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暴食者は異世界を貪る  作者: 蒼和考雪
四十六章 神渡り
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「いらっしゃいませ。何をお求めでしょうか?」


 公也が向かったカウンターにいた男性店員が公也に訊ねる。


「魔法道具と魔石を売りたいんだが」

「……ふむ。売りたいのですか」


 魔法道具の購入は比較的珍しくない。街の人間が必要に応じた道具を購入することが多い。魔石の購入もそれに合わせて何度も買っていくことになる。一方で魔法道具の売却はかなり珍しい。魔法道具を購入した場合、その魔法道具を途中で必要ないとすることが少ないから……仮に必要ないと判断しても、売却できる魔法道具でなければ売れないし、あまりにも期間が開いた魔法道具は売却するにもあまり値段は良くない。一応購入から一定期間、魔法道具の効果が合わない、良くないと判断した場合、魔石は買取となるが魔法道具自体は購入金額とほぼ同額で売却できる制度はあるが、それも使われるケースはそこまで多いわけでもない。結局売却することはかなり珍しいという話である。


「少し路銀が欲しくてな」

「ああ、なるほど。お売りになる魔法道具と魔石ですが……」

「これだ」

「……これは攻撃系の魔法道具……どこでこれを? いえ、あなたのですよね。お売りになるのですか?」


 攻撃系の魔法道具は基本的に取り扱いがある程度制限されている。当然と言えば当然である。攻撃系の魔法道具の取引は爆弾の取引のようなもの。そこまで出なくとも簡単に誰でも扱える危険な武器を売り払うようなものだ。まあ剣を売っているのとそこまで大差はない……と言えるかもしれないが、技術もなくあっさり人を殺せる攻撃をできる魔法道具はそれなりに取り扱いは厳しい。一応まだ公也の持っている魔法道具はそこまで大規模、攻撃能力の高いものではないためあまりとやかく言われるものではないものの、それでも簡単に売り買いされるものではない。

 そしてそもそも攻撃系の魔法道具を売り払うというのはなかなか難しいところがある。取り扱いの点で言えば別に魔法道具を取り扱う店では大きな問題にならないが、攻撃する武器を売り払うというのは旅をするものとしてどうなのか。まあ公也は路銀が欲しいとしか言っていないので何を目的に売り払うのかは厳密には分からない。お金が早急に必要だから売り払うということはわかるので理解できないわけではないが、やはり売り払うことに対して疑問はある。


「ああ。いや、そもそもこの魔法道具は道中で盗賊に襲われそれから奪ったものでな」

「奪った……それを信用……いえ、難しい話ですね。盗賊……購入の履歴……登録……仮に盗賊が持っていたとすれば購入は正規に行われていない可能性もあります。あるいは盗賊が誰かから奪った可能性もあり得る……どこで買われたかを洗うのは難しそうですね」

「何か問題が?」

「問題があると言えばあります。攻撃系の魔法道具はあまり誰にでも売られる代物ではありません。ただ、話だけを聞けばあなたがどこかから購入した代物ではない……という点では別にその点で問題にはならないでしょう。ただ、奪ったとなるとそれがどこで誰から奪ったのか、という話に……盗賊であれば倒して奪った人物の者で構わないでしょうがその証明ができない、証拠がない。いえ、まあそれで知られず持っている方が問題であり、こうして得るのであれば手放すということで問題は少なくはなりますが……そこでも取引するという問題が出てくるのです」

「……つまり売れないと?」

「いえ。これらが正規に購入を確認できないとなればこちらで回収せざるを得ないことになるでしょう。そちらも売るつもりであるならばその話を受け金銭を支払い品物を回収する形で済ませるのが一番穏便に済むでしょう」

「ならそうしてくれ」


 扱いが難しい代物であるため正直公也から引き取るというのは彼らとしてもどう判断するべきか迷うところである。ただ、攻撃系の魔法道具を売り払う……ということになれば彼らが回収する形になるため問題自体は少なくなる。公也に売る方はどちらかというと問題が出てくるし、公也が持ったままであるのもどこの誰が買った物かわからない魔法道具が公也の手元に残るためそれもあまりよくない、ただ買い取るとなると不明魔法道具を回収するということで彼らとしては仕事の一環でもあるため問題はない。本当ならタダで引き取りたいところだが、流石にそれはダメだろうということで売却に乗っかってお金を支払い回収、となる。


「では魔法道具の取引カードを」

「……取引カード?」

「え? あの、魔法道具を購入するのであれば取引カードを作ったことがあるはずですが」

「購入はしたことない。魔法道具を個人で有することになったのはこれらが初めてだな。一応は色々と使ったり触ったりはあるが」

「ああ……なるほど。誰かが買った物を使ったことはある……のですか。しかし魔法道具なしで盗賊を……? しかも攻撃系の魔法道具を持った相手を……」

「何か問題が?」

「ああ、いえ、えっと、大丈夫です。しかし取引カードがないのでは……まずカードを作らないと取引はできませんね」


 魔法道具はその道具に関して扱い上の問題がある。攻撃系の魔法道具の取り扱いは確かに重大だがそれ以外の魔法道具の取引がどうでもいいというわけでもない。この大陸においては魔法道具が大きく普及し、その結果それ自体に幾らかデータ、情報として重要なものとされ取引の記録が作られる。誰が購入し所有しているか、それがわかっていることが結構重要なことだ。盗難にも対応できる場合もあるし。

 そういうことで売却する場合でも取引カードは必要となる。ある意味ではこの大陸における身分証明書ともなる物であるため、その価値は大きいだろう。魔法道具を購入するならどちらにしても作らなければならないし、いつ作ろうと結局作ることに変わらない。今作らない意味もない……というか、作らなければ路銀の確保ができないのだから作らざるを得ないだろう。


「じゃあカードを作ることを頼んでも?」

「はい。それではお名前を」

「……公也だ」

「キミヤですね。わかりました、それでは少しお待ちください」


 アンデールとまではいわなかった。姓の存在は貴族などの立場であることを示すこともあり、この大陸にアンデールという家がない場合なぜその姓をを持つのか、という問題になる。仮にそういう家があっても今度はその家に公也という人物がいるかどうかの問題にもなるし、ただの公也と名乗る方がいろいろ安全だ。

 そうして公也の魔法道具取引カードが作られ、手元に来る。そのカードを見て公也は少し険しい顔になる。


「……なるほどな」


 それは公也の持っている冒険者証に酷似していた。いや、書かれている内容などは違っているがそれは確かに冒険者証だった。



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