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「おっ?」
「壁が消えた」
「今がチャンスだ! 行くぞ!」
「いや……行っていいのか?」
「あの壁を作れる相手だぞ……」
「怖気づくな! 王の命令だぞ!」
「そうだ! この国の大事な損じに迷惑をかける相手は捕まえなければ!」
風の壁が消えたことで兵士たちが公也たちに攻撃を仕掛けることができる。しかしこの場にいる多くの兵士は乗り気ではない。そもそも最初の動きも彼らのような威勢のいい兵士、王に従うこと以外考えない兵士やリシェイラに心酔している兵士が動いたことで他の兵士も動かざるを得なかったわけだが、多くの兵士は決して公也たちの捕縛を望んでいるわけではない。仕事だから仕方なくというのはあるが、あまりにも王の発言が横暴なものであるのは分かっているし、公也の脅威、危険性も魔法の強さゆえにわかる。魔法が解けて戦えるようになったからと言ってもう魔法が使えないとは思えないし剣の腕も最初に兵士の一撃を防いだ時点で決して低くはないのがわかる。魔法も剣も強い相手に普通の兵士が戦いを挑むのは……少々好ましくはない話である。
「なんだ。まだ戦いを挑むつもりか? 風よ」
「っ!?」
「うわっ!」
公也が兵士たちに風の魔法を使いお互いの距離を広げる。その風はある程度維持されている感じで兵士たちが公也に近づこうとしてもその風に押され近づけない……先ほどの壁とそこまで近づくことができないという点では大きな差がない。ただ、公也側からすれば方向を定められた力であり、壁のような隔離する境界とは別物……防御のために行った壁の影響による効果は隔離、すなわち外と内の断絶。外からの攻撃は効かないが同時に内からは攻撃できないということでもある。まあそれは公也の魔法であり公也であれば壁を突破して攻撃することもできるが、そこまでするのも面倒だし無意味に大規模になるし魔力の無駄遣いになるし効率が悪い。そういうことで壁を解き、しかし魔法を用意している間下手に攻撃してきたりとうざったい真似をされるのも煩わしいので近づけないようにした。正直二度手間であると思わざるを得ないが、悪い手立てではないだろう……多分。
「正直話にならないし、こちらを攻撃しようとしてくる。穏便に済ませたいわけじゃなさそうだし、人の話も効かない自分の非を認めることもない、そんな相手にこっちも少しアイライラしてきた。やったらやり返される、まあ別に俺はそういう主義ってわけでもないけど……別にこっちも大人しくしている必要はないよな? 容赦しなくてもいいよな?」
そう言って公也は魔力をため、魔法を使う準備をする。言葉通りにイライラしているようには見えないが、意外とアリルフィーラを害そうとする動きには少し怒りのある公也である。さて、魔力を準備し魔法を使おうとする……のはいいが、それが何なのか、何をしようとしているのか、一般的な人間にはわからない。魔法使いであれば多少魔力と魔法の気配を把握できるがそうでない一般人はただ魔法を使おうとしているのがわかるくらいだろう。ただ、魔力の多寡は何となく察することができるだろうという点で大規模な魔法を使おうとしていることくらいは分かるかもしれない。
「誰か止めよ!」
「……何かやばそうだ」
「逃げる方がいいかもしれない」
「しかし……ここで危険な魔法を使うとは」
「何をするかわからん。巻き込まれたくはないぞ」
「王を置いてか?」
「……あの王を命を懸けて守ろうとは思わんだろう」
「む……」
「仮に命を懸けて守ろうとしたところで守ろうとした者ごと吹き飛ばされそうだ」
「……ありえそうだな」
「くっ……!」
「近づけないな」
「もっと頑張れよ! 何かしようとしてるだろ!」
「止めないとやばくないか!?」
「それは分からんでもないが!」
王の命令、傍観する要職にある人物たちは逃げようかと考え、兵士は果敢にも公也をどうにかしようとするものとあきらめているものに分かれている。誰も公也を止めることはできない。できるとすれば側にいるアリルフィーラくらいだが、彼女は止めるつもりはない。フィリアとシーヴェでは止めるには弱く、またフィリアはアリルフィーラ優先であるため止めるつもりもなくシーヴェは何をすればいいか困惑気味。誰も止めることはできない。
「強大なる力、膨大なる破壊の意思。大いなる火の球、小さなこの場の太陽のような熱量を持つ炎。その炎は一瞬で放たれる熱量。全てを焼き尽くさんばかりの炎、熱、光、大いなる力の波濤は誰もが感じる大きな力」
詠唱とともに生まれる小さな火の玉。しかしその熱量は外に漏れずとも、火の球の荒れ狂うような、膨大な熱量と炎自体を閉じ込めたかのような球体な状態を見れば何となくその恐ろしさは分かる。何より一般的な火とは違い、真っ白に光っていると言ってもいいくらいの見かけである。熱が強ければ強いほど、炎は白に近くなる……かは実際のところ違うが、そんなイメージゆえに白が強力であるという認識になる。これは詠唱にあった太陽のイメージもあるだろう。太陽を見た時、そこに見る色は恐らく白だろう。太陽の熱量で白色だから……というイメージだ。実際詠唱で言っているし、太陽をイメージしたなら熱量の大きさはともかく色は白でいいのかもしれない。
「弾け解放し、その熱を持って消え去る。サンライト」
そしてその膨大な熱量は、小さな太陽とも思えるような炎は解放され、一気に周囲へと広がった。この場にいる多くの者に、死をイメージさせて。
「え?」
「あれ? 生きてる?」
「な……え? な、なにが…………?」
「公也様? 今のは……」
「一瞬死ぬかと思いました。どう考えても周囲への被害を考えないような、それでしたし」
「で、でもキミヤさんがそんなことするわけないですよ?」
「ああ……あれは単なる脅しだな」
「脅しですか」
「その割には……」
「もし当たってれば、多分消し炭を残すこともなく完全に消え去ったと思う。だけどあの魔法はごくわずかな範囲にしか広がらない、ただの虚仮脅しだ」
公也が使った魔法は本当に相手を消し飛ばすような攻撃の魔法ではない。確かにそこには攻撃の意思を乗せ、もしその魔法がちゃんと普通の魔法のように使われれば、この城ごと炎によって消し去りかねないようなものではあった。しかし公也が呪文で唱えている通り、サンライト……ただの太陽光のような特に大きな害のない魔法、である。虚仮脅しと公也は言っているが、その意志によって虚仮脅しにしているだけで結構やばい者である。だからこそ、その魔法の発動共に、そこに乗せられた攻撃の意思に多くの者が死ぬかもしれない、死んでしまう、そんなふうに思ってしまった。それこそが公也が目的としたことである。




