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暴食者は異世界を貪る  作者: 蒼和考雪
四十六章 神渡り
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「あんれま! あんさばこげんとこよくきたねぇ」


 そうして公也たちはそれほど大きくもない、森の傍に村に到達した。


「なしてこごまできたけぇ?」

「ばっちゃ。ここ、森ん道近くだわ。そげ夜ちけ。休むんやろ」

「ああ、わっちゃわーっちゃ。めずんこともあっけ。向こん方がきちぃ宿もあっけぇ。こげんとこ泊まらさまずんなかぁ」

「……まあ、ここで少し休みたいってのは事実だが」


 公也は話を聞いていて若干頭が痛い様子である。公也は訛りのある言語として聞こえてるわけであり、それがとても強いように感じられるからだ。別に訛り自体は普通……というか、そもそも公也は様々なメディアによって訛りに関する知識はある物の、その厳密なもの、どういうものが本当に訛りとして存在するものかは知らない。自分が使っている言語が訛りではない……方言の類ではないと言えないものもあるだろう。ゆえにその訛りが普通なのか、それともとても訛っているものなのか。公也も詳しくは分からない。

 とはいえ、公也はその訛りを聞いてその意味を理解できている……言葉の雰囲気、文脈も読み取る要因であるが、言葉自体は訛りみたいな言葉として聞こえているのにその意味は聞こえている訛りの形ではなく、その内容で聞こえている。正しく内容は理解できているのに言語は内容とは別に聞こえる……まだ情報処理はできるが、それでも若干頭の痛い形である。


「いげいげ、泊まっでぎゃ」

「オルジンさんどこか。よかよか」

「あんさばオルジンさんどこ泊まっちゃきゃ」

「……それは構わないが、タダというわけには」

「あんさばからじゃらとろ思わんし」

「オルジンさん、貰っとき。タダんてっけなきゃ」

「そっかぞっか。気持ちんばぺーしたらあかんなぁ」

「お金はさすがにもってないから魔法道具」

「魔法道具け?」

「ああ」

「あんさば! 魔法道具ちゅーいずらばもん、じゃらん代わりにすんのなんしぇ!」

「せせ。せんめで魔石やっちゃがな」

「魔石……これか」


 魔石。公也が魔法道具から取り外した石……それを彼らに見せるとそうだそうだと頷く。これで魔法道具に嵌められている真球の石は魔石と呼ばれるものであるとようやく公也は知ることができた。名前としては安直だから公也としてもいわゆる魔法的な力の動力源の石によく使われる名称として魔石、というのは考えていたがそれがそのまま当てはめられるとは少々予想外ではあった。


「これはどこかで手に入るのか?」

「都の魔法使いのもんから買うんよ。あんさば買ったごとねーけ?」

「ああ」

「そらそや。こん人らたぶん偉ん人やら。馬車ばら持っとっけや」

「しぇらせか!」


 馬車を持っているから偉い人、というのは少々極端な考えであるが……実際馬車を作り維持すること、馬を個人で飼い維持することは結構な金銭を必要とすることである。また馬車だけではなくフィリア、シーヴェの従者としての格好であったり、アリルフィーラの服装であったりと……基本的に貴族的な雰囲気のある人物たちとしてみられている。ただ、現状ではこの地に貴族という存在があるかどうかはわからない。一応貴人自体はいるだろうが制度としてはどうなのか。そのあたりのこともあり自分たちの素性は言いづらい。仮にこの時点で公也たちがこの地の出身でないとばれるとどうなるかわからない。まあ小さな村程度ならば何かあってもたいしたもんだにはならないだろうが。






「めんこい子らやなぁ」

「今日はよろしくお願いします。アリルフィーラです」

「フィリアです」

「シーヴェです。よろしくお願いしますね」

「あんあん、よろすよろす」


 オルジンと呼ばれていた人物の家に泊まる公也たち。オルジンという人物はそこそこ老齢な男性であり、家に一人暮らし……家族事情に関してはあまり踏み入っていいことかわからないので今のところは何も聞かないでおく様子だ。


「オルジンさん、でいいか?」

「よかよか。あんたは?」

「公也……だ」

「キミヤか。めんこい子らば連れてこげんとこまで何し来とって」

「ただの旅……かな。ちょっと訳ありでね」

「あああ。んだらば聞かん方が良かってよね」

「そうしてくれると助かる」

「でもでいっちょ言っとけんど」

「……なんだ?」

「ここらば最近盗賊らばでるっちゅーけん噂どあれんや。そっちん子らめんこいやろが? おめさばおれんけで盗賊らば相手んすん大変ど。魔法道具持ってんよーけど危なっちゃからし。あんま危なっからしーことしたらあかんえ」


 盗賊に関して忠告された公也たち。盗賊に関しては公也たちが知らなかっただけでこの近辺での出没に関しては噂が広まっていた。馬車が壊れて立ち往生している人物もいたから……というのも要因かもしれない。まあ彼らが盗賊なのであり、盗賊に襲われて壊れて立ち往生というのも妙な話だからそれが理由とするには微妙なところがあるが。


「ああ、それなら倒してきた」

「はあっ!? どげんこっちゃか!?」

「道中で盗賊と遭遇してな。魔法道具を向けられたんで笹っと倒してきた」

「あんさば倒したってけや!? ちぇっちぇそは見えんとげん!?」

「これらの魔法道具も彼らから奪ってきたものなんだが……」

「あわわわ。まさんかこげなこんあるちゃっか思わんけや……ちょちゃ旅んでっけー数やなかね。でんもあんさば倒したけん言うん信じきれんよ……」


 唐突な公也のカミングアウトに驚くオルジン。まあ、明らかに少人数で盗賊を倒した、というのはなかなか信じられない。公也の言葉を信じるなら魔法道具を持っていた盗賊相手に勝ったわけである。しかも従者二人は戦力として数えにくいし、アリルフィーラは当然数えない。つまり公也単独で倒したわけである。魔法道具を使って戦った可能性もあるし、馬車の方に魔法道具が仕組まれているとか、あるいは戦わずとも防御の魔法道具を利用したなどの可能性もあり得ないとは言えないし、なんとも完全な否定はできないわけであるが、相手の数を考慮すると難しい。奪った魔法道具は人数分、六個の魔法道具がある。それらの魔法道具持ち相手に一人は流石に無理筋、というのが一般的な見地である。


「倒したが、あの人数で盗賊行為をしていたとは思えない。もっと数はいると思う……あの時あの場にいたのがこの人数だろう」

「六け。ま、そりゃなかなや。もってぇ数おんやろ。だけんど被害んば減ろうや。それは感謝ばせてもらうでや」

「ああ」

「これんば全部攻撃の魔法道具やが。こなばものばっか持って……」

「……これと何か物々交換、ということはできるか?」

「簡単に言うんなかよ。魔法道具ば高うもんやなかけど、安かもなか。換えんちゅならもとでけさとこ行くべや」

「わかった」


 村のような場所ではあまり魔法道具の類を取り扱うのは難しい。魔法道具は普及してはいるものの、決して安いわけではない。高いともいえないそこそこいい値段のする代物という感じである。ゆえに村などの小さな場所でも買うことはできるが、何でもは買えない、必需品になるようなものだ。攻撃系の魔法道具は決して使えないわけではないが、必需化と言われると微妙なところ。こちらの大陸は今のところ公也たちは出会っていないわけであるが、魔物の数は少ない。いるかどうかは厳密にわからない程度に今のところは見ていない感じである。それもこれも地脈の関係であるが……ただ、森の中はまだわからない感じである。まあ、ともかく魔物の危険は少ない。ゆえに攻撃系の魔法道具を危急に必要とするようなことが少ない。盗賊みたいな相手の方が危険としては大きいくらいだ。だからここではお金に換えるとかものと交換というわけにはいかない感じである。やるならば別のところ、大きな街のほうで、というふうに公也は言われたのであった。しばらく文無し生活である。魔石が多少は金銭代わりになるが。




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