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「キミヤさん、ここは流石に買い物する場所じゃないと思いますよー……？」
「まあ、確かに金額的にも合わないのはわかる。でも気にはなるから」
「子供みたいなこと言わないで……わたしも気にはなりますけども」
現在公也とシーヴェは魔法道具屋に来ている。先日来たばかりなのにまた来たことで店員からはなぜ来ているのだろうという目で見られている。攻撃系の魔法道具と魔石を売り払ったばかりなのにまた来る理由というのは普通はなかなかない。買い戻す……というのはそもそも公也の売買目的から考えればあり得ない。路銀が欲しいからという理由で撃っているのだから買い戻すことはないだろう。そんなことをするくらいならそもそも売らない。
まあ今公也はあくまでおいてある魔法道具を見ているだけなのでそこまででもない。店頭販売はその代物を販売しているわけではなくあくまで見本的な代物。見本とはいえ魔法道具は流石に本物でないと魔法道具として認識はできない。実際使って試すのは魔石の消費の関係上、試す旨を店員に話してお金を払い試させてもらう形となっている。ただ、魔法使いであれば魔法道具を魔法的な感覚での把握、魔法構築や内容をある程度は認識できるため公也の場合はそれをする必要はない。もっとも、魔法使いでもそれができるのはある程度以上に魔法に精通したものくらいだし、魔法道具全てで確認できるかどうかはまた別の話だが。
「ねえキミヤさん」
「なんだ？」
「魔石って売ればお金になるんですよね」
「なったな」
「売らないんですか？」
「……あまり頻繁には無理、というか、同じところでは難しいな」
「え？ なんでです？」
「毎日魔石を定数持ってきて売るのは妙だろう」
公也は魔石を作ることができる。魔石は魔法道具屋で売り払うことができる……魔石の取り扱いに関して魔法道具屋で行っているため、使用していない魔石であれば売値と同じ値段を買値としてつけている。魔石はどういう形であれ再利用できる消耗品であるため基本的にそれでも損はない。その方が魔法道具が必要なくなったとかで使われなくなる魔石を回収しやすい。一応使用した魔石も引き取るがその場合の値段はかなり少なくなる。
まあそうして引き取ってはいるが、普通は魔石を売るということ自体はかなり珍しいことである。魔石は消耗品、魔法道具を持っていれば基本的には使われるもの。少なくとも売り払うにしても使用済み、使用途中のものが普通であり、未使用はよほど珍しい事態でもなければなかなかあり得ない。考えられるとすれば魔法道具の魔石の予備として買ったが使われなかったとかそういうものだろう。そんな珍しい事態が何度も起こりうるわけはなく、新品の魔石を何度も持ち込むのは妙なことである。
ゆえに同じ店で何度も短期間に魔石を売る……特に新品の魔石を売るのはほとんどあり得ないと言わざるを得ない。ましてや公也などは旅人の類。旅をしているのにそんなに魔石を得るような機会はないだろう。あったとしてもいったいどこから魔石を得ているのか、そういわざるを得ず、何か危ないこと、やましいことをしているのではと怪しまれることだろう。目をつけられるのは好ましくないためできない、ということである。
「そういうものですか？」
「毎日燃料を普通の一般市民が持ってくるようなもの……うーん、なんて言えばいいか……普通は魔石はそんな大量に所有している物じゃない。俺たちは旅をしているわけだし、当然魔石を得る機会が少ない。そもそも魔石はこういう魔法道具屋で売っているわけだから買う以外の選択肢はない」
「でもキミヤさん」
「普通は……魔石は個人で作られる物じゃない。魔法道具屋でしか魔石を撃っていないのは魔石の売買の管理を魔法道具屋が行っているから。つまりどこかで誰かが作るのは密造の類だ。個人で使うなら気が付かれなくとも、魔法道具屋に持ってきて売るとかするとバレるだろう」
「……もしかして売っちゃうとか危なかったり？」
「するかもな。まあ、訪れた街である程度の数を一回だけ程度なら何とかなると思う。ここではもう無理だろうけど」
「そっかあ……」
残念ながらここで魔石を売ることはできない。他の街でまとまった数を売るならできるがそれもそん時の一回だけ、各町で一回だけ……間を置けば売れなくもないが、そこまでこの大陸の滞在はそうないだろうと思われる。
「しかし、お金の確保はどうするべきかな」
「冒険者……はないんでしたっけ」
「そもそも魔物もいない。魔物の素材の確保、それで得る利益もなあ……」
この大陸では恐らく冒険者ギルドが存在せず、冒険者という仕事が存在しない。当然冒険者ギルドの依頼を頼りに使用にも存在しないため無理だろう。魔物を確保しその素材売却、あるいは退治などの仕事に関しても魔法道具で魔物をどうにかできるようになっているうえにそもそも魔物がほぼいない環境であるためまずありえない。一応この大陸でも動物を狩り食料とする、みたいなことはあるからそれが仕事としてはあるだろうが旅人が行う仕事でもなくちゃんとした専門の人間がいる。いきなり外部から新規参入は難しいだろう。
「ここでのお金稼ぎはどうやるんだろうな」
「わたしもそこはわかんないですね……何かお店の手伝いみたいなものの募集とか？」
「ちまちましているから俺的にはあまりそういうのは……」
「そもそもキミヤさんがそういうことしてるの考えられないですよね。あれです、立場的に……」
一国の王様が小さな街の軽食店でアルバイトをしている……というのは流石にどうなのか。別に誰も何も言わないし、この大陸では公也の立場など誰も知る由はない。何をしていたところで問題はないだろうが…………やはりそういうのはどうか、という意見の方がいいだろう。特に身内からは。そもそもその程度で稼げるお金などチマチマしたもの、一般的な街の人間であればそれでいいだろうが公也たちは旅をする都合上結構なお金がいる。
「とりあえず今はお預けか」
「戻ります？」
「買い物自体は終わってるからな。せめて防御系の魔法道具は買っておきたかったかもう少しお金を得られてからかな」
そういうことで魔法道具の販売の様子、どんな魔法道具があるかを見て公也たちは宿の方へと戻る。これからの旅の予定、どこに行くか何をするか……何も決まっていない現状、ある程度方針は決めておいた方がいい。その話し合いをすることになる。
