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「……随分近代的な」
「近代的ですか?」
「ああ……あっと、これはシーヴェだとわからないか」
「むっ……なんかそう言われると不満です」
「いや、これに関しては……多分俺だけか、あるいはわかってもメルや夢見花くらいだからな。本当に特殊な知っている事実がないと……」
「特殊な知っている事実……?」
「そうだな、近代って言ってわかるわけがないからな。ここも今の時代のはずだからな」
「…………?」
公也の言う近代的という言葉の内容は公也のいた世界における近代的、というものである。一般的に公也の知るファンタジー作品、その世界は中世ファンタジーと呼ばれるような公也たちの世界における中世自体の感じに近いもの、とされる。実際この世界でも馬車が走っていたりするし、王侯貴族が存在する。公也たちのいた世界では馬車は存在せず機械的な自動車が主流となり、王侯貴族は廃れ民主主義、人々の権利が強い社会観となっている。もちろん馬車が一切存在しないわけでも、王などが存在しないというわけでもないが、それらは結局のところその世界における中世時代の物ほどの力、価値、流通はされておらず、その点においてこの世界を含む多くのファンタジー的な異世界においては彼の世界における中世時代の形に近いものとなっている。
ゆえに公也が行った近代的なという内容はこの大陸の公也たちの今いる街が近代的なものに近い、と感じている……という話だ。もっともこれはあくまで公也たちのいた多利育よりは近代的、というだけの話である。公也たちが馬車で乗り付けたように馬車が普通に移動の足として使われているし、建物など多くの建築物もまた公也たちの近代に比べると全然である。技術的な分野においても微妙なところはある。では何が、と言われるとやはり魔法道具の存在、使用が最大要因だろう。魔石を使用する形で使用を維持できる魔法道具があれば例えば夜の電灯のようなものを作れるし、トイレなどの清潔さを保つため水洗のものや汚れを浄化するような仕組みを作ることもできる、魔法使いなしでも魔法ができるのであれば工事などもやりやすく、道路などの維持もやりやすいはず。そういった様々なところでより便利を突き詰めることが魔法道具の普及によって可能となった……となれば、それによる近代的な社会を作ることはできるだろう。
もっとも限度はある。結局のところ魔石を作るのは魔法使いであり、その魔法使いの実力もここで違う。下を基準にすればある程度数は揃えられるにしても、上の数は少なく上の数が多くても下に対して幾ら多くの魔石を作れるか。結局のところ魔石の安定供給の問題は出てくる。すなわち、魔法道具を使うにしてもその魔法道具の燃料である魔石の量によって事業の限界が来る。限定的な形でしか魔法道具による作業を行えないため、近代的になるにしても限度がある。ゆえにそこまでではない。
「まあ、移動もしやすいし楽と言えば楽だが」
「確かに道がいいのは疲れにくそうですね」
「……魔法道具や魔石関連の店はどこだろう」
「どこでしょう……」
公也たちが求めているのは魔法道具や魔石に関連する店舗である。店舗自体はそれなりにわかりやすいし問題なく探せるが、魔法道具や魔石の店は公也達のいた大陸にはない。当然それらの店がどういう外観、看板の類がどういうものかというのはわからないわけである。まずはそれらの店を探す形である。
「誰かに案内を頼むのはどうですか?」
「……そうだな。別段道を尋ねるのは変な話じゃないが……店とかで買い物のついでに聞ければその方がいいんだが」
「お金ないですしね。普通に人に聞けばいいと思いますけど」
「……そうだな。俺はあまりそういうのは得意じゃないから……シーヴェ、頼めるか?」
「はい。でも苦手なんですか?」
「公式の場での対応とかならまだやりやすいんだけど、個人として人に話しかけるのはあまり……」
しゃべり方、雰囲気などを考えても公也はそもそも普通に人に話すのはあまり得意ではない。下手な相手に話しかけると偉そうだなとか生意気そうだなとかそういう風に思われることもあるだろう。もちろん公也も一応相手に対して対応を変えることくらいはできるが……そもそも人に話しかけること自体公也は得意ではない。
「じゃあわたしがやります。頑張りますね!」
「別に頑張ることでもないとは思うけどな……」
できない人物が言うことではない。
「ここか」
「ここみたいですね」
そうして公也はあっさりと魔法道具、魔石を販売している場所へと来た。効けばあっさりと教えてもらい、到達することができた。
「じゃあ中に入って魔法道具と魔石を売るか」
建物の中に入り、公也はカウンターへと向かう……つもりだったが、少し妙に周りを見回す。
「この雰囲気は……」
公也としては建物の外観の雰囲気からそうだが、中の雰囲気も見覚えがあるところである。
「冒険者ギルドに似ている」
「そういえば……こちらに冒険者ギルドってあるんでしょうか? 見てないですよね」
「見てないな。必要があるのかも……微妙か」
魔法道具が存在するこの大陸において、冒険者ギルドは必要になるか。そもそも冒険者の仕事は雑用から魔物関連など。魔物はこの大陸では地脈の関係上ほとんど発生することはなく、仮に戦う必要があるとしても攻撃系の魔法道具がある。魔物の危険への対処に冒険者を使う必要がない。また雑用に関しても冒険者の力を借りるよりは魔法道具を使う方がやりやすいし安上がりだろう。いちいち依頼を出す必要もなく魔石の補充だけでよく、魔法道具が壊れても買いかえれば済む話。下手に衝突になる可能性もあり魔法道具の方が都合がいい。
そもそも冒険者が大きく広まっている理由として古代の英雄の成果が大きい。竜を討伐した、奇跡のような花や実を危険な場所から獲得した、その他様々な英雄譚があるからこそ冒険者になりたい人間は多く、冒険者が重大な職として成り立っている。もちろんそれらを目指し多くの者がなった結果が現在の雑用仕事をするような存在ばかりが多いという状況であるが、それでもまだ悪くはない。
だがこの大陸ではそれらの成立が可能性として低い状況下にある。もしかしたらかつては違ったかもしれない。この魔法道具や魔石を販売する場所が冒険者ギルドに似ているのは過去に冒険者ギルドがあったがそれを今の形、魔法道具や魔石を販売する場所へと変わってしまったからなのかもしれない。冒険者は廃れ、魔法道具や魔石がこの大陸の現代の状況である……そういうことなのかもしれない。
「まあ、それは後で色々調べるから今は良いか」
「そうですね……」
そういった話は後で調べることにして、今は魔法道具や魔石である。それらの販売……いや、扱いとしては中古で引き取ってもらう形になるだろうか。それをする形である。




