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暴食者は異世界を貪る  作者: 蒼和考雪
四十六章 神渡り
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18



「獣人はこの街では見てないな」

「そもそもこちらの大陸にいるかもわかりませんし……でもじろじろ見られるようなことはないですね」


 現在公也はシーヴェと街の中に買い物に繰り出している。現時点で公也たちは他の獣人を見ておらず、この大陸に獣人という存在がいるのかどうか疑問を持っている。仮に獣人がいない場合、シーヴェが出歩くのはその存在の物珍しさ、いったい何者かと怪しまれること、不思議に思われる危険があり得るため好ましいことではないだろう。とりあえずそういった不躾なこいつなんだ、みたいな視線はないものの……果たして本当に獣人に対する好奇の目みたいなものかわからない。まあ、あまり心配しすぎても仕方がない。シーヴェを連れて歩き、結果としてどうなるかで最終的に決めるべきである。


「そもそも獣人もどういう理屈で発生した種なんだろうな」

「そんなことわたしもわかりませんよ。でも……えっと、獣と?」

「遺伝的にはあり得ないというか、多種との交配は普通は無理だが……魔物がいるなら不可能ではないのか?」

「そんなことわたしにはわかりませんよ」


 この世界における獣人はいったいどうやって発生した存在なのか。公也のいた世界には昔話、架空の話してしかその存在はあり得ず、動物と人間の交配はできないというのが一般的なものである。一応遺伝子改造などで絶対に不可能であると断言できるものではないが、かといってそれがあっさり実現できるものかと言えばそうではないだろう。もちろん特殊な事例で肉体的な変異を起こすケースもないわけではないだろうから一切あり得ないとは言えないが、それでも全く獣人という存在の発生は見られていない。少なくとも自然発生することがない。だがこの世界では発生している。それはどういう理由か。

 もっとも可能性が高いのは魔物と同じケースでの発生。魔物と同じ形で獣人という生物が発生した、その後繁殖し現在に至るということ。まあ確実な話ではない。ただ、人の中にもかなり特殊な生まれ、存在として異質なものが生まれてくることがあり、それは地脈からの魔力の影響であるということになれば、やはり地脈、魔力の影響による発生が一番考えられる。そもそも人間以外の人種は魔物と同じ発生起源であるかもしれないという話もこの世界にはある。まあ、人間が果たして魔物と違う発生起源かどうかすらもこの世界では怪しいところもあり、結局のところこの世界のすべての種は世界によって発生させられた、生み出された存在であるかもしれない……ということもあり得るだろう。

 あるいは魔物……他種族を借り腹として生まれさせる魔物、あるいは相手の種に限らず混血を作り出せるような魔物が存在しそれらとの交配の結果で生まれたという可能性もあり得ないわけではない。もっともその場合は獣人のような多くの獣の特徴を持ち得る多様な種族になることはないだろうという点では可能性は低いだろう。


「そういう話、あんまり好きじゃないですー」

「そうか」

「もうちょっと買い物楽しみましょうよ。あんまり楽しむのでもないかもしれないですけど」

「見て回るだけでもそれなりに楽しめるけどな。シーヴェの方は……そもそも買い物って楽しむものか?」

「今回は買い出しですし楽しめるかは……いえ、楽しめないってこともないですけど? なんだかんだ、外を出歩いていろいろ見て回れるのは悪くないですし。わたしなんかはリルフィと一緒について回るとき以外はずっとアンデールですしね。今回みたいにいろいろなところにっていうのはちょっと楽しい……かな?」


 話は逸れて、買い物について。そもそも今回のこれはただの買い出しである。楽しむ要素など……無いとは言えないが、まあ別楽しむことが目的ではない。もっとも、公也はこの街のような今まで見たことのない場所を見て回るだけで面白みがあり、魔法道具が使われている街ということで他にはない楽しさがあるだろう。シーヴェの方は公也との買い出し……デートとまではいわないが、一緒にいられるのでそれだけで十分という感じである。アリルフィーラやフィリアが一緒の時は二人きりではないので悪くはないが、今回みたいにほかに誰かがいない機会は結構少ないので。






「本当なら私が行くべきだったと思うのですが」

「あら。それだと護衛の問題が出るのでしょう?」

「守るだけならシーヴェでも十分です。側仕えとしても今の彼女はそれなりにできますし。獣人であるシーヴェを外に出して安全かどうかの確証がありません」

「今のところ獣人は見ていないものね。だから獣人が危険視されるかも、という危惧は分からないでもないわ」


 シーヴェ、獣人に関する話はフィリアは特に注意しているし、アリルフィーラのその内容の意味合いは分かっている。シーヴェが公也と買い出しに行ったのはアリルフィーラの指示である。フィリアとしては自分の方が行った方がいいだろうという考えだったが、アリルフィーラの命令だったため少し不満気ながらもシーヴェをつけることにした。これに関しては本当に安全面……シーヴェの安全もそうだし、シーヴェを連れているアリルフィーラの安全のこともあり、あまり望ましくはなかった。


「……無理に彼女を支援する必要はないと思いますが」

「そうかしら? ふふ、私としては友人にも幸せになってほしいもの」

「キミヤ様は既にアリルフィーラ様と結婚しています。他にも妃が二人いますし、これ以上は無用でしょう」

「あら。でも公也様は他にも関係を持っている子がいるでしょう?」

「……普通ならそれもあまりいいことではありません」

「愛人や妾を作る王や貴族も珍しくはないでしょう。別にいいと思うのだけど?」

「それを妻であるアリルフィーラ様が言うのはどうかと思いますが……」


 シーヴェは公也に強い好意を持つ。アリルフィーラはその成就を応援しているが、今のところそこはあまりうまくいっていないというか。決して仲が悪いわけではないのだが、公也は基本的に受け身だしシーヴェはアリルフィーラに悪いと思い積極的になれない。アリルフィーラはむしろシーヴェを巻き込む形で取り込もうとしているが、今のところ決定的な成果はない感じである。


「公也様ですもの。私は自分が一番に想われている……いえ、一番でなくともしっかりと想われているのであればそれでいいの。絶対に変わらないものがあればそれで。それにシーヴェとなら仲良くできるでしょう?」

「…………」

「それにフィリアが強く言えることかしら?」

「……………………アリルフィーラ様の趣味であれば、いくらでも付き合います」

「ふふ……いつも嫌そうにしているのを無理に頼んでごめんなさい」

「いえ。主の頼みに付き合うのも従者の務めですので」


 こちらはこちらで色々とある。アリルフィーラは色々な意味で特殊であるためそれに付き合う人間も結構大変である。特にフィリアは割と精神的には普通の感覚だ。これに関してはシーヴェも大体そうだろう。そんなこともあり、アリルフィーラのやりたい様にしていく……というのはなかなか面倒で大変で複雑である。


「とりあえずシーヴェに関しては今回で幾らか進展を目指しましょう」

「アリルフィーラ様にとっての旅では?」

「それもあるけれど、シーヴェのためでもあるの。フィリアも手伝ってもらえる?」

「…………それがアリルフィーラ様の頼みであれば」


 今回の旅の途中でアリルフィーラはシーヴェの後押しをするつもりらしい。夫と関係を持つ相手を増やすことをするのは妻としてどうなのだろう。友人を幸せにしたいとしても……彼女としては、女性としての心情としてはいかほどか。まあそんなことを言い出すとシーヴェだけに限った話ではなくなる。そこは一歩引いて考えているのか、あるいは考えないようにしているのか……そもそもそういうことを考える精神ではないか。何にしても今回の旅はアリルフィーラの意思と目的が混じり、ドタバタとすることになるだろう。


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