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暴食者は異世界を貪る  作者: 蒼和考雪
四十五章 傾国の魔
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 騎士による案内、いざというときの逃走経路、うまい具合に人や魔物を避けけたり対処したりでき、リシェイラは城の外へと抜け出すことに成功した。城の中は未だ騒がしく、一応この国を訪れた他国の王族などに問題は波及していないようだが正気に戻った兵士たちだけでは抑えきれない状況の様だ。騎士たちは魅了や洗脳の影響を受けこの問題への対処が微妙なとところ。リシェイラの影響を受けているからと言って騎士として一切活動をしないわけではないのでまだ何とか出来るはずだが……その騎士たちを動かす判断をできていない、混乱した状況ということだろう。あるいは魔物ではなくリシェイラの捜索、捕縛を優先している可能性もある。それでも全く対処しないわけにはいかないため魔物への対処にも行っているだろう。結局どちらもしなければならず、混乱を治めるには難しくリシェイラも追いきれない状況、ということだ。


「ふう。ここまでくれば流石に大丈夫でしょう。誰かが来るような場所でもなし」


 脱出先は人気のない場所、隠れた場所でいざというときリシェイラ自身隠れ家代わりに使うことを考慮と入れていた場所だった。城にいるときもこの場所に誰かを呼び寄せて……ということもあった。色々とろくでもないことをするのもこの場所で行うこともあってその道具、残骸も幾らか残っていたりする。それらを見てリシェイラの護衛というか、一緒にこの場所に連れてきた騎士も……特に表情を変えずにいた。普通ならばなかなか精神に来るようなものもあるが、そういったものを気にしないあたりリシェイラの周りで色々と彼女の助けとなるような行動をせざるを得なかったゆえか。


「リシェイラ様。これからどうするおつもりですか」

「どうにも。この国にはいられないでしょう。逃げるしかないわ……あなたはよく私の役に立ってくれました。感謝しているわ」

「恐縮です」

「ふ、ふふ。まさか人間にわざわざ感謝を示すこととなるとはね。私のような存在がまた奇妙なこと。今回もそうだけどあなたは実に便利だったわ」


 リシェイラは魔物であり人間とは違う……どちらかというと人間を見下し弄ぶ邪悪な存在である。人間など下等な者、感謝を示すような相手ではない、そう考えるがゆえに今まで感謝を口に出しても形だけで心から感謝を示すことはない。そもそも感謝の言葉を述べること自体ほぼなかっただろう、立場的にも。ゆえに今回感謝の言葉を述べた事実はかなり稀というか、天地がひっくり返ったに等しい。まあそれだけ今回のことは彼女にとっては堪える出来事だったということだろう。


「何か見返りを与える必要があるかしら?」

「いえ、別に……」

「謙虚ねえ。あなたの立場を考えれば私に何を要求しても構わない、何でも要求できるだろうというのに。ああ、でも私もあなたに対して脅せるだけのものがあるわね。城の魔物たちはその姿を元に戻して解放したけれどそれ以外のいろいろなところに派遣している魔物たちはそうではない。あなたを従わせるために監視みたいな形に配置している魔物はそのままね。それがある限りはあなたも過大な要求はできないでしょう。ええ、その魔物をどうにかすることの方がいいかしら? ああ、それとも邪魔な周りの人間を始末する手伝いでもすればいい? あなたがどう考えているかがわからないから何でもいいなさい。私が叶えましょう」


 大分リシェイラの機嫌は言い様だ。現状助かったという点もあるが、彼女の護衛として付いてきた騎士自身が彼女の味方であるというのも理由だろう。騎士の女性は彼女の家族などを人質に取る形で従わせているが、騎士の女性の方も半ば自ら協力する形で従っている。そこにどんな意思があるかはわからないが、別に文句も言わないし敵意を持つこともない、リシェイラに対し忠実と言ってもいいくらいの行動をとっている。彼女にとってはペットでも飼っているような気分だろうか。他の人間と比べれば弄ぶ玩具、潰して楽しむ虫けらよりは全然まし、愛情を注げるような相手、立場であるということだ。


「それは……」

「貴方は便利だからこのまま私の護衛として使いましょう」

「難しいです。私は騎士として国に属し、さらに言えば貴族の家を継ぐ立場でもあります」

「ああ、そうだったかしら? でもその程度ならどうにでもなるわ。今は多少面倒だけれどね。お金もある、人をどうにかすることなど容易い。そういえば……あなたには妹がいるんだったかしら? ちょうどいいからそれを当主にでもつければあなたを連れて行っても大きな問題にはならないでしょう。人間のことなんて私にはどうでもいいけど都合がいいならそれでもいい。あなたの都合を考えずにやってもいいけど……ああ、でもそうなると面倒くさいものね。あなたは私の力で従えられるものでもないし」


 リシェイラでは女性を操ることは難しい。だから魔物を利用したり周りの男性を利用したり。今回気に入ったペットを連れて行くためにはそういった手段ではなかなかうまくいくものではない。一応魔物としてリシェイラもそこそこ強いが、それでも騎士である女性相手にどこまで通用するか。女性騎士の強さも彼女は厳密には知らないゆえに何とも言えないところ。だから彼女の願いをかなえることや周りの環境を整える、今後をよくすることなどで従わせようという考え……なのだろう。


「…………そういったものは私に必要のないものです」

「そう? あなたに決定的な楔を打ち込みたいところだけど……できないのは厳しいわね。でもついてくるのでしょう? ここまでわざわざ従ったんだもの。あなたの家族に関しては……そうね、魔物は戻しましょう。手は出さないで上げる。ただ、戻るのは許さないわ。私の安全の面でもあなたなが黙っているとは限らないわけだし。だからついてきなさい。そうしなければあなたの家族に危害が及ぶわよ」

「…………」


 リシェイラの発言に女性騎士は特に反応しない。感情を見せない……無い、というよりは気にしていない、だろうか。隠しているようにも見えない。リシェイラは人間という存在のそういった要素に関してはどちらかというと鈍感で、彼女のおかしさに気が付かない。


「私の家族にですか」

「ええ」

「それに関しては問題ありません」

「……問題ない?」

「私にもやるべきことがありますので。ようやく、ですね」


 そう言って女性騎士はリシェイラの足を斬りつける。それはあまりにも唐突で、リシェイラに避ける隙を与えなかった。


「えっ、あっ、つっ!? ああああああああああっ!?」


 そのまま、リシェイラはその場に倒れこんだ。






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