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暴食者は異世界を貪る  作者: 蒼和考雪
四十五章 傾国の魔
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15



「これ以上話をしても仕方があるまい。お前たちは自分の咎を認めない」

「それはこちらの台詞なんだが……」


 公也は自分たち側の罪を認めない。そもそも公也ではなくアリルフィーラが兵士たちを倒したわけであり、従者の二人がしたわけでもなかったりする。この場で責められるべきはアリルフィーラのはずだ。しかしそこに話が行かない辺り、どこまで正確に今回の件が伝わっているのか。まあアリルフィーラが兵士を二人倒したと言われても信じられるものではない。

 そしてこの国の王も罪を認めない。これはむしろわからなくもない。安易に自分が悪いと謝る王の方が普通はなかなか認められないというか、いてほしくはないというか。もっとも今回においては相手の立場、公也の立場を考えれば謝った方がまだ穏便だ。しかし公也のことを知らない、あるいは気づいていないためそうはならない……またこの件において関わった存在のこともあり王からすればその罪を認めない理由の一因になる。


「リシェイラの兵が関わったのであればそれはお前たちが悪いのだ。リシェイラが悪事を働くこともなく、彼女の有する兵が誰かに利用されることもない、その兵を唆し悪を為すこともない。彼らを害することも許されぬ。リシェイラの有する者に害を為したお前たちが全ての諸悪の根源よ」

「…………」


 どう考えてもリシェイラが今回の件に関わっている、あるいは関わっていないにしても王の意思をここまで頑なにしあり得ない支離滅裂な思考に湯どうしているリシェイラは絶対に善ではありえない。まあリシェイラがどう、というのは別に公也が関わることではない。この国の問題でありこの国がどうにかするべきことだ。だからそれはどうでもいい。問題なのは現状公也たちを咎める王をどうするか。リシェイラという存在で思考が狭くどうしようもないこの王をどう言いくるめてまともな結論を出させるかである。


「我が兵よ! この者たちを捕らえよ! そして罰するのだ! 処刑せよ!」

「おい……」


 流石にその結論はあまりにも性急すぎるもの、そしてあまりにも突飛なものである。公也たちの行動やその結果だけ見れば最悪そういう可能性はあるにしても、ここまで極端な形に持っていくのは公也からすれば想像外である。そもそも公也たちの立場、国で行っている宴が続いている状況、公也達の意見を聞きもしない一方的な結論、場所やこの場にいる人物たちのことを考えても、どう考えても普通なら出さない結論である。

 実際この場にいる多くの人物はその結論に対して動揺しているというか、どうするうべきかと判断に迷い動かない。兵たちはその結論に対してそれが正しいのかどうか、本当にそうして良いかと思うところであるし、要職にある人物は相手の立場、公也達の立場を理解しているから安易に罰すれば他国との関係が、と思うところ、さらに言えば公也たちのことを知り、その存在を理解している者もいてもし公也が暴れれば……と若干青い顔をしている者もいる。

 だがそう動かない人物ばかりではない。公也たちの発言を聞いても、いや聞いたからこそ動く人物もいる。リシェイラ派というか、王のようにリシェイラに心奪われ心酔している者は公也たちの発言がリシェイラにとって良くないもの、と理解していたり、あるいは王のリシェイラに敵対、害を為す存在に対して攻撃的な行動に乗っかるつもりであったり。また王に忠誠を誓うものであれば王の命令であればそれが正しいか正しくない関係なく聞き届け遂行するという者もいる。

 この場におけるそれぞれの判断は最終的に動けず傍観する状態にあるか、または王の命令でいち早く動いたか、その二つに分かれた。


「王の命だ! 大人しく捕まれ!」

「っと!」

「なに!?」

「なぜ剣を持っている!」

「預けていたのではなかったか!?」


 一気に動き公也たちを取り押さえようとした……というよりは斬りかかってきた兵士。捕らえ罰する方が本来はやるべきことだが処刑せよと言っていたからか、遠慮なく容赦名く斬りかかり殺すつもり満々の兵士たち。まあこれはあくまで公也相手でありアリルフィーラたちは流石に殺しはしない……あるいは公也も斬りかかっても殺すまではいかなかったかもしれない。ただ死に欠けるような傷を負わせる可能性はあっただろう。

 だが公也はそれを剣で弾き防ぐ。それに兵士たちは驚いていた。公也から剣を預かっていたのにいつの間にか手元に持っていたからだ。実際彼らが動く前までは公也は剣など持ってはいなかった。だがこの一瞬でその手元には剣が戻っていた。ミンディアーターの特殊能力でいつでも手元に戻せるというのは彼らは知らない。


「……話し合いで解決するつもりはないのか」

「お前たちが受け入れなかっただけだろう。寛大に許そうとしたこちらの言を聞き入れずにな」

「そうか。じゃあこちらも、最大限抵抗させてもらおうか」

「おおおおおおっ!」

「風よ!」


 ごうっ、と渦巻く風が公也たちを取り巻く。狙われているのは公也だけではなくアリルフィーラたちも同様。従者の二人も当然対象であり、その全員を守るための公也の魔法である。別に公也は対処できるので問題はないが、今は無意味に暴れるよりは様子見というか、どう行動すればいいか……と考えるために時間が欲しいということで自分も含めあ一時的な防御、隔離、閉鎖である。


「さて……どうした方がいいと思う?」

「逃げちゃいます?」

「それはダメでしょう。逃げるのはこちらが悪いというようなものです。まあこの国の位置を考えれば決してそれではダメだとは言い切れませんが……

「公也様が悪いと言われるのは良くありません。今回の件に関しては大事にしたのは私の方に原因がありますし……」

「リルフィは気にするな」

「そうです。アリルフィーラ様に落ち度はありません」

「そうですよ。リルフィ様がわるいなんてことはありません」

「ですが……」

「この国を壊滅させる」

「いえ、流石にそれは」

「冗談だ。できるだろうけどな」


 本気で容赦なく滅ぼすつもりがあるなら公也はこの国を灰燼に帰することができる。もっともそんなことはやらない。無意味に殲滅する趣味は無いしそもそもそんなことをすれば今回宴に連れてきた王やその他周辺の国の王たちも巻き込むことになる。この国だけならまだしもそれらの国を巻き込めば大戦争になりかねない。まあそれでも公也ならどうにかできるだろうが、そんな無意味なことをするつもりは一切ない。


「まあここまで大きな事態になっている原因は分かるんだ。あの王様……もあるが、その王様に言うことを聞かせている元凶がいる」

「リシェイラ、ですか」

「あそこまで言っていればわかりますよね」

「そのリシェイラという……女性、ですか? その人を倒せばいいと?」

「それは難しいかもな。追うことはできなくもないが、倒せばそれでどうにかできるとは限らない」

「……しかし、どうにかしないといけないのではありませんか?」

「脅して言うことを聞かせる、というのも意味があるか、やって聞いてくれるかわからない。そもそも相手が人ではない可能性もあるしな」

「……あの兵士たちも色々と怪しいところはありましたが、魔物ですか?」

「恐らく。現時点でははっきりは分からないが」


 公也は二人の兵士も含め、この城に多くの魔物がいるのを魔力による探知で把握している。誰がそうなのか正確には分からないし、何人いるかしっかり把握しているわけでもない。誰がどうなのか、何なのかもわからないし性別も不明。だが多いということ射るということは分かっている。


「それを言えば」

「言っても意味ないだろうな」

「ええっ?」

「……そうですね。こちらがいくら言っても聞き耳は持たないでしょう」

「そもそもあれはどう考えてもおかしい状態だからな。惚れ込んで視野狭窄に陥った、とも考えづらい。洗脳とかそういうものじゃないか?」

「そんなことが……」

「でもそれじゃあどうしようもなくありません?」

「洗脳ならどうにかしようと思えばできるかもしれない。本気で惚れてああなったんなら無理だろうけど」


 対処手段はないわけではない……まあ、それも絶対のものではないし、洗脳であればなんとかできるかもしれないというだけで洗脳じゃなかったらどうしようもない。まあその時はその時で公也は別の手段でどうにかしようと思っている。そちらの方は多少荒っぽいことになるだろう。まあ、洗脳をどうにかするのも結局は大分荒っぽいものになるだろうが。



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