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暴食者は異世界を貪る  作者: 蒼和考雪
四十五章 傾国の魔
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 リシェイラの死体を始末したティアエリシィとアリスティル。死体は結局バラバラにして川などに捨てることとなった。燃やすのは目立つためある程度目立たない手段としてそうすることとなった。まあそちらはそちらで目立つが、まだ処理はそこまで難しくもない。この世界では多少荒事の跡があっても気にされないことの方が多い。


「アリスティル、これから」

「アリスティル?」

「……アリスティル様、申し訳ありません」

「直したのならいいわ。それで、何か聞きたいことがあったのではなくて?」

「これからどうするつもりでしょう。リシェイラ、この国を壊す毒であった魔物を斃し、これ以降は大きな問題は少なくなるはずです」

「先ほど話していたことを聞いていたのかしら? 私はこの国を出るつもりよ」

「…………それは」

「この国の未来は暗いわ。いずれは確実に滅ぶ。私たちの代か、その先かはわからないけど。どちらにしても安泰ではない。あの女がこの国に刻んだ傷はそれなりに大きいの。ただの貴族である私たちも王家に比べればまだ安全かもしれないけど、それでも不安はある。王家はもう色々と無理でしょうね。妃も存在せず子もおらず、民に刻んだ傷は大きく貴族との間に隔意も生まれている。今までしてきたことを思えば妃を迎えることも難しいでしょう。できて他国から、この国の問題を知らないか、あるいは王家を乗っ取るつもりか。どうあっても王家自体が長くは続かないわ。今回の大きな失敗の影響は大きいでしょう。貴族も王家も色々な影響によって……どうなるでしょうね。王が変わるのは確実に起こることでしょうけど」


 この国に残ることは将来的に自身の身の安全につながらない、危険なことになってしまう……仮に自分の代でなくともその後の代でどうなるかわからない。少なくとも政情の安定は見込めない。しばらくは混乱し国の分裂や他国の干渉、最悪民の反乱などで王家や貴族は多くがつぶれてしまうだろう。そうでなくともリシェイラが遺した影響がどのように働くか不安がある。それくらいならこの国から出て別の国で過ごした方がいい、そういう考えをアリスティルは持っている。


「まあ今回の件、リシェイラによる傾国の動きがなくとも私はこの国を出るつもりだったわ。この国は結局のところ小さな国でしかない。何か起これば、他国との争いになれば、どうなるかわからない不安定な国。そんなところにいるよりも大きな国で安定して過ごせるほうがよほどいいわ」

「…………元から家を捨てるつもりだったと」

「それはもう昔から、前々から言っているはずよ? 忘れたのティアエリシィ」

「……いえ。しかしあなたの行動からどこまで本気で考えているかはわかりませんでしたから」

「足の悪いふりなんかしていたものね。外に出ることもなく、表舞台に姿を見せずに過ごしていた。逃げる、外に出るつもりがあったならもう少し能動的に動いてもおかしくない……そう思うのかしら?」

「外に出ずにできることは限られていますので」

「だからこそあなたを使っていたんじゃない。表に出て知られればその分だけ他者からの干渉を受ける。家に閉じこもり外に出ず姿を見せずその存在を知られない、為人を知られないようにする。そうしてきたからこそ今回みたいに裏で動きバレずに事を成せるのよ。リシェイラがミスをしたのは情報収集を怠ったこと、それと同じで情報収集をできないようにすることで相手に自身の存在を悟らせない、相手に知られず隠れて動く。私がしてきたことはそれだけ」

「……それにしてはいろいろ知っているようですが」

「そういうことができるだけの話よ」


 アリスティルは人を扱うのに長ける……色々と知ることができる特殊な才覚がある、その他彼女自身策謀、知略、情報関連、そういった分野が得意なため本当にいろいろと他の人が知らないようなことを多く知っている。まあそのあたりのことはともかく。アリスティルはこの国の外に出ることにしている。これは既に彼女の中では決まっていることであり、ティアエリシィが何を言おうとも覆すつもりはない。そのためにも今まで動いていたわけであるし。今更心変わりするくらいなら先にリシェイラを早いうちにどうにかしていただろう。


「ではアリスティル様は国を出ると」

「ティアエリシィ。あなたもよ? 私についてきなさい」

「それは……」

「国と心中しても、家と心中しても仕方ないわ。私の姉なのだし無意味に死なせるつもりもない。もっとも使える私に仕える騎士でもある。これも前からずっと伝えていたわ。それともこの国に、家に未練があるかしら?」

「……無いとは言いませんが、そこまででもありません。私は騎士として仕える主のために働くのみです」

「ならいいでしょう?」

「……わかりましたが、どこに向かうのでしょう」

「ふふっ、今回の件で少しこの場所なら今後も安泰だろうという国が思い浮かんだのよ。流石に場所は遠いでしょうけどね」

「今回の……まさか、アンデールという国ですか?」


 今回の件に大きく関わった公也という存在、その公也の住む国なら安全面で言えば確かにいいのだろう。しかしアリスティルはそちらではなく別の国を考えていた。


「確かに彼が関わっている彼の国はこれから先の心配は薄いかもしれない。もっとも今後の安全が確保できるかわからないし国としては小さい、色々なうわさを加味すればあまりまともな環境とも思えない。そもそも彼が私たちを大人しく受け入れるかもわからないわ。果たして私が彼に安全な存在と判断されるかわからない。あのリシェイラですら彼を恐れたほどでしょう? 何が起きるか、何をするか、予測がつかない。それは安全ではないわ」

「……ではどこに?」

「彼の妻を知っているかしら? 来ていたのだけど。アリルフィーラという女性よ。彼女の出身国はハーティア、アンデールという国が存在する近隣の国でもっとも国としては大きい国。彼の国に関してはこの国でも結構な話が入ってきているでしょう?」

「……つまりハーティアに、ですか?」

「国が大きければ大きいほど私たちの存在は紛れ、うまく取り入りやすい相手も増える。国としての安定性や安全面でも悪くはない。ましてやキミヤ・アンデールの妻の一人、それも正妃とされるアリルフィーラという女性の出身国。そのつながりは大きく、より安全な要素が増える。悪くはないでしょう」

「そうですね。ですが遠いのでしょう?」

「だからこそ財産は多い方がいい。安全は何と確保できるでしょうけど移動にはお金がかかるし向こうで生活するための費用も結構なものになるでしょうからね。確保はできたからあとはあちらに向かうだけ。準備をしていきましょうか」


 アリスティルはティアエリシィを連れハーティアに向かう……今回のことはそれを目的としたもの。向かう国は今回の件で決まったが、外に出てそちらで過ごすつもりであったことには変わらない。何年も、十年以上もずっと待ち準備してきたこと。相当な執念があったと言える。なぜその目的を抱いたのかは謎だが。



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