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「そう……キミヤはどっかわからない場所に転移、しばらくはリルフィと旅をして戻ってこないと」
「本気で心配したのですよ……死んでないのは分かったですけど、どこに言ったのかの把握は遠すぎてできなかったのです」
夢見花がメルシーネとハルティーアの元に訪れ公也のことに関して話した。ハルティーアはアリルフィーラの危機を一応は感じたがそもそも彼女はそういう方面に手を出せる能力がないので特に何もできず、メルシーネは公也の存在がこの大陸……さらに言えば国としてもまだそれなりに近い場所にいるのがいきなりどこかとても遠い場所に行ってしまった事実に驚きと困惑と混乱、ともかくいろいろな感情が混ざった状態で滅茶苦茶動揺していた。どうすればいいか自分でもわからない状態でハルティーアも大分なだめるのが大変だった様子だ。
夢見花に説明され、一応は理解を示したがそれでも不安はないわけではない。そもそもメルシーネは守護魔竜と呼ばれる存在であり、主を守るのが己が使命と言えるもの。それなのに頼まれたからとハルティーアの護りに付き、結果として主を危険な状況に放り込んで自分はそれを守るために動くこともできないわけである。苦痛というか、存在意義が崩壊しかねない事態である……まあ、公也が生きていることはその存在の繋がりからわかっていたのでまだそこまで酷いことにはならなかったのだが。
「とりあえず大丈夫そう」
「それは安心したわ。でも戻ってこないのはねえ……」
「言いたいことは分かるのです。でもご主人様ですから」
「キミヤらしいと言えばらしいのだけど、その代わり面倒を被るのは私なのよ?」
「……今回も一緒に帰っていた王へと連絡をしておいてほしいということですしね。ご主人様が戻ってこない以上は誰かが伝えなければならず、場所の関係上ハルティーアに頼むというのは納得のいく話ではあるのです」
「立場的にも国対国の話し合いでまともにそういう対応ができる人材も限られるもの。仕方ないと言えばそうでしょう。でもね、いつもいつもいっつも! そういうことばかり頼まれるのよ。こっちの苦労もわかってほしいって言いたいわ、ほんと。いえ、何度も言ってるんだけどね。ちゃんと聞いてくれてはいるけど聞いたからってじゃあ諦めるとかやらないとか、自分を曲げることはしてくれないのよ」
「……恨み事が多いですね。いえ、ご主人様が大抵悪いので仕方のないことですけど」
基本的に公也はそのやっていることの関係上、かなり文句を言われるような機会が多い。別にこれに関しては文句を言う側が悪いのではなくほとんどの場合公也が悪い。あるいは別に悪いことではないがこの世界の常識や一般的な感覚とは合わないことが多い。特にわかりやすいのがペルシアが嫌がっている事柄だろう。立場的な違いは有れどペルシアはこの世界のほぼ一般的な人間の感覚寄りだ。ゆえに彼女の反応はこの世界の一般的な反応に近い。まあペルシアの場合は少々過剰な反応でもある。彼女の反応を若干薄く弱めたものが一般的な感覚と言っていい。
アンデールには……厳密にはアンデルク城にはそういった一般的な感覚から外れた人間が多い。一応は騎士や侍従などのそちら寄りの感覚だった者はいるが、大体はもういなくなっているか慣れて受け入れた者が多く、上の方に立つ人間……特に公也や妃に近い立場にいる人間はかなり濁を飲み込めるタイプである。ハルティーアなどはそもそも一般的な妃から外れたアクティブで政治運営、国政に関わろうとする存在でかなり特殊である。アリルフィーラはそもそもその立場、性癖からの様々な行動など、他と比べてもかなり特殊な行動をしている。そして今アンデルク城にいる人材は冒険者だったり魔法使いだったり魔物だったり……城の生活に関わるメイドたちもメイド人形という存在でまともな人間の方が少ないような状況に近い。街の方は普通だがそちらが城と関わることは少なく、城の方はかなり普通ではない状態と言えるだろう。
「まあ、私も今こうやっていろいろやれているのはキミヤのおかげだから。そういう意味では文句をあまり言えないっていうのもあるのよ。一般的な王妃って自分から他国に出向いてあれこれやるって普通はないわ」
「そういうものなのです?」
「何らかの国の宴への誘いなどでそこに出向き、そこで色々とやり取りすることはなくはないわ。女性……王妃同士での話をしたりとか、あるいは出身の国に戻ってとかそういうことはあるけど……そうね、アリルフィーラがやっていること、そういうものなら珍しくはないわ。でも私は正妃ではに側だし……それなのに国の運営、政治に直接かかわって采配をしているわけ。普通ならまずありえないわ。そもそも政治は王がやるべきこと、主体がキミヤであることよ。あまり女が関わることもないって話」
「一応この世界は男尊女卑とは言わないですけど、男性の方が強い社会性ですからしかたのないことですけど……」
この世界は厳密には男尊女卑ではない……と思われる。どちらかというと男性の方が立場が強くはあるが、冒険者でも女性が普通に活動していたり、女王なども別に存在できないわけではなく、ギルドなどでもギルド長に女性が就くこともないわけではない。とはいえ、やはり男性の方が強い立場というか、男性優位な社会性であることは否定はできないだろう。ゆえに大体の場合は王と王妃では王の方が立場が強く、国政も大体は王が行うこととなる。まあ女王の国では女王と王配では普通に女王の方が強い。当たり前と言えば当たり前だがそういう場合でも王配の方を上に建てようという動きは基本的にはない。そのあたり男性優位でも男尊女卑的な考えで動くわけではない……と思われる。厳密にそのあたりの動きは不明である。一応は世界の一般的な見方、根幹的な部分として男尊女卑ではないが男性優位な社会である、というのをメルシーネは知っているというだけの話だ。
「だから本当に自由にさせてくれるキミヤには本当に感謝してる。色々と男女の機微とかそういう方面は本当にダメダメだし、なかなか一緒にいるとかそういう機会も少ないし、恋愛とか本当にできないのは知ってる……なんだか言ってて頭に来るくらいキミヤはそういうのダメだけど、いい人なのは知ってる。私を受け入れて、好きなようにさせて、それで私たちのことをちゃんと好いてくれているのは知ってる。だから……ちょっと? 何よその顔?」
「いえ。ご主人様はちゃんと皆に好かれているようで何よりなのです」
「……ほんと、なんで好かれるかわからないところの方が多いのよね。人としてダメな部分多くない?」
「多いですね。ただ、あれで懐が深いというか広いというか……受け入れる性質が強いのです。だから頼りやすくもあるのです。そういうところがいいのかもしれないのですね」
「そういうものかしらね……まあ、確かに言えば大体受け入れてくるからわからなくもない……のかしら?」
結構ボロ糞に言われている公也である。まあ今までのいろいろな経過を見れば善人でいい奴……というのは行動からわからなくもない。時に普通に悪事も行うような点はあるが、基本的には善人、人のためになる行動の方が多いだろう。とはいえ、大体傍若無人というかとんでもないことをするわけのわからない人物であるとみられる方が多いだろう。もうちょっとなんとか人に積極的に好かれる、信頼されるような動きはするべきだろうとは思うところだ。




