立場であるはずの人間ならば知っているはず。もちろん知識の偏り、教えられた内容の奇妙さを考えればまともな教育をされていないという可能性はある。だがそれはそれで公也たちが馬車を使っていることやアリルフィーラや従者二人の存在がおかしい。要は公也たちはアストロから見ればどう考えても珍妙なあり得ない存在である、ということになるのである。


「もう一度聞く。あなたたちは何者か?」


 ゆえに、アストロは公也たちが何なのかを知らなければならない。



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