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暴食者は異世界を貪る  作者: 蒼和考雪
四十五章 傾国の魔
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「っ、あなた! いきなり何を!」

「………………」


 女性騎士はリシェイラの言葉に特に感情を見せない。リシェイラを恨むわけでも、彼女の所業に怒っているわけでもない。彼女は特にリシェイラに対して負の感情を見せずに彼女の足を斬りつけた。感情がよくわからない、何を考えているかわからない、一体なぜ彼女はリシェイラの護衛をわざわざ引き受けて外に彼女を連れ出したのか、そして外に連れ出した彼女を斬りつけたのか。それも殺さずに足を斬りつけるという行動にとどまっているのはなぜか。


「それは私の命令に忠実だっただけよ」

「っ! 誰!」

「あら。ご存じないのかしら? まあ、自分の使っている駒が誰と知り合いかどうかなんてそう知っているわけもないか。その家族関係も知識として知っていてもその相手について知っているわけではない。あなたにとっては玩具以下の生き物がどういった生活をし、どういった繋がりを持っているか、自分の見知らぬ存在は興味も持たないということかしらね。そういえばあなたはそれの名前を知っているのかしら?」

「…………何を」

「玩具の名前なんて知らないでしょうね。そもそもあなたは魔物で人間には興味ない、自分が楽しむために利用し弄ぶ以上のものではないでしょう? くすっ、傾国の魔とはよくいったものね。国を傾け滅ぼす、そのために動きいろいろやっていたみたいだけど、それは確かに成功した、成功して今すぐは滅ばずともゆっくりこの国は終わりに向かっていくでしょう。とはいえ、あなたの望んだ終わりでもないでしょうけどね。所詮傾国の魔とか大層な呼ばれ方をしていてもその程度ということ」

「何なの! お前は!」

「アリスティル・ベルフェスト。この国の貴族の家の娘よ。ああ、でも聞きたいのはそういうことではないわね。そこにいる騎士であるティアエリシィ・ベルフェストの妹、そしてあなたにその姉をつけた……あなたに忠実に従い動くように命令し、あなたの動向を見ていた人間よ」

「ティアエリシィ……?」

「やっぱり知らない、あるいは忘れたのかしら。そこにいる騎士は私の姉なのよ」


 突然現れた女性……リシェイラはその格好に言及していないが、車椅子に乗った女性だった。女性というには少々若い感じで、リシェイラを護衛しこの場で斬った騎士に似た容貌、本人も行っているが姉と妹の関係にある人物である。そして姉であるティアエリシィをリシェイラにつけた……リシェイラの動向を見守ってい人物でもあるようだ。正直言ってまずこの場でその行動を理解できない、関係性を理解できない話の内容である。


「姉……?」

「あなたが人質に取ったそれの妹が私。ああ、父や母、関係者も一応人質に取っていたのだったかしら?」

「そんな、え、おかしい! 魔物をあなたの家につけていたはず!」

「これでしょう?」

「……っ!?」


 車椅子に座っているアリスティルを連れてきた人間がいる。いや、それは人間ではない。人間の姿に化けた魔物である。というか、それはリシェイラがベルフェストの家の監視、家の人間を人質にとるためにつけた魔物である。リシェイラもそうして送った魔物を事細かく覚えてるわけではなく、アリスティルに言われてようやくそこにいる人間、アリスティルを連れてきたのが送った魔物だと気づいた。


「なぜ……!」

「魔物相手にはあなたのカリスマもそこまでではないのでしょう。便利で強い、自分より格上の相手だから従う。同じ魔物で従いやすい相手、恩恵ももらえるし悪くはない。そんな思考で従っていたならそれ以上の条件を付ければ鞍替えすることもありえるんじゃない?」

「それは……」


 魔物と言えど、リシェイラに従うのには相応に理由があるからでしかない。傾国の魔としての特殊能力は国を作る存在、人間相手には極めて効果的なのだがそれ以外の種、また人間でも女性相手には効果が薄い。決して全く効かないというわけではないものの、効果はそこまででもない。そもそも魔物からすればり上の魔物に従うのはやはり相手が強いとかその恩恵に与れるという側面が強い。リシェイラも魔物として相応にカリスマはあるものの、彼女の場合強さなどでの絶対的な魅力は薄く、それゆえに離反はありえなくもない。ただ、それは相手が魔物であればだろう。おそらく人間がその相手であることを想定はしていないと思われる。そもそも人間も魔物を使おうとは思わないのが普通だ。


「っ、それはわからなくもない、ありえなくもないでしょう! でも私に監視をつける理由には……いえ、おかしい。姉を監視に付ける? 姉をそれ呼ばわり? 普通ではないわ」

「魔物に言われたくないわね。普通を期待しても仕方がないでしょう。私はこんな形だもの。あなたの傍に侍るのはそれじゃなきゃできないでしょう? 今あなたをこの場に伏させたのもティアエリシィよ。こうなることを目指して……いえ、結果でしょう。でも結末としてあなたをこうすることはやろうとしていたことではあるわ。そういう点ではやはりティアエリシィをつけることは間違いではなかったわね。姉に命令し使う妹……それが騎士であり主に対して忠実なこと、それが私を主としていること、そこに至るまでの理由は色々あるけれど、結果としてそれが私の騎士として忠実であるからこそよね。あなたに忠実に従ってくれていると思った? 全部私の命令に従ったまでのことよ。残念だったわね」

「………………」

「自分が普通でないのは分かっているわ。だって、あなたが国をこんなにするまで放っておいたのだもの。姉が傍に侍るあなたを殺すのは姉を使えば容易だった。そうではなくて?」

「っ!?」


 傾国の魔として行っていた国の滅び……リシェイラの活動をずっと見ていたのであればそのことに気づいて然るべきである。しかしアリスティルはそれに特に関わるようなことをしなかった。国が滅びに向かうのを特に気にせず見続けていた。


「あなた……」

「別に私は何も悪いことをしていないわ。したのはあなた、魔物であるあなたでしょう? くすっ」

「っ…………」


 リシェイラも流石に目の前の相手が普通ではない、まともではないと何となく察する。妹でありながら姉を使うこと、送られてきた監視の魔物を逆に取り込み使うこと、そして何より国が滅ぶためにリシェイラがしていたことを見続けながら、別に何とも思わずそのまま放置してきたこと。なかなか一般的な人間の思考では難しい。いくら貴族の娘と言えども。


「なら、なぜ」

「なに?」

「なぜこんなことを……」


 しかし、そんなアリスティルがリシェイラをこの場に留めた、ティアエリシィに足を斬らせてわざわざこの場にアリスティルが姿を表し色々と語る理由は何か。それがわからない、わけがわからない……そう彼女は思い、問が口から出た。アリスティルはそれににこりと笑顔を見せる。


「なぜ、ね。ふふ、聞きたいかしら?」

「…………」


 聞かないほうが良かったかもしれない、そうリシェイラは一瞬考える。しかし特に何も言うことはしなかった。いや、できなかった。どう行動するのが正しいか、彼女もよくわからなかったからだ。






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