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暴食者は異世界を貪る  作者: 蒼和考雪
四十五章 傾国の魔
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「この城の人間か?」

「……そうだ」

「そうか」


 じっと相手を見る公也。何やら緊張しているような雰囲気で相手は公也を見返している。


「すまないが、もう行かせてもらう」

「……今の状況は分かっているか?」

「城の中で魔物が発生したのだろう? わかっている」

「発生……というのが正しいかわからない。兵士たちが魔物になっているとは聞いている」

「それは発生でいいのではないか? 俺にとってその表し方はどうでもいい」

「そうか」

「悪いが……」

「一つ聞きたいが」

「なんだ」

「お前は人間か?」

「……いきなり何を問う?」


 公也の質問は流石に少々失礼かと思うような内容である。まあ、兵士が魔物と化した現状、この人物が魔物になるかもしれない、と考えたうえで……魔物が兵士となっている可能性があるならこの人物が魔物であるかもしれない、と考えるのはわからなくもない。ただ、それにしても唐突であるし相手は少なくとも見た限り人間と見える相手。公也の問いに関してはアリルフィーラたちも少し驚いた様子を見せている。それだけ相手に違和感を感じるようには思えないわけである。


「この城に魔物がいたのは知っている」

「何故だ?」

「後ろにいる俺の……妻と従者を探す時に少し荒っぽい手段を使って、その時に人間以外の存在を探知したからだ」

「それは他の者に言ったのか? 言っていないのならばなぜ黙っていた?」

「探しに行った妻と倒れた兵士、その件で色々と取り調べに追及……そんな中そんな話をするのはいいことじゃないだろう。さらに言えば倒れていた兵士二人も多分魔物、だろうな。妻の近くにそれっぽいのがいたのは分かっているから」

「……魔物が。それならありえなくも……」


 フィリア自身違和感を感じ、考えていたことでもあったがアリルフィーラを連れて行く兵士二人は魔物であったということのようだ。片言のように特定の単語しか話せないのは魔物が変化したからであり、その魔物はリシェイラの配下である。リシェイラの配下のすべての兵士が魔物であるとは言わないだろうが、多くの兵士が魔物であった可能性は高い。そしてその兵士を国の兵士に紛れ込ませたり、王を利用して兵士の採用時点で魔物を混入させた可能性が高い。兵士に限らずリシェイラの肝いりで城に入り込めた魔物は多いだろう。もしかしたら城以外の場所にも魔物が配属されている可能性すらある。


「そうか」

「それで、魔物がいるとわかっているうえで……相手の気配に注意すれば、なんとなく普通の人間かそうでないかくらいはわかる」

「………………」

「強い人間は普通の人間とも違う気配を持つが、それでも人間は人間の気配だ。人と魔物では気配の違い、受ける感覚、力を感じる感覚の違いがある。冒険者なら魔物を感知したりすることのできる実力を持つ人間は多いだろうし、そういうのの一環だ」

「…………」

「だから問うぞ。お前は人間か? いや……お前は魔物だろう? 違うか?」

「…………………………」


 公也の問いに黙ったまま答えることをしない男性。黙る、という行動の時点で男性が怪しいのは確実なものである。


「仮に俺が魔物だとして、どうする?」

「……ふむ。どうする、か」


 公也は相手に問われて考える。もしこの男性が魔物だったなら公也はどうするか。


「順当に行くなら倒すのが一番、となるだろうな」

「…………」


 無言で男性は警戒するような様子を見せる。わざわざ問いかけたあたり、相手の動き次第では……というつもりなのだろう。


「俺としては別にこちらにとって脅威でなければ倒す必要はあるとは考えない」

「なに?」

「知り合いに魔物がいるからな。もちろん魔物も人を襲う場合があるし、国や街、人の生活に害を為す場合もある。今この城で起きている騒動もその原因もそういうものだろう」

「……それは確かにそうだろう」

「お前は? どういうつもりでここにいる?」


 そういって公也は相手を睨むように見る。睨みつけてはいない、あくまで睨むように、問いの内容次第では敵に回るという意思である。


「ふむ……リシェイラ、という女を知っているか?」

「名前だけは。今回の件の元凶だろうという推測はできているが」

「それと俺は同盟を組んでいる。まあ同盟などと言っても、決してあれのために何かをしようというつもりはない。互いに力を貸し、対等な関係であるという程度なものだ。俺があれに手を貸しているのはあくまで人間の住んでいる場所に入り込めるからに過ぎない」

「入り込んで何をしようと?」

「特に。人間の生活に興味があるでもなし、滅ぼすつもりがあるでもなし、襲ったりなんだりするつもりはない」

「…………ならなぜ?」

「いろいろ便利だからだ。魔物が魔物として生活するならば何の不満もないのだろうが、人と同じ環境での生活を知り慣れ、それらの技術を知ればその便利さを失いたくないとは思わないか? 俺自身別に敵意も悪意もあるわけではない。必要なら人も殺そう。逃げるためなら魔物の姿で暴れ逃走するのも構わない。しかしそこに、無差別にただ面白がって人を殺そうなどというつもりはない。あの女のようにな」


 彼らは彼らで色々と個々の意見、意思上がる。リシェイラの傾国の魔としての性質、人を弄び国を傾け滅びを楽しむような、絶望と苦悩を平らげることを望むような存在に比べ、彼を含めた魔物の多くはまだマシな方だ。ただ、魔物個々の意思の強さ、精神の程度、理性と知性の質の違いがある。彼は比較的理性的で知性的、まともな思考ができるが多くの魔物はアリルフィーラを連れて行った二人の兵士のようにリシェイラに従わざるを得ずただ従っているだけという者も多い。

 彼の目的は人間に近い便利な生活を営む……だけかはわからないが、その言っている言葉は本心の一つではあるだろう。リシェイラは国の一番上、城や王族周りなどの重要な立場に就くことができ、その恩恵は大きく生活も楽で楽しく便利に過ごすことができる。そういう点では彼の言っている通りの便利な生活を送るためにリシェイラに手を貸す、というのはあり得なくもない。ただ、やはりそれだけ……というのは考えづらいところはある。しかしそこまで考える必要もないだろう。あくまで現状判断できる点で公也は判断するしかない。


「その理由でこんなところにいるのはおかしい気もするが」

「あの女が人に化ける、化かす、人間たちに紛れ込むのに極めて便利な力を持っている。その力を受け穏当に過ごすためにはあの女に手を貸すしかないだろう。それゆえにだ」

「……なるほど」

「あの女は既にどこかに行った。追うつもりがあるなら早くする方がいいだろう」

「俺はそうするつもりもないが……いや、色々な意味で危険もある。探した方がいいか?」

「俺に問われても知らん。それで……どうするつもりだ?」

「…………このまま去るつもりか?」

「ああ」

「…………ふむ」


 ふと、公也は考える。この魔物を放置して良いのか。脅威という点ではそこまでではないが、恐らく強力な魔物ではある。果たして放っておくことが望ましいことか。監視する必要、いざというときに倒せるようにしておいた方が人間社会的には、世間的には安全ではないか。人への敵対意思がないのならば……人側の意思次第では味方にできるかもしれない。


「なあ。俺の国に来るつもりはないか?」

「なに?」


 それゆえに、不意に思いついた考えで公也は彼を勧誘した。




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