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暴食者は異世界を貪る  作者: 蒼和考雪
四十六章 神渡り
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 村を出て森の中を進む公也たち。森の中はこれまでの道中の野原、丘、そういった緑の薄い場所よりも自然が強く、当然生物が多い。そして魔物もこれまで全く見なかったのに見るようになった。ただ、その数は少ない。特にこれと言って強くない魔物を数体見かけた程度。魔物よりも普通の動物で肉食寄りの動物が襲ってくる方が危険としてはよほど高いくらいである。あるいは毒虫などの方がまだ危険そうである。魔物と言えど全てが危険なものではない。どちらかと言えば無害だったり草食で別に襲ってくることもない魔物は珍しくない。

 そんな感じなので特に危険なことはなく、のんびり森の中を進んでいた。その間に魔法道具に関しての話とか、魔石に関しての話とかあれこれとしている感じだ。


「魔石を作れるようになったんですか?」

「凄いですねー……」

「凄い、という話では済まないと思うのですが?」

「そこは公也様ですから。しかし、そうなると魔石とやらを買う必要もなくなるので楽ですね」

「お金ないですからね。作れるなら売ったりもできるんじゃないですか?」

「それは流石に既得権益に引っかかって面倒になりそうだからやらないが……確かに魔法道具の使用に関しては気にしなくてもいいかな」

「ですがキミヤ様は魔法道具を使用する必要はありませんね」

「あ……そっか、キミヤさん強いですしね」


 魔石を作れるようになったという公也の言であるが、反応が暢気というか普通なアリルフィーラとシーヴェ、それに対してフィリアは明らかにおかしいだろうと反応する。まあ、そこは公也だからで納得するしかない。出鱈目なのは昔から、できるようになったと嘘をつく意味もなく、素直にできるようになったと受け入れるしかない。

 さて、魔石を作れるようになったことの最大の利点は……魔石の補充に面倒がないということだろう。現状公也たちはこの大陸における金銭を持っていない。盗賊たちはお金を持ち歩いてはなかったようで奪うことはできなかった。村では物々交換もできず、魔法道具を売り払うには街までいかなければ難しい感じである。なので魔石を自前で補充できるのはある意味かなり大きな強みである。魔法道具の使用の制限を気にしなくていいのだから。もっとも、公也においては魔法道具を使用するよりは自分で剣を振るうなり魔法を使うなりした方が強い。魔法道具は画一的でその強さは魔法使いの魔法としてはそれなりに強く、使用の制限がなくてそれなのはなかなか強いが上位の強者に勝てるような代物でもない。そのあたり公也は破格である。

 ならば魔石を売り払うのはどうか、と思うところだがこの大陸において魔法道具が普及され魔石を魔法使いが作る、偉い魔法使い様という扱いであるあたり、魔石はその販売が大きく制限されている可能性がある。あるいは勝手に作って売り払うのは犯罪であるとか、何らかの問題になる可能性もある。公也たちはそのあたりのことを知らないため迂闊に手を出して面倒になる可能性の方が高い。そもそもこの大陸の人間でもないがゆえにそういったことへの手だしは慎重になった方がいいだろう。仮にそういった犯罪的な問題がなくとも、今度は魔石を取り扱っている側から敵視される可能性がある。これまで独占商売だっただろうにいきなり横から新規参入してくるわけであり、何らかの攻撃……あるいは勧誘的な何かもあるかもしれない。穏便に済めばいいが先に攻撃的な動きを見せる可能性もある。そしてそもそも公也のそれは信用がない。得ること自体が難しいかもしれないし、偽物扱いされる可能性もある。やはり下手な手出しはしないほうがいいと思われる。


「あ、でもわたし魔法道具使ってみたいです!」

「それは面白そうですね。私たちみたいな魔法が使えない人で魔法が使えるんですから」

「…………そうですね。それは悪くないかもしれません。攻撃系の魔法道具があれば……………………アリルフィーラ様は戦えるかもしれませんが、戦ってはいけないと思います。そしてシーヴェは攻撃すること自体が碌にできませんから、結果としてまともに何らかの魔法道具を使っていけるのは私くらいなのではないですか?」

「あら。そうね、私が前に出るのは公也様にも迷惑でしょう」

「あ……そ、そっか。わたしそういうのめっきりダメなんだった……」


 魔法道具は戦闘に用いることができる。公也は魔法道具を使うよりも自分で戦う方が強いが、公也以外は魔法道具を使う方が強い方が多い。シーヴェとフィリアは魔法道具の攻撃手段は現状よりもはるかに戦闘力を上げる。アリルフィーラは別に特殊な攻撃手段があるため微妙なところだが、対外的にわかりやすい攻撃手段を持っていると見せるには悪くないかもしれない。ただ、シーヴェはそもそも戦闘における攻撃という好意が不可能に近く、アリルフィーラは王妃であり前に出て戦うような立場ではない。公也は王なのに前に出て戦っているがこれは特例としておくしかない。要はこの中で魔法道具を使って前に出て積極的に戦えるだろうというのはフィリアくらいである、ということだ。そのフィリアも別に戦闘能力が高いわけでもなし、基本的にはアリルフィーラの守りに付く立場であり積極的に戦闘に出るわけでもない。つまり魔法道具は無駄に積まれるだけの玩具でしかないというのが現状である。


「攻撃系以外ならシーヴェでも使えるか。あと使うだけなら問題はないかもな」

「攻撃するという意思があるとダメなんでしたっけ?」

「そうです……だから防戦はできるんですよ。リルフィ様の守りに付くのにはそれだけできればいいってことで問題ないんです」

「本当は戦える方がいいんですが。もっともそこまでの期待をしても仕方がありませんし……アリルフィーラ様の守りはキミヤ様に任せるしかないでしょう」

「まあ、一度使ってみるのもいいかもな。意志がなくても使うだけでもダメな可能性もあるし」

「そういうのはないと思うんですけどねー……」


 もはや呪いと言っても過言ではないシーヴェの戦闘不可の特性。叩き込まれた防衛反応、反射的な防御、それに伴う反撃による反射的攻撃……それでしか攻撃できないというかなり難のある特殊性を持つのが彼女である。攻撃の意思を乗せればその反射的な攻撃ですら……攻撃するつもりでその反射的な攻撃を行おうとすればその時点でミスが出るというかなり戦闘制限の多い彼女。魔法道具を使用するだけでも何かそういったミス的な問題が起きる可能性があるかもしれない。とりあえず試してみるしかないだろう。攻撃の魔法道具では確実に攻撃するつもりで使えば無理だろう、というのが確実……普通に起動させるだけでも攻撃するための道具だからダメかもしれない。そして防御系の魔法道具ですらももしかしたら使えない可能性もある。まあそこに攻撃する意思を乗せなければ、攻撃に利用する意思を乗せなければ大丈夫だと思われるのだが。とりあえず試すだけ試してみるしかないだろう。魔法道具というアイテムを使ってみたい、という欲求くらいは満たせるものであってほしいところだろう。



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