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暴食者は異世界を貪る  作者: 蒼和考雪
四十五章 傾国の魔
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「いきなりいったい何を?」

「悪い話じゃないだろう。別に人と争い暮らすつもりはないわけなんだろうし」

「……確かに俺は別に人間に恨みがあるわけでもない。本能的な欲求に暴れたい気持ちがないとは言わないが、それも決して絶対に発散しなければいけないものでもない。人である必要もないからな」

「なら普通に過ごす分には隠れて過ごすのに近いとはいえ、穏便に過ごせる環境は悪くないはずだ」

「それはそうだが……」

「キミヤ様? 流石にそれは……」


 魔物を自国に勧誘しようとする公也に対し、フィリアが少々不満層に物申そうとする。彼女の反応は至極真っ当なものであり、別に悪いものでも問題あるものでもない。しかしアリルフィーラは気にしていないしシーヴェもおたおたしているがそこまで文句はなさそうだ。これに関しては不満を呈しているのはフィリアだけ……シーヴェは怪しいが、明確に意思表示しているのはフィリアだけだ。


「何か問題があるのか?」

「あるにきまっています。魔物である相手を勧誘するなど……」

「既に城に魔物はいくらでもいるが」

「確かにそれは……」


 アンデールには多くの魔物が住んでいる。宿屋を経営する雪奈、冒険者の仲間と一緒にいるモミジ、冬の魔物であった冬姫たち、数多の妖精に精霊のプルート。魔物と認識されづらい種も存在しているが、多くの魔物が住んでいるのは事実である。もはや魔物比べてそれ以上の存在も幾らかいるし、ある意味では魔物がいる程度問題ないくらいに恐ろしい魔境と言ってもいいかもしれない。


「彼女たちは基本的に危険がないからです。この魔物が危険でない保証がありません」

「それは……確かにそうか」


 目の前の魔物が果たして連れて行っても問題ない、危険のない存在であるか。それがフィリアは分からない。だからこそ望ましくないと考える。だがそれは魔物であるかどうかは究極的には関わらない。魔物であれば可能性が高いというくらいであり、魔物でなくともその危険はある。


「でも魔物だから危ない危なくないは違うだろう」

「はい。ですが相手のことをよく知りませんし、この国を現状に追いやった魔物と友好的な相手なのでしょう? それを信用できるわけがありません」

「ふむ……」


 魔物はこの国を大騒動大混乱に陥らせている傾国の魔と同盟を組んでいる。つまりは協力していると言ってもいい。実際現在兵士たちなど城の住人に襲い掛かっている魔物の中にはリシェイラではなく彼の配下の魔物もいる。ただ、これは魔物が兵士など城の中の住人に変化させられていたのを戻されたことに要因がある。彼らに争う意思がなくとも魔物と言うだけで人は敵対するだろう。まあ彼の配下の魔物は決して人間に対して友好的というわけではない。彼自身も決して友好的という意思ではない。便利で楽しく面白く生活できる、そんな環境を提供してくれる存在であるから争うのは望まない、好まないというだけに過ぎない。


「確かにそれはあるか。なら契約でもすればいいか」

「契約というのはよくわからないが……俺はそこまでしてお前のところに行く理由はない」

「……だが魔物であるお前をこっちも放置するわけにはいかないからな。穏便に逃がすのもありだが、その後お前が何をするかわからない。こちらの国に連れて行くというのはお前が問題なく過ごせることを目的ともしているが、監視が理由でもある。無駄に争う気のない相手を殺すつもりはこちらにはない。だが俺は人間である以上、人間にとって敵となり得る存在は状況によって、相手次第で殺して対処する必要がある」

「怪物が何を言う……」

「人を怪物扱いしないでほしいかな。大概人間離れしているのは頷くけどさ」


 相手の言葉に公也は自嘲しながら言う。自分が人間から大きく離れた身体能力や魔力量だったり、その他持っている特殊能力も一般においてあり得ないやばいものであることもわかっている。だからといって魔物にまで怪物扱いされるのは少々納得いかないというか、不満があるというか。言われても仕方ないとはわかっているがやはり一般的においては怪物扱いされる側からそういわれるのは流石にどうなのか、というところである。


「まあ、俺を怪物というなら逆にその怪物の言うことを聞かなくていいのか、とも言えるけどな」

「む……」

「別に契約せずとも、来てもいい。その方が自由でいつでも去ることもできるだろうし」

「キミヤ様?」

「フィリア。別にこれくらいならそこまで危険ともいえないだろう。ぶっちゃけヴィラとかの方がやばいし」

「行動する可能性、意思の問題です。危険性という点では確かにヴィローサも危険であると思いますが、単純な危なさはこちらの魔物の方が上では?」

「確かにヴィラは俺が言い聞かせれば暴走はしないだろうけどな……まあ、そうだとしても、なんとかするから」

「なんとかと言われましても」

「名前、何だ?」

「名前だと?」

「仲間……ではないらしい、同盟の相手だったか? そちらはリシェイラというんだろう? ならお前も名前くらいはないのか?」

「……ダハーカ」

「ダハーカ。今ここで選択しろ」

「っ!!」


 男性の姿をとっている魔物、ダハーカは緊張で動けなくなる。名前を呼び、公也が彼に向けて殺気に近い意思を向けていたからだ。


「死ぬか、従うかだ」

「…………!」


 公也の意見を受け、公也の国であるアンデールに行きそこで穏当に過ごすか、あるいは意見を聞き入れず危険な魔物としてここで処分されるか。その二択を迫られた。公也と相対している時点で公也がその二つのどちらかにすると決めたことでそれ以外の選択肢を失った。もちろん公也に従いアンデールに向かった後、逃げることもできなくはない。ただ、今目の前にいる魔物ですら怪物と思うような相手に果たして嘘をつき従ったふりができるかと言えば……難しいものがある。


「仮に、承諾して。俺が逃げる可能性もあるだろう」

「こちらにはもの探しの特異な特殊能力を持つ存在がいる。もし裏切ったならどこまでも見つけるまで探す……もし、俺の周りの人々に手を出すなら」

「…………っ」

「どう、するだろうな」


 公也が本気で怒った時と比べ、はるかに劣るがそれでも、いやむしろそうだからこそ、明確な恐ろしい気配、殺気と言ってもいい本気で死ぬと怯えるような気をダハーカは向けられた。ダハーカは魔物たちをまとめる存在、リシェイラの力によらずとも人の姿を一応は維持できる存在であり、その強さは結構なものである。そんな彼でも公也相手には、今の気を向けられた時点で抵抗する意思は完全に奪われた。


「わかった。その提案を飲む。恐ろしい相手だ。本音を言えばもう会いたくないほどだが、意見を飲まなければもっと恐ろしい。従う」

「……納得できますが、納得いきません」

「どっちなんだよ……」


 完全に力でゴリ押しした感じである。しかし、これで一応はこの場における一番危険な魔物は対応できた。別に始末して終わらせてもよかった気がするが、これに関しては公也の気まぐれ……というか、殺さずに済ませられるならと考えたが故の行動なのだろう。それがいいのか悪いのかはわからないが。





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