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暴食者は異世界を貪る  作者: 蒼和考雪
四十六章 神渡り
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8






「魔法道具を使われるとはな。流石に想定できなかった」

「誰さ!? いや、おんめ!」

「殺したはずやけん! どげんした!」

「死んでなかっただけ……世の中には簡単に殺したと思っても死なないような相手はいるもんだ」


 実際には一度死んでいた……すぐに傷が治り、少し様子を見つつ不意打ち気味に攻撃した感じである。剣は抜いていない。腕を落としたのは<暴食>によるものだ。まるでなどの刃物で切ったかのような綺麗な切断跡、それを残すような扱い方。盗賊相手に死体を残すようなやり口をする意味があるのかは疑問であり、またその力に関してアンデールの面々はおおよそ知っていることもあり盗賊を殲滅するなら知られても気にする必要のないものである。これに関して知られることを問題ししたというよりは倒し方に遊びを求めた公也の行動の結果、と言ったところだろう。無駄が多く様子見しがちという戦闘における悪癖……その一要素。まあ、今回みたいな相手ならまだ比較的問題にはならないかもしれないがよくやってしまう行動なのであまり良くないものである。


「しかしお前たち程度が魔法道具? そう利用できるものでもないけどな……いや、その魔法道具次第か? だが結局のところそういうのは相応のところにあるはずだが」

「何言ってる!」

「こん程度誰でも持っとっせ!」

「誰でも……?」


 魔法道具は公也のいる大陸では基本的に普及していない。ある程度お土産にアンデールで用意したりはしているがそれでもそこまで数が作られ売れるものではない。そもそも根本的に魔法道具の作成の技術や知識が不足している。仮にそれらの技術や知識があっても魔法使いでなければ魔法道具は作れない。魔法道具は魔法陣の知識も必要であり、魔法構築の知識も必要、その技術を扱うのには相当な魔法使いとしての能力がなければなかなかうまくいかない。

 そして根本的に魔法道具を使うのには魔力が必要という問題がある。魔法道具はそれ自体が魔法を使うための仕組み、技術であるため魔法使いでなくとも使える。しかし魔力に関しては別の話。魔力は使用者の魔力を使うのが基本となる。まあ、魔法道具によってはその技術に外部の世界の魔力を集め動力にするものであったり、あるいは素材自体に魔力をため込む性質がありそれから魔力を引き出すものもあるが、そういったものは作るにしても高価でありなかなか作られるものではない。

 さて、持ち主の魔力を使用するとして、一般的な魔法使いではない人間の魔力はそこまで高くはない。しかしそんな人間の魔力でも魔法を使うには足りる。技を思い起こせば魔力が少なくとも魔法に等しい力に変換すること自体はできるわけである。魔法道具の場合は魔法であるため必要とするのは魔力、技もまあ魔力であり、そういった力を使うのに使われるのは魔力である。魔法使いでないものの区分は魔法を使うために必要な出力を得られるかどうか。魔法使いでないものでも魔法を使うのに必要な量ではないが魔力の出力はないわけではない。その量が魔法を使うのに満ちれば魔法道具を使える……そういうわけである。しかし、根本的に魔力が少ない。技を使える者も技は何度も使える者ではない……その効率次第ではあるが。当然魔法道具による魔法と同じ力の行使もまた同様。ゆえに一定時間に魔法道具は数回使えるくらいのもの。魔法使いが使う強力な魔法を魔法道具かしたようなものでなければあまり効果的ではない。もちろん日常的な道具に等しい魔法道具などもある。地脈の力や空間の魔力を吸収しずっと使えるようなものが。もちろんそれらは作ること自体が難しく、またそれ自体が高価なもの。なんであれ盗賊が使うような代物ではないだろう。

 だが、盗賊たちは誰でも持っているという。この大陸にそれだけ魔法道具が普及する何かがある……そういうことなのだろう。少なくとも目の前の盗賊たちは魔法使いではないと思われるが。


「殺しなっせ!」

「おおっ!」

「っと!」


 魔法道具を利用し、盗賊たちが公也に攻撃を仕掛ける。それをミンディアーターを抜き弾く公也。


「なんと!」

「ありせん!」

「なんばしよっと!」

「ふっ!」

「ぎゃっ!?」


 魔法道具による攻撃は先の銃のような魔法道具に比べれば遅いにしても速い。それを防ぐ、避けるのは攻撃の速さを考えれば難しい。仮に警戒していてもなかなか簡単ではない。公也は剣を抜いてすらいなかったのにあっさり防いでいる。それに彼らは驚き、そんな彼らに一気に斬りかかる。一人が袈裟斬りにされ、行動不能となる。腕を落とされた盗賊も戦闘不可能、一気に戦闘可能な人数が四人となった形だ。


「人質取りなんせ!」

「わっとよ! ちょっとみぃや!! あんら死んでもいいんか!」


 フィリアたちに魔法道具を向ける盗賊。彼らとしても彼女たちは価値ある商品、できれば無傷で確保したいが公也相手にまともに戦えば自分たちの被害がどうなるかわからない。自分たちの数が減り全滅に近い形ではそもそも三人を確保することも難しい。一人減ったとしてもまだ四人で二人ならなんとかなる。そもそも一番価値のあるだろうアリルフィーラさえ確保できれば儲けにはなる。だができれば確保したい、自分たちも無事で済ませたい。そんな心情である様子だ。


「風よ。はっ!」

「ぎぃっ!?」

「命いらんか! 本気やっぞ! 後悔しぃ!」


 そして公也が次の攻撃に移ったことで魔法道具を構えていた盗賊が攻撃を行う。放たれた魔法道具からの攻撃はそのままフィリアたちへと向かい……何かに当たったかのように阻まれる。


「どぎゃんした!」

「なんか壁あんのか! おめ、何をしよった!」

「魔法だ。さて……と!」

「ぎゃあっ!」

「げっ」

「っ……」


 残りの盗賊は一人。全員が死んだわけではないが現状で行動できるのは一人のみ。


「……ま、別に生かす必要もないか」

「なっ! おまん! わーを生かしゃめめ教えんと」

「別にいい。盗賊に聞かずとも、普通の人に聞けばいいからな」

「ぎぃぇっ!?」


 最後の一人の命も断ち、残った盗賊……公也が攻撃した内まだ生きている者に公也が止めを刺す。


「こんなものか……大丈夫か!」

「はい……全滅させましたか」

「ああ。相手が相手だから正しいことを教えてくれるかもわからない。流石にこれで全員というわけではないだろうからアジトとかもあるだろうが……別にそこまでやる必要もなさそうだし」

「やった方が良いとは思いますが」

「無理に俺がやる必要もない。そういった仕事はこの大陸の人間が果たすべきだろう。右も左もわからないのに無理に頑張るのもな」

「…………確かに今わかっている道を外れるのも危険ですか」

「とりあえず今は普通の人がいる場所で色々と知る方が先だ」

「わかりました。別に生かしても仕方のない相手ですし……」

「それじゃ馬車の方に戻ろう……ああ、この馬車自体は回収しておくか。死体は放っておくにして」

「持っていた武器も回収しましょう。魔法道具なのでしょう?」

「そうだな。悪人に再利用されるのもあれだし、こちらとしても興味はあるしな」


 戦利品として壊れた馬車と盗賊たちの持っていた魔法道具を回収する公也。少なくとも同じ活動を簡単にはできなくなるだろう。それだけでも意味はあると思われる。とりあえずは現状これくらいでいいだろう、という感じだ。




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