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暴食者は異世界を貪る  作者: 蒼和考雪
四十五章 傾国の魔
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「しかし、これからしばらく戻るまで連れて行くつもりですか?」


 ダハーカを連れて行くのは彼が魔物であるという点であまりよくない。公也を誘った王のもとに向かうのにダハーカを連れて行くというのは不安があるところ。そもそもこれから先、この国を離れて戻るのにも連れて行くとなると面倒になる。身内だけだから割と好きにできる、というのに赤の他人がいると雰囲気的にちょっとやり辛いところがある。


「いや。メルに持ってってもらうことも考えたが、そもそもそんなことせずともアンデールに送るだけなら問題はないからな」

「魔法ですね」

「ああ。帰還の魔法ならアンデールまでは問題なく移動できる」

「……そういえばそうですね。自分が帰るわけではないから想定はしていませんでしたが」


 公也の使う帰還の魔法はどんな地点からもアンデールに移動できる魔法。アンデルク城に刻んだ魔法陣に移動する魔法であり、自分をその場所に転移させるものではなくその地点に繋がる転移門、空間の穴、トンネルのようなものを作り出すもの。だからこそ使う公也だけではなく他の者も一緒に帰還できる。そして公也が入らなくとも問題なく、アンデールに送るだけという目的にも使用できるもの。一方通行……いや、一応は双方向になるだろうか。一時的とはいえ公也のいる場所とアンデールを制限なく繋げられるという点では極めて便利なものである。夢見花の使う塔との移動、転移よりははるかに使いやすい……ただ、この魔法は魔法陣を対象とするものであり、双方向とはいえ使う術者がいなければその地点に行けないという点では利便性は術者の移動能力と術者の魔法の能力に影響する。なので誰でも使えるわけでもない……特に遠距離になればなるほど魔力の必要数は大きくなる。

 まあそのあたりの話は細かくは気にしなくていい。つまりはダハーカをアンデールに送るだけならば今すぐ問題なくできる、という話である。


「ただその前に向こうに送ることを連絡しないとな」

「いきなり魔物が現れれば危険視されるでしょう。当然ではあります」

「わかるんですか?」

「あちらには魔物である人たちもいます。彼らが判別できないとは思いません」

「人では難しいでしょうか……気づく人は気づくと思いますけど」

「ヴィラとかは確実にわかるだろうし……夢見花はどうだろうな。セージたち、モミジは確実にわかるとして……リーンあたりはどうだろう。フーマルも怪しいか……」

「少なくとも私もシーヴェもアリルフィーラ様も見ただけでの判別はできていません。もっと強い冒険者方はどうなのかは不明ですが……」


 アンデールには魔物が多い。まあ人の方が圧倒的に多いが、一緒に暮らし人側の魔物が多いのは事実。魔物は魔物のことがわかる……というわけではないが、人よりは人に扮した魔物の判別はやりやすい方だろう。城そのもので内にいる存在を見分けるペティエット、毒で判別するヴィローサは恐らく確実にわかり、魔力で相手を判別するミディナリシェは微妙なところ。冒険者たちはまだ判別できる可能性がある、というところだろうか。


「まあ、先に連絡を入れるとして……そういえば魔物たちに関してだが」

「なんだ?」

「リシェイラ、という魔物に関して。どういう相手なのか、とか一応聞いておいた方がいいかと思ってな」

「あの女か……詳しく話すと長くなるが、簡単に言えば国を傾けて滅ぼすことを趣味とし、残虐に人を弄び楽しむ奴だ」

「ろくでもないな……」

「恐らく城の魔物の人の姿を解除した時点で逃げているか、その間に準備して逃げている途中かだろう」

「今から追うのは難しいか……?」


 今回の元凶である魔物はダハーカの言では逃げられているだろうということだ。庇っている……にしては言っているのがろくでもない内容で彼も表情に嫌いであると言っているようにしか見えない。まあ心根まではわからない。そう見せかけているだけの可能性もないとは言えない。まあ、彼がどう思っていようとも追うのが難しいのは事実だろう。そもそもリシェイラは最初に公也と王があった場所に出てこなかった時点で公也が危険でどうなるかわからないと考えていた、今回のような状況……洗脳や魅了が説かれる可能性を危惧していたと言える。ゆえに、今から追おうとしてもすでに遅い、となるだろう。







 そんなふうに公也たちとダハーカの会話が行われている間、リシェイラは逃げるための準備をして既に逃走を図っていた。


「本当に怪物……まさか、まさかここまでとは……城にいる魔物たちに時間稼ぎをしてもらわないと……また一からやり直しになるわ。でも仕方がない。あの怪物のいない場所でやり直しましょう。時間はあるのだから」


 ふふふ、と悪い表情をするリシェイラ。逃げるだけならば小さく金になるようなものを持ち逃げればいい。彼女の見た目は根本的には割と自由である。絶世の美女の姿は彼女の特殊能力ゆえのもの。その気になれば多少落ちた別人の見た目にもできる。名前も容易に変えられるし、なんとでもなる。


「リシェイラ様? どうかしましたか?」

「あら、あなたは……今の城の状況をわかっていないのかしら?」

「あちらこちらで魔物が出没していることは理解しています」

「そう。ならあなたは私の護衛をなさい」

「……城から逃げるおつもりですか?」

「ええ。こんな危険なところにはいられないもの。あなたも……自分の立場は分かっているでしょう?」

「はい。リシェイラ様に従いましょう」


 この城の騎士の一人である彼女はリシェイラに従う。リシェイラに従う彼女のはそもそもリシェイラに家族を人質に取られている立場であり、それゆえに従っている。まあそういう素振りは見せないし、それを加味してもあまりにも素直に従いすぎている。リシェイラも最初は疑ったほど素直で大人しい。

 ちなみにこの国の騎士はほとんどはリシェイラによって使い物にならなくされている。洗脳や魅了はもちろん、扱いにくそうな騎士は左遷したりと上手く追いやった。そして騎士自体は今回の洗脳や魅了の影響から逃れられる状況になかったため現時点でも動くことはない。とはいえ、リシェイラが逃亡して距離が離れれば、リシェイラとのかかわりが薄れればその洗脳や魅了は薄まり解けるだろう。とはいえ、すぐではない。今動かないのであればリシェイラにとっては問題ない。


「ふふふ……ああ、荷物を持ってもらえるかしら?」

「わかりました」


 騎士を顎で使いつつ、リシェイラは城を脱出する。脱出口も最悪の事態を想定して事前に彼女は用意していた。まさか使うことになるとは彼女も思わなかっただろうが。





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