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「くっ、なんだこれは!」
「魔法だろ! 魔法使いはいないのか!?」
「この場にはいない!」
「呼んでくるか?」
「今の状況的に呼んだところでどうにかできるか。それにいきなり魔法で攻撃しろと言って納得するか」
「馬鹿野郎、ここにはいろんな人がいる。危険な目に合うかもしれない魔法を使わせるわけにはいかない」
公也たちが話している外では風の魔法による防護を掻い潜り兵士たちが入り込もうとしている。しかしそれはうまくいかない。かなり大雑把ではあるが公也がその魔力を持って構築した防御、それを突破するには相応の力が必要となる。少なくとも兵士たちが切り込んだところでどうにかできるものではない。仮に防御を削ぎ落してもそもそも公也が魔力を持って維持しているためその消耗もすぐに回復する。
魔法で突破……も魔法使いとして公也の方が魔力的に圧倒的であり、魔法の質、技術も公也の方が高く普通の魔法使いでは無理だろう。そもそもこの魔法を突破するような魔法は大規模で強力なものとなり周囲への影響も出てくる。今彼らがいるのは城の中、それも王や城の要職の人間がいる場所である。強大な魔法を使えばそちらに被害が行く可能性があり大問題となる。また、何か大きなことを起こせばそのことが宴に来ていた王たちにバレる可能性がある。今は多少落ち着いた状況というか、いったん休憩中のような状況であるため宴は行われていないが、それでも何かあれば来ている人たちに問題が起きたのが知られてしまうかもしれない。なのであまりそういった大きなことは起こしたくはないだろう。
「なんだあれは……」
「魔法使いだったのか?」
「剣を使っていたぞ……剣士じゃないのか?」
「そもそも他国の王の同伴者……護衛でもあるまい。何者だ?」
兵士ではない要職の人物たちも、少し纏まって色々と話している。公也の使った魔法、またそもそも魔法を使うという事実に、さらに剣を使っていた事実。そもそも公也が何者かというのを彼らはそこまで理解しているわけではない。彼らが理解しているのは公也が他国の王の同伴者で今回兵士と揉めた、城の奥に入り込んだという事実。そしてそこを王が何故か追及し、それを理由に攻撃しようとしたこと。
だがそれは失敗し現状妙なことになっている。わかるものはわかるがもし公也が防御ではなく攻撃をしていた場合、結構な被害が出た可能性があった。それに関して王に対して不満を持っている人物もいる。
「……本当にあれだけのことができるのか」
「なに?」
「いや、あれは……そこまででもないのか? 聞き及んだ限りでは……」
「何を言っている!」
「……彼のことを知らないのか」
「……知っているのか?」
「名前だけは。だから実際に見るのは今回が初めてだ。今この場に呼ばれ彼に関して調べるまで、知ることはなかった。本当なら手出しをしないように言うべきだったが……」
「誰だ」
「キミヤ・アンデール。アンデールの王だ」
「アンデール……?」
「あ。噂だけは聞いたことが……」
公也に関して、今回の件で初めてその姿を知った……というか噂でその名前を知っているだけという人物の方が圧倒的に多いだろう。また名前を知っていても効いたことがある程度で公也の噂の内容、その内実を知らないという方が普通だ。ゆえにその名前を見ても本人かと信じられるかはわからない。また今回の件においてその名前を知るには調書に目を通すか、呼ばれた人物の受付での名簿、同伴者の名前として記載されたそれを見なければ知ることはなかっただろう。少なくとも要職にある人物が見るには機会としては微妙な者だ。見るにしてもしっかり読んだ人物が来ているかの方が重要で同伴者はそこまでしっかり確認はされないだろう。
「アンデールの王は様々な国の問題を解決する。そのために動いている」
「眉唾物だな」
「いや、最近この近隣の国で彼が呼び出されたと……」
「…………そういえば大きな魔物被害が出たと噂にあったか。しかしそれに?」
「しかし彼は呼ばれてもいないはず……」
「いや、同伴者だ。呼んだ王の同伴者としてきていたんだろう」
「なるほど」
「だがそこまで恐ろしいのか?」
「……先ほどの魔物被害だが、大量の巨大種の発生だと聞いたぞ」
「………………」
「その巨大種の問題を解決した、となると……」
「いや、だが彼は一人だろう」
「部下や仲間がいたところで大量の巨大種をどうにかできるものか。そもそもそんなものがいるという話もない。竜を率いているとか聞いたことはあるが……」
「竜!?」
「あるいは超強力な魔法使いであるとか……あの魔法を見ればそれくらいのことができる可能性はあるのか?」
「あの程度で超強力……いや、決して弱くは」
「魔法について詳しい者の話を聞きたいところだな」
「そんなことをしている場合でもないが……」
現在兵士がその公也を襲っている状況、防御に使っているとはいえ大きな魔法も使っている。少なくとももう穏便に済む状況ではない。こんな状況で公也がもし大暴れするつもりになった場合、犠牲は、被害は、如何ほどになるものか。
「止められないのか?」
「王をどうやって止める。諫めようとも話を聞かない」
「……例の女性が原因ではな」
「やはりあの女性は……」
「言うな。聞こえれば王に限らずだれがどう動くか」
「う……」
その人物に関して話しただけで誰がどう動くかわからない。少なくとも名前を出せば必ず過剰反応される。だから話すことはできない、その女性の行動、やったこと、それに関して語ることもできない。ましてや糾弾するようなことも、悪口を言うようなことも許されない。そんなリシェイラによる統治が進んでしまっているのがこの城の、この国の現状である。今普通に話している人物も果たして彼女のことになればどうなるか……それがわからないから迂闊なことは言えない、そんな厄介な状況である。
そしてそんな状況であるがゆえに、誰も王も兵も止めることができず、状況は進むまま。そして公也が防御に引きこもった状況から動きを見せた。




