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暴食者は異世界を貪る  作者: 蒼和考雪
四十六章 神渡り
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6





 特に何事もなく道を進んでいた公也たち。野原を進み丘を越え、普通に続く道を馬車で進み続ける。そして遠くに見えていた森に入る道、その森の手前当たりに馬車を見かける。


「あれは……人か」

「みたいですね」

「脇に寄せて止まっています。故障か何かでしょう」


 見かけた馬車は道の脇に泊まっていた。馬がいない馬車であり、また外れた車輪が傍に置かれている。見ただけでも何か問題が起きた、そうみられるものだ。まあだからと言って公也たちに馬車が云々というのは興味を持つようなことでもない。ただ、こちらに来て初めて見かけた人間、人種族というだけでも重大な要素ではある。対話して情報を得ることができるのであればそれは大きな成果である。もっとも馬車の状況を見るとただ話す、というわけにはいかなそうというのが嫌なところ。公也たちも物資や金銭の類は無いし馬車の牽引というのもどうか。一応公也の魔法であれば馬車の運搬くらいは容易であるがそれができるかどうかの問題もある。まあ、そのあたりのことはそもそも今考えずとも相手が頼んで来れば引き受ける、程度に考えればいいだろうものである。


「話しかけてみるか?」

「面倒ごとに繋がりそうですが」

「でもここがどこか聞きたいですよ」

「そうですね。現在私たちがどこにいるのか、どこに向かっているのか。少しは何か聞けるかもしれません」

「……それは悪くない話ですが。ただ訊ねるだけで済むでしょうか」

「その時はその時だ。多少の払いくらいならなんとかなるし、手伝うにしてもそこまでの労力じゃない」

「キミヤ様がそういうのであれば別に構いませんが……私たちが手伝えるものでもないので関わることはできませんよ」


 アリルフィーラはもちろん、シーヴェやフィリアも馬車の運搬や修繕に関わることはできない。本人的にやる気がないというのもあるし、そもそもそういった内容の能力を持たないというのもある。流石に皇女やメイドがそんな能力を持っているわけがない。一応シーヴェは多少の日曜大工はできるが、当然馬車をどうにかできるほどの能力はない。何かやるならそれは公也の仕事、ということである。魔法もあるので仮に何かしなければならなくなっても大丈夫ではあるだろう。


「そうか。とりあえず……話をしてみよう」


 そういうことで公也たちの馬車は脇に寄せられた馬車の方へと行くのであった。




「おん? あんたらなんじゃ」

「……旅の者だ。馬車に馬も無し、車輪も外れているようだが何か問題でもあるのか?」

「おお! おお! 問題ばかりじゃき。馬さ今ゆかしとんやけど、まだ戻ってきーよ。わーも外れ取って動かすこともできん」

「…………そうなのか」

「あんたら……あんたらどこさもんじゃい? なんの用事でここに来さった?」

「ただの旅だよ。ぶらりと適当に。その途中でそちらの馬車を見かけたんだ」

「旅。そらまた数奇なもんじゃ」


 この世界の言語は基本的に自動翻訳である。厳密に言えば言語自体は各地で若干違っていたりする、土地固有の言語形態は存在する。しかしそれらのその言葉の意味、内容を世界が自動で翻訳、通訳し相手に伝える。相手の言葉の意味をそのまま伝えるのではなく、そこに存在する意思や意図も含めたうえで、だ。騙すために意識的に言葉を選ぶ、言葉遊びをすると言ったことも伝わることが多い。ゆえに言葉には困らない。公也が一番わかりやすい例だろう。公也はこの世界の住人ではないため言葉が本来なら通じないはずだが、この世界に来た時から割と通じている。文字は最初に<暴食>を使わなければわからなかったが言葉はその限りではない。そもそも多様な種族が存在するのだから言葉が簡単に通じる方がおかしいだろう。

 さて、そうであるはずのこの世界で、彼らの言葉はかなり異質である。大陸の違いで言葉のニュアンス、内容が変わるというのであれば海の向こうの大陸の住人と公也たちの対話でそれがわかるはずである。それがなかったが、ここの大陸では公也に言わせれば様々な訛りを含むものに聞こえる。決して一つの訛りではないというか、そもそも訛りなのかもよくわからない感じにも聞こえる。一体何なのか、なぜなのか。いくら理由を考えても深くは分からないだろう。そもそも言語が通じることに関しては謎の法則、世界のルールによってそうなるもの。なぜそうなるかの理由すらわからないのにその変換、通訳法則を理解しようとしても無理だろう。根本的な大本すらわかっていないのだから。


「ここはどこなんだ?」

「知らずにきたぎゃ?」

「適当な旅だからな」

「だが知らずは危なきゃ。行く当てもなく何も知らずにゃ危ねすわ」

「……まあ、そうだな。ただ、こちらも色々事情がある」

「そうかえ。なんらかあったならしかたね」

「それでここは?」

「端の方じゃき。四島の三つ……あんたら侵入してきたか?」

「侵入?」

「……あんたらどこもんやか。四島のもんじゃなか?」

「…………それは言わなきゃダメなことか?」

「いんや。別にかまわんと」

「……そうか」


 話の内容はあまり進展しないがとりあえず四島の端の方……三つと言っているが、四つのうちの三つ目の島、ということだろう。公也から見れば今いる場所が島には見えないが、これに関しては厳密には分からない。空から見れば多少は何かわかるかもしれないが……とりあえず彼が話すには四島の三つ、その端の方だということだ。そして言っている侵入……どこかから入りこんだ、という意味合いの内容。この侵入の意味は四島に住む存在ならば知っていることであり、それゆえにそれに関して問を返した公也は四島の存在ではないという推測ができる。

 怪しまれるかと思ったが、公也と話している男性は別に気にしない様子だった。いろいろな意味で公也は怪しい……そもそも会話の伝達、話し方が彼らの話し方とは違う時点でいろいろ怪しいと思うところなのだが、そこに関してはどう言葉が伝わっているかも厳密には分からないため怪しまれる理由になるかはわからない。

 さて、男性は話ながら自然に自分の腹付近に手を置いていた。するっ、と服の中に自然に入り……それを外に出し、公也の方へと向け。


「死んでもらうし」


 音もなく、公也へと向けて弾丸が放たれた。






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