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「それ、冒険者証ですか?」
「いや。こちらでの魔法道具の取引に使われるカードらしい」
「……でもそれって冒険者証ですよね? キミヤさんの……」
「ああ。これだな」
「同じ……あれ、ちょっと違う?」
魔法道具の取引に使われるカードを作り、魔法道具と魔石を売り金銭を入手することのできた公也。その魔法道具の取引に使われるカードを見てシーヴェもまた同じような感想を抱く。公也もそうだが魔法道具の取引カードは明らかに冒険者証だ。実際に公也が持つ冒険者証と比べればほとんど同じということがわかる。ただ違いがないわけではない。冒険者証とは違い取引に使われているそれはそちらの方面に少し内容が書き換えられているところがある。ただ、それを加味してもほぼ似通っているという点では同じものと言ってもいいだろう。
「恐らくだが冒険者証とこの取引カードの作り方は同じなんだろう」
「え? でも冒険者証じゃないんですよね?」
「そもそも冒険者証がなんで冒険者証として機能しているか、という話になるんだがな。これが冒険者証として使われるのは冒険者ギルドがそう扱ってるからだ。実際のところ冒険者証はそこまで膨大な情報があるわけじゃない。その人物の冒険者としての証明、本人確認の道具、ランクの判断、結局のところ俺たちみたいな外から見ているものがわかるのは書かれている情報だけだ。冒険者ギルドで管理されている情報はギルドの方、何らかの大本の機器の存在があるだろうからこれ自体はそこまで大きな情報はないと思う。照合できればいいだけだ」
「はあ……」
「冒険者のランク、仕事の成果、評価、そういったものを大本が記録している……果たして大本はそれだけしか記録できないか? それ以外の何かに使うことはできないか? この大陸では冒険者ギルドは……恐らく魔法道具の販売所、魔法道具に関わる組織が代わりに入り込んだ形になっているんだと思う。魔物はいないし魔法道具があれば冒険者は必要ない。だから冒険者は廃れた。英雄譚も魔物が少ないこの場所では徐々に伝わらなくなっていったと思うし、強さを求めるなら魔法道具でも代替できなくもない。そうして魔法道具を取り扱う組織が強くなり冒険者ギルドの場所を飲み込んだ……そして冒険者ギルドの設備、道具、機器、仕組み、そういった者を取り入れ、その中にあったものの一つが冒険者証とその情報取り扱いに関してだと思う。それを魔法道具の取引に再利用したのが取引カードという結果……なんじゃないかな?」
「……なるほど?」
公也の説明にシーヴェは理解しきれない。要約すれば冒険者証を魔法道具の取引に利用できるように改良した、それが取引カードという形である……という話だ。冒険者ギルドというものはこの大陸から失われたが、冒険者ギルドの代わりを魔法道具やその関係の組織が担い、また冒険者ギルドが持っていたものも引き継がれた。冒険者証を作ることに関してもまた同じように引き継がれた……そういうことなのだろう。
もっともそれに関してはあまり重大な話でもない。結局のところ冒険者証とそれに関わる情報管理は冒険者ギルドにとって都合よく情報をまとめ伝達する手段でしかない。それがなければ問題であるということもなく、冒険者証は絶対に冒険者証として作られなければいけないわけではない。この大陸では魔法道具の取引のために使われるカードとして使われるようになった、その程度の話である。
ただ、公也が身分証明のために迂闊に冒険者証を出すようなことをしなくてよかったという話ではある。冒険者証は真帆道具の取引カードに酷似し、下手をすれば偽造品として問題になる可能性はあるし、仮に偽造扱いにならなくとも公也の冒険者証の特殊性……冒険者ランクの特殊性を考えればそれを知られることによる問題も考えられる。取引カードと冒険者証に根本的な違いがなく、ある程度形を変えている程度のものであれば、もしかしたら冒険者証でも取引カードと同じように機能する可能性がある。その場合、公也のそれは最上位の取引カードということになり……その扱いを考えてもやはり問題になるだろう。少なくともこちらでは冒険者証を使い冒険者として活動することは出来なさそうである。
「よくわからないですけど、とりあえず取引はできたんですね」
「ああ」
「あの人、言葉普通でしたね?」
「……そういえばそうだったな」
この大陸では人の話す言葉は訛りである……公也からすれば明らかにそうだし、シーヴェやアリルフィーラたちもまた言葉の違和感は存在している。シーヴェがこの魔法道具の販売店を聞いたときもまた相手の言葉は訛りのある物であり、この街に入るときの検問もまた同様だった。しかし魔法道具の取引を行うカウンターの男性はそうではなかった。それはなぜか……疑問には思うものの、考えてもわかるものではないので仕方がない。
「まあ、そういうこともあるんじゃないか? そもそも……なんであんな喋り方になるかは謎だからな」
「言葉は分かるんですけどね。意味は通じるのに私たちの話し方とは違う……よくわかんないです」
「そうだな。そういうこともあるんだろう……」
そんなことを話しつつ、公也とシーヴェは馬車の止まっている宿を探す。アリルフィーラとフィリアの行方を探すのに魔法を使わないのは魔法道具が使われているこの大陸、街中において魔法を使うことによる弊害があり得るからである。仮に魔法道具などで魔法の発動を検知していたら公也の存在を危険視する可能性がある。そこまでの徹底的な検知はしていなくとも大規模であれば引っかかる可能性はある。そういうこともあり得るため公也は魔法で探さず自分の足で探すしかない。
「魔法道具を売ることはできたんですね」
「ああ。途中ある程度街の様子を見たが、色々特殊だな。冒険者ギルドもないし」
「冒険者ギルドがないんですか」
「ああ」
「冒険者は必要がないのでしょうね……魔物の脅威もなく、あのような魔法道具が発達しているわけですし」
「でも寂しいですね」
「そう……でしょうか?」
「気軽に依頼できる相手がいないのは面倒ではあるかもな」
「フーマルさんとかリーンさんとかセージさんたちとか見たいな人たちがいないのはちょっと寂しいかもですね」
アリルフィーラたちと合流し、とりあえず宿の部屋で話をしている公也たち……金銭的な状況がどうなるかわからず節約する形でフィリアが不満気ではあるが全員同じ部屋である。危険への対処なども考えれば全員一緒は守りやすく安全性が高いため悪くはないが、一応は夫婦であるとはいえ、男女同じ部屋というのは果たしていいものか。もっともそういう話は今更ではあるが。
「今後はどうします?」
「……とりあえず物資補給?」
「一応公也様が色々と持っていますけど、私たちも一緒ですから食料などは買っておいたほうがいいですよね」
「……野宿する場合の寝具や野外での道具も必要ですか。魔法道具を購入できるのであればそちらからいいものを探すのもありでしょう」
「ってことは買い物になります?」
「そういう感じみたいだな」
とりあえず今は色々と物資補給という形になる。公也としては街を見て回りたいという気持ちがあり、アリルフィーラはそれに同調する形で、他も現状これからこの大陸を旅するうえで色々と確保しておく必要があるのは分かる。なので全員意見は一致した形であった。




