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暴食者は異世界を貪る  作者: 蒼和考雪
四十五章 傾国の魔
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「う、ぐ、ぐ……」

「おい? どうした?」

「ガアアアアアアッ!!」

「なにっ!? ま、魔物!? おい、どうしがっ!?」


 唐突に、城の中にいた兵士が魔物と化して側にいる者を襲った。今公也たちが訪れている国、その城では兵士たちの魔物化現象が起きていた。いや、事実としては逆……魔物が兵士に化けていた物が元の魔物の姿に戻った、というのが事実だろう。この国のこの城にはリシェイラの手によって魔物が入り込んでいる。変化、幻、誤認、特殊能力の性質が何であれ、魔物が兵士に見えるという事実は確かであり、それによって城の中にいても全く怪しまれずにいることができた。アリルフィーラを連れてくる命令を受けていた兵士もこの魔物の化けた存在であり、それゆえに片言というか決められた言葉以外を使うことはできなかった。

 まあ、そんな兵士はいきなり魔物に戻り、周りの者を襲った。それは彼らの意思ではない。厳密に言えば魔物から戻ったこと自体は彼らの意思ではない。彼らの主というか、上司というか、自分たちを従える存在がそう指示した……そうするように伝達があったから、である。当然それは傾国の魔、リシェイラからの命令である。彼女が従える魔物である彼らは直接の言葉を通じずともその意思から命令を受ける。そして変化の解除もまたリシェイラの手によるもの。その特殊能力の効果を打ち切ったため元に戻った。仮にリシェイラからの指示を受けておらずとも、彼らは周りの物を襲うしかない。彼らの本能、性質もあるが、彼らが魔物であるが故に人間は敵であり何もしなければ自分たちが襲われるとわかっているからだ。

 どうしてこうなったかは魔物たちによる混乱を城にまき散らすため。全てはリシェイラが逃亡するためのもの。目的は攪乱、そして今後この国が滅ぶための可能性高めること。呼び出した他国の王族に怪我でも追わせられればそれだけでも大きな事実である。それもついでに望み、そしてなんとか逃げることが目的にある。




「ガアッ!」

「おっと!」

「アリルフィーラ様!」

「守りますよ!」

「お願いします」

「二人に任せる必要もない……けどな!」

「ガウッ!?」

「ギャッ!?」


 そして魔物は決して兵士だけではなく、また兵士の周りにしかいないわけでもない。城の中に如何ほどの魔物がいたのか不明だが、何人か重傷で倒れていたり、あるいは今魔物と戦っている状況にある者、逃げている者もいる。公也たちもまた二体の魔物に襲われる結果となった。もっとも魔物がどれほどであれ、公也達には脅威にはならない。アリルフィーラと二人の従者では若干押される可能性もあるが負ける可能性は低く、公也がついている現状魔物がどういうものであれ問題なく進める。


「魔物……」

「城の中にいた感じか。あの話に合ったリシェイラとやらの子飼いか?」

「わかりません。しかし、少し話を聞く限りでは元兵士であるとか」

「兵士を魔物にした……いや、魔物を兵士にしていたのか? 現状の情報だけじゃどちらかはわからないな」


 公也から見た限りでは魔物が兵士化したのが元に戻ったのか、あるいは兵士を魔物に変化させたのかわからない。魔法にはそういうものはないが裁きの鳥のような特殊な魔物であればそういった力を持っていてもおかしくはない。リシェイラのような魔物の場合、自分に心酔した相手を魔物に変える力があっても不思議ではない。まあそれよりはまだ魔物を人に化けさせたという方が納得がいくところだろう。


「ところでこの後どうするのですか?」

「この国を出る……まあこれは最終目標か」

「今すぐでても構わないと思いますけど……」

「いや、流石にこの状況で出て行くと怪しくみられるというか……」

「私たちがやったみたいに言われると嫌ですよね」

「そうですね……では留まるんですか?」

「いや。そもそも俺たちはあくまで同伴者だからな」

「……そういえば」

「あの方々に判断をゆだねる、と」

「今兵士が魔物になって城の中が大騒動だし、あの王様も安全かはわからない……どこに魔物がいるかわからないからな」

「助けた方がいいですね」

「守りに向かい恩を売ると」

「そこまでは言わないが……一応誘いを受けた立場だしな」


 現時点で公也たちがどうするか、というのは方針として微妙に決まりにくい部分があるが、別に公也たちが全てを決める必要はない。そもそも公也は今回の宴において誘われた王族の同伴者。いくら現時点で大混乱な状況にあっても公也たちだけですべてを決めてどこかに行ったりするのはよくない。連れてきた王族のところに行き、彼らと共に去るか、仮に公也たちだけ去るにしても会って挨拶をし、事情くらいは話しておいた方がいいだろう。

 もしかしたら魔物たちに対する対処を頼まれるかもしれない。公也としてはその程度であればまだ問題ない範囲だ。流石に国の問題、リシェイラをどうこうというのは頼まれてもやるのは難しいし、それ以外の対処……これから先のあれこれの対処までは請け負えないが、現状の対処程度ならまだ動ける。とはいえ、この混乱、状況の急激な大きい変化に対応できずそういった依頼もないだろう。落ち着いてからするには少々遅い。

 さて、そんな感じに自分たちの方針を決めた公也たちは自分たちを誘った王のいる場所へと向かう。基本的に城に客を招き泊める部屋が用意されている。同伴者である公也たちは流石に別の部屋だがそれでもまあまあいい部屋である。基本従者や護衛は別部屋だが……公也とアリルフィーラに付き世話を焼くということでフィリアとシーヴェも同部屋、四人特に分かれることはない感じになっている。まあ、結局彼らの部屋は誘ってくれた王とは別の部屋だが。ともかく誘った王のいる部屋、その方向へと向かう。途中で魔物の姿に戻った兵士と出会いそれを始末しつつ、安全に。


「ん?」

「……むっ」


 そんな中、公也は顰め面をしている一人の男と出会う。ただ、気にかかったのはその表情ではなく……気配。なんとなく違和感を公也はその相手に感じていた。





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