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暴食者は異世界を貪る  作者: 蒼和考雪
四十六章 神渡り
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 とりあえず行き当たりばったりで街から街へ、通っている道を行きどこかへと向かおうと考えた公也たち。はっきり言ってこの大陸のことをよく知らない公也たちからすれば誰かから話を聞いてこの大陸のことを知ってから行くしかなく、そういう相手も現状見つけることもできない……そもそも聞けるような相手も見当がつかない以上、成り行きに任せるしかない状況にある。なので適当に行こうとしていた。


「すまない。少しいいだろうか?」

「……誰だ?」


 公也たちが出立の準備をしているところに一人の男性が話しかけてきた。その男性は身なりがいい……一般的な街の人間などとは違う雰囲気、明らかにしっかりとした教育を受けている……つまりは貴族のような雰囲気のある人間に見える。この大陸に貴族の類が存在するかは不明だが、魔法道具の管理が行われている以上一定の立場を持つ存在はいるだろうし、魔法道具や魔石づくりは確実に商売的に大きな額が動くもの、それらを行う魔法使いがいる家は相応の立場であることがほとんどだろう。一応その辺の適当な街の人間に魔法使いが発生することもあるが、魔法使いは魔法使いの子供に発生することが多い。ゆえに魔法使いの家では魔法使いが生まれ、結果としてこの国の魔法道具や魔石の管理に関わりそれなりの家柄、立場、財産持ちとなる。

 恐らくはそういう結構な立場の人間だろうとみられる。ただ、公也達に声をかけた理由はさっぱりわからない。


「私はアストロ・ブッシュというものだ。ブッシュの名を聞いたことはないか?」

「いや……」

「そうか。一応これでもそこそこ名が知られている家なのだが……」

「…………その名の知らている家の人間が俺たちに何か用か?」


 アストロ・ブッシュと名乗った彼はこの大陸における有名な家の人間…………と、言えるほど高名ではないが、とりあえず家の名前を言っておけば、そういえば聞いたことがある程度には名前が知られている家である。それを知らないというのはなかなか珍しい……とはいえ、全くないというわけではないが。


「ああ、そうですね。本題に行きましょう。現在私たちはこの街に滞在しているのですが、私は所用がありすぐにでも旅立ちたいのです」

「そうか……でもそれは別にそちらの好きにすればいい話では?」

「もちろんその通りです。しかし旅には危険がつきもの。私も護衛を雇いここまで来たのですが……どうやらたまたま食事が良くなかったらしく、護衛の二人が腹を下しているようで。それが治るまで……最低でもあと数日、長ければもっとかかることになるでしょう。現時点で明日になる状況でも少々厳しいところがあり、護衛の代わりとなる人材が欲しい」

「……それで俺に声をかけたと?」

「はい。どうやらそちらも旅をしているようで都合がいいだろうと思ってね。一時的な護衛をするくらいならば問題はないだろう?」

「…………別にそれは俺たちでなくともいいと思うが」

「護衛として雇うだけならば誰でもいい……とまではいかない。しかし専門に雇うことのできる場所があるが、そこで雇うのは色々と都合が悪い……すぐに用意できない可能性が高い。この街のような場所では特に。いえ、他の場所なら簡単に用意できるというわけでもないのですけどね。あなたたちはすぐに出ようとしている、つまり今すぐに護衛として旅立つことができる、ついてくることが可能……そこがいいのです。信用できるかどうかはまた別ですが、しかしあなた方はそこまで怪しむような相手でもない」

「その理由は?」

「馬車を持っているでしょう。馬車はある程度以上にお金を持っていなければ手に入れることのできないもの。それだけ稼ぐことのできる人間である、あるいはその家の人間、所属している人間である……また、あなた方の場合は一緒にいるのが従者の立場にある人物だ。つまり私たちの様に立場のある人物だということ。仮にそうでなくともあなた方は荒事を行っているような人間には思えない。あなたが相当なやり手であったりするかのうせいはありますが」

「……こちらのことを調べているのか」

「少し変わった人たちが来たという小さな噂と、こちらが護衛に困ったところに街を訪れた旅人という事実、護衛に雇う相手に困っていたので調べさせてもらいました。相手のことを知らず危ない相手に護衛を頼むわけにもいかないので」

「……それはそうだろうな」


 彼の目的は護衛を雇うこと……それで赤の他人、故も知らぬ旅人の公也たちを雇い入れるのは変な話だが結構危急な用事があるからだろう。それでも街には専門の護衛の斡旋を行う場所はある。ただ、そこだと時間、期限、急な旅について行ける人材を出せないためわざわざ公也に話が行ったということである。当然それでも公也が信用できるかどうかはわからない。ただ、公也たち……公也、フィリア、シーヴェ、アリルフィーラはどう考えても一般的な危険な相手には考えづらい。この人員で悪事を働いていると言われて信じるのは難しいだろう。そして護衛としてはそもそもこの四人で旅をしている時点で相応に実力はある、と見るべきである。公也たちの中で真っ当に貴人に見えるのはアリルフィーラ、シーヴェとフィリアは従者であると見た目でもわかっており、戦闘要員は公也だけとなる。一応従者も戦闘できるとみられるが、それを考慮しても四人で旅はなかなかよくやるものだとみるべきだ。

 そしてアストロからすれば一番重要なのは……馬車の存在である。旅をする護衛として雇うにしても急ぎであり、もともとの護衛のことを考慮しても自分の馬車を使うのは厳しい状況である。急ぎであるがゆえに人を乗せられる場所があった方がいい。自分たちの馬車についてくる馬車、そこに護衛を乗せて急ぎで……という考えがある。馬車に護衛を乗せるとそれはそれでいざというときの問題にもなるが、そこはある程度仕方ないと考えている。

 ともかく、色々な事情から公也たちを雇い入れる……厳密には公也だけになるだろうが、一緒についてきてもらう形で旅の護衛として使いたいところであるようだ。


「報酬は弾みますよ」

「……こちらにも都合がある。俺だけで決めるのは拙い。すぐに返事はできない」

「少し待つ程度であれば……こちらとしてはできる限り今日中に出たいのです。ダメならすぐに返事を」

「わかった」


 とりあえず現時点では保留、ということになった。アリルフィーラたちと話してすぐに返事をすることとなるだろう。





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