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暴食者は異世界を貪る  作者: 蒼和考雪
五章 城生活と小期間の旅
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8



「クラムベルト、少し時間あるか?」

「大丈夫です。何か御用でしょうかアンデール様」

「……やっぱり慣れないな」


 クラムベルトと呼ばれた男性に呼ばれた名前、公也の家名であるがその家名に公也は慣れない様子である。まあ公也にとっては本来の家名である倉谷が存在するし元々公也という名前自体が和名、洋風の名前であるアンデールと組み合わされることによってどうにも奇妙な所がある。一方で家名だけ、というのも結局はその家名で呼ばれる頻度が少ないこともあって慣れない感じだ。

 ところこのクラムベルトという男性は何者か。答えは公也についてきた部下の中で公也付きの筆頭秘書、筆頭執事とでも言うようなアンデールの家のまとめ役、アンデルク城における事務仕事のまとめ役、公也の貴族関係のスケジュールなどの管理のまとめ役、つまりはこの場所と公也に関する諸々の仕事を押し付けられた人間である。ある意味出世したともいえるし、これから先多大な苦労を背負わされた不幸な人間ともいえる。名前は全体でクラムベルト・エンデリオン。


「どうかしましたか?」

「ああ、実はそろそろこの城の防備に関しての魔法もある程度目途が立ちそうだ、ということもあって少し旅に出るつもりだ。その報告と、予定のすり合わせとかを少し話したい」

「………………」


 クラムベルトは咎めるように公也を見る。上司である主であるため言葉では言わないが目は明らかにお前何やんのやと語っている。


「アンデール様。この城の守りは王よりあなた様に任された責務にございます。そのあなたがこの地を旅立つのはどれほどの問題か」

「わかっている。だからこそ事前にトルメリリンからワイバーン部隊が来た時の対処や俺の帰還を可能にするための準備をしているわけだ。完璧ではないが、それでも多くの物事に問題なく対処できるだろう」

「仮にそうだとしてもあなた様はこのキアラートの貴族。勝手な行い、振る舞いは決して良くないことでございましょう」

「冒険者としての活動の許可は貰っている。何か問題があるならそれを許容したりはしていない。そもそもこのことに関しては俺が貴族になる前に決まった事柄だ。貴族になって仕事があるからそれを認めない、というのは問題じゃないか? 俺も別に仕事をほっぽり出していくつもりはない。十分と言えるかはわからないが一応の対策を立てていく。それをしたうえで旅に出るわけだ。もちろんすぐに帰還できるように準備はしているし、旅と言っても一月二月も出るようなものではなくせいぜい十日くらいに留める。それでも問題があるか?」

「…………」


 公也の冒険者稼業は公的に認められているもの。そもそも外に出れば貴族として認めないと言う事実もある。あくまで公也の貴族身分が通じるのはキアラートでのみ。まあ外に出て諸問題を起こすな、ということに関しては事前に言われていることでもあるがそれを完全に封じることはできない。一応アンデルク城の守りはしっかりと準備をしたうえで出るのであるし、城の守りにヴィローサを残すことを前提にしている。ワイバーン部隊は厄介であるが公也でなくともヴィローサであればそれなりに抑えることができるだろう。ロムニルもリーリェもいる。魔法使いがいればそれなりに対応できる。そして今回準備した公也の術式。クラムベルトを含む部下には言わないがそれを使えば魔法で容易に戻ってこれる。ゆえに公也は旅に出て色々と見て回るつもりなのである。

 それに旅に出るというのもトルメリリンがまた攻めてくるのはしばらくはないだろうと言う推測をしているのもある。少なくともトルメリリンは多くのワイバーンを失った。それの穴埋めを簡単にできるわけもないし、取り返すために必要なワイバーンを確保できるとも限らない。それに一度失われた、損失が起きたのだから二度目が起きないとは限らない。仮にもう一度攻めて公也やヴィローサにワイバーンが落とされれば今度の損失はトルメリリンのワイバーン部隊がほぼなくなってしまうレベルになるのではないか。そんな危険もある。そして公也がキアラートの貴族になったと言うことはトルメリリンを含む近隣諸国に通達されている。一応は新規貴族であるしその情報の伝達はいる、ということだ。もちろん外では貴族認定はしないという通達もしている。一応は貴族であるため外ではそうではないとキアラートが言っても本人が貴族だと言えばその言が通じるかもしれない。それを封じるためでもある。

 と、いろいろな理由でアンデルク城は現状は比較的安全であると言う想定だ。なので問題ない。


「いえ、問題はありません。ですがこの地の安全を考えできる限り急いで戻ってこられるようにお願いします」

「ああ。無駄な用事はしない、ということでいいんだろう」

「はい。では予定の方ですが……」


 そうしてクラムベルトと貴族の諸行事に関しての話をする。もっとも現状公也が急いで何かさいなければならないと言うのは特になかった。一応の確認といざという時の連絡に関してなど、そういった点を話し合っただけである。






 そうしてクラムベルトと話しあった後、公也はペティエットの部屋に向かった。


「ペティ、いるか?」

「……何か用? マスター」

「ああ。今後の話し合い……と、後は部屋の改修だな。窓が欲しいって言ってただろう? そろそろ一時的にここを離れるから先にやっておいた方がいいかなと思ってな」

「それは嬉しい。早く、早く」


 少し嬉しそうに興奮気味に公也にせがむペティエット。部屋は相変わらず暗い。


「待て待て……一つ聞くが城は壊してもいいのか? 勝手に直ったりはしないのか?」

「城は壊された場合外部から回収しない限りは直らない。壊れた物は壊れたまま。逆に城は今の状態から良い城にも悪い城にもなる。完璧に崩壊すれば死ぬけどそうでないちょっと壊れるくらいだとその状態の城、という形になる」

「なるほど……改変は元に戻ることはない、と」

「そう。どのような形の改変でもそれは城の要素となる。魔法陣だって……多分大丈夫」

「そうか。大半の魔法陣、帰還や遠話の魔法陣はこの部屋に書くことになるだろう。この部屋は誰でも入れるのか?」

「マスターが入れるように、別に制限はかけてない。そもそもそういう機能は城にない」

「……この城の機能もよくわからないんだけどな。外部の侵入者の排除とかそういうものもできないみたいだし」

「城は城。建物にすぎない。城が人の出入りを制限することはできない」


 城魔の仕組みはいろいろな意味で不明点が多い。魔物だから当たり前なのだがその本人ですらも完全には理解していない。感覚的な理解と知識的な理解は別物、城の仕組みをペティエットは使うことはできても説明することはできない。公也はペティエットから聞いている諸々、組み入れられる仕組みなど様々な点からいろいろと推測はしているが結局のところそれが正答かどうかは誰も答えられるものではない。

 なので別に難しく考えず、できることをして自分たちに都合のいいようにすればいい。この城は公也の城でありペティエットの管轄、己たちが自分にとって都合のいいように仕組みを作り生活していけばそれで十分である。


「……マスター。今の城よりもいい城になれば、私としては嬉しい。私はこの城の意思、この城そのものでもある存在。城が良くなればそれは私にとってとてもいいことだから。今の城よりも大きな城になったなら……部屋が増えて、便利な設備が増えて、人がたくさん住めるようになれば、それは城である私にとってはとてもうれしいことだと思う」

「そうか。なら考えておくよ……とはいっても、城の建築なんてものは技術者必須だし材料もいる、簡単にはできないし時間もかかるだろうからその準備だけでも結構大変なことになると思うけど」

「……わかった。ありがとう、ごめんなさい。私少し無理を言っている」

「気にするな。城が便利になればこちらにとっても都合がいい。ペティエットだけにいいことじゃないからな。やる価値はある」


 ペティエットは城そのもの。厳密に城と意思体である彼女は別に分けられるものではあるが、それでもペティエットはこの城なのである。城の成長は自身の成長、城の改善は自身の改善、城が大きくなると言うことは自分の規模が大きくなると言うこと。できることも増えるかもしれないし、もっといろいろなことができるかもしれない。もしかしたら外に出ることもできるかもしれない。部屋から外を見るだけではなく、もっと自由なことができるかも、そんな希望がある。

 とはいえ、それは簡単な話ではないだろう。それに城の内部から城魔という存在の意思が外に出られるかと言えば怪しい。それはつまり意思が体の外に出るようなものだ。流石に城魔はペティエットが出ることを許容しないと思われる。だが、仮にそうだとしてもそうだと判明するまでは可能性がないわけではない。その希望に僅かでも縋り少しでも自由が欲しい、それが彼女の願いである。

 そんな願いを主である公也には伝えず、しかし城を大きくしてほしいという願いは伝えた。公也としてもそれは悪くない提案だ。まあ今すぐにできることではない。その提案を公也は受け入れつつ、どうするかの草案を考えながらペティエットの部屋を改良し窓を作っていく。日曜大工も魔法で補えるのだから実に便利な話である。その作業以外にも今後の話、魔法陣の記述の話など様々なことをしながら、旅立ちのために事前にしておくべきことの一つをこなしていく公也であった。



※クラムベルトさんはガチでこれから苦労する羽目になる……結構頑張り屋である。

※城魔の改変は不可逆。魔物であるはずの城が自分で再生することはない。破壊すれば破壊したまま……だが、その逆もまた然り。

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