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「こんなところでいいかな」
「とりあえずは現時点ではお試し、ってところね」
「……部屋がごちゃごちゃしてる」
「そこは諦めてくれ。この部屋を広げられるようなら……窓を作ってもいいなら広げてもいいよな? 広げたら区切ってペティの生活区域とこういった魔法陣を設置している部分に分けるからそれまでは我慢してくれ」
「わかってる。別に問題はないから」
ペティエットの住んでいる部屋に魔法陣が書かれた。現時点ではとりあえず帰還の魔法陣と遠話の魔法陣。これから先は城の防衛のための結界や防壁の魔法陣などを書くつもりだが現時点ではまだまだ先である。少なくとも公也やロムニル達によって魔法と魔法陣の開発が行われ実際に運用して問題なしと判明するまではまだ使えるものではない。そして今この部屋に書かれ得た魔法陣に関しても実験をして実際に使えるか、使ったとして消費する魔力は、運用に問題がないかなど様々な点を検証しなければならない。公也も空間魔法を使い物を保管している都合上その保管している物との干渉が空間移動の際に起きる場合問題となり得る。現実的に考えて空間魔法を使っている最中や空間魔法で生成した空間の中でもない限りは影響はないと思われるがそれでも確実ではない。実際に使い試してみるまでは不明だ。
「とりあえず、魔法の有効範囲や効果の確認かな」
「……とはいっても、今すぐ確認できることは多くはないわね」
「ここで試してもあまり意味がない……いや、実行できるかどうかの意味はあるが確認がしづらいからな。俺の部屋の方で試してみる。念のため空間魔法に入れている荷物を入れてからな」
そう言って公也はアンデルク城内の自分の部屋へと戻る。そこで自分の空間魔法によってつくった異空間に保管しておいた持ち物を部屋に置き、帰還の魔法を使う。
魔法陣による魔法、帰還の魔法の仕組みは色々と面倒な工程が存在する。遠話もそうだが双方向につながる道を作り出すと言うのは魔法においていろいろな意味で面倒だ。そもそも空間魔法自体結構な手間がかかる物である。空間の構築、座標の指定、そもそも現象として空間を移動すると言うことはどういうことなのか。単純に移動するということならば別に変な現象でもない。ある意味行程の短縮ということで空間魔法は時間魔法ともいえるのではないか。と、複雑にあれこれと考えるとあれだが、今回の帰還魔法は魔法陣同士の連結による座標指定によるものである。基本的に魔法陣に魔力を込めて待機状態にして置き、もう一方の魔法陣に魔力を籠めて魔法を起動、それにより起動した魔法陣から対になる魔法陣に対して魔力による連絡が行きそちらの魔法陣……この場合はアンデルク城に存在する魔法陣が起動し双方向につながる門を作り出す準備がされる。そしてそこで空間転移の門が作り出される。一方の魔法陣を待機状態にしなければならない都合上かなりの魔力を必要とする。公也でも一応は賄えるがそれを城魔側に賄ってもらい、公也の方でいつでも使用して戻れるように、ということである。双方向ではあるが両者同一の魔法陣ではなく、基本的にはアンデルク城の方が受けて、固定の魔法陣であり、公也の持つ帰還用の魔法陣は魔法陣の前に転移門を作り出す機構のもの。そして作りだした転移門をその場に固定し一時的に状態を維持する。その時点で魔法陣の起動は終了し時間で転移門が消えると言うものである。転移門、転移魔法陣をその場に残さないように様々な工夫をした結果こういう形となった。まだまだ様々な点で改良の余地があるが現時点ではこれで十分であると言う判断になる。
もっともそれはあくまで作用、効果の部分はそれでいいというだけだ。問題はまだまだある。帰還する際に必要とする魔法陣に込める魔力。城魔の方を待機状態で維持するようにするとはいえその必要魔力量は結構な物となるだろう。起動した場合受け手として扉を開くが、その魔法陣と起動の魔法陣の距離が開けば開くほど必要とする魔力は大きくなる。城魔に全てを任せると言うわけにもいかず、転移に必要な距離によって増える魔力量を賄うのは使う側、つまり公也となる。まあこれは城の魔法陣をいつでも使えるように城側に負担を任せすぎて消費しすぎて使えなくなるということをなくすため、という理由である。ただそのため起動側の魔力量の問題があって普通の魔法使いではあまり遠距離での起動はできない、使うこと自体が大変という結果になっている。それこそ公也程の魔力量がなければ日常使いはなかなか難しいと言ったぐらいだ。まあ魔法を一切使わないつもりの時に帰還するのであればそこまで問題にはならないかもしれないが。
と、魔法に関しての話。これは現状でそうなっていると言うだけでロムニルやリーリェ、公也もいつでも使えるように、誰でも使えるように可能な限り修正や改良を行うつもりみたいなのでこの先良くなることを期待しよう。そんな魔法を公也は自室で使い、ペティエットの部屋に転移門を開いた。そしてその扉をまたいでペティエットの部屋に入ってくる。
「とりあえずは成功したな」
「想像以上にうまくいったね」
「城魔の魔力消費はどんな感じかわかるかしらペティちゃん」
「…………あまり。ただ、それほど何か減ったようには感じない」
「魔力が多いか、あるいは魔力消費なしで使えるか、そもそもペティがそういった城側の消耗を感じないか」
「消費がないってことはないと思うね」
「前者か後者ね。単純に消耗したとは思えないか、城とペティちゃんのつながりがそこまででないから城の消耗を感じないか。城を破壊されてもペティちゃんに悪影響はないんでしょう? それなら魔力が失われても感じない可能性は高い」
「……そういえば自己再生しないって話だったが、魔力の場合はどうなんだろう?」
「ああ、それは……ちょっと不安になってくるわね」
「もし魔力が戻らない、となるとこの方法は無理になるよ」
「それ以前にペティちゃん、城魔、この城が無事かどうかもわからないわ」
「……念のため確認はしておいた方がいいか」
「恐らく大丈夫だとは思う。でも不安なら確認するのがいい」
「ペティはこう言っているが……」
「感覚的な部分でわかっているのかしら?」
「でも確実とは言えないからね。とりあえずしばらくは様子見でいいか。それよりも距離を置いてどこまでの距離で使えるかも試したいと思うんだけど」
「流石に距離的にあまり城からは離れづらいぞ」
「それでもいいわ。そうね、麓くらいまで行ってからはどうかしら」
「……わかった。ワイバーンに乗って下りて、空間魔法の……ああ、いや、そっちは先にワイバーンじゃない生物で試してからの方がいいか。ワイバーンを失う羽目になると流石にな」
「一応空間魔法は問題ないんだよね? それならそこまで不安でもないと思うが」
「確かにそうだが念のためな」
「用心は大切よね」
魔法の起動自体は成功、それに伴う移動に関しても現状特に問題ないと判明する。公也の使う空間魔法も別の空間魔法の影響は受けていない。しかしまだ生命を空間魔法で隔離している状態での起動は試していないので念のためそれの確認を、また長距離での使用感や問題発生がないかの確認も行う。そうして問題が起きるかどうかの確認をしながら旅に出た際問題ないように進めていく。
※部屋の中に魔法陣が書き込まれたことによって若干部屋で生活し辛くなるペティエット。
※魔法陣同士のリンクによる帰還や遠話の魔法を行う。魔法陣の待機が必要とされるという話になっているが事例として対象の魔法陣を指定し日付、時間の指定を行いほぼ同時に魔法陣を使用し魔法を使うことにより帰還や遠話の魔法を使うことは不可能ではない。要は繋ぐことができれば問題はない。効率の問題もあり行われることは基本的にないが。




