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『公也』
「……どうした?」
魔法による遠話、アンデール……アンデルク城からではなく夢見花から直接公也へと連絡が届いた。
『アリルフィーラが危険な状況』
「……なんでそれがわかったか、はいちいち聞かなくていいか」
『そう。重要なのは彼女が危険なこと』
「わかってる」
アリルフィーラの危機は公也と繋がりのある人物であればわかる。メルシーネもハルティーアも現時点で気づいているし、雪奈やヴィローサも気づいている。ただ、場所が場所なので関われるのが公也とフィリアにシーヴェの三者のみ。そして公也に直で連絡が入れられるのはアンデルク城そのものからの遠話か夢見花の魔法によるものくらい。手間、速度を考えれば夢見花が連絡するのは当然だろう。
「しかし、どこにいるかが……いや、探す手段はあるか」
『魔法を使えば』
「魔法は使ってられない。場所的に。わかりにくくする必要がある」
『どうするの?』
「そっちも知っているだろう。できる手段」
今公也のいる場所からではアリルフィーラたちがいる場所を探るのは難しい。魔法を使えばわかるが宴の場で魔法を使うのも、と思ってしまう。だが公也は魔法を使わず探しす手段を知っている。それを行うつもりだ。
「っ!? ……化け物め。これがあれの言っていた化け物の力か」
「ああ、もう。二人とも倒された? まったく……役に立たない。でもこれを理由にすれば……いえ、吊るしあげたところでうまくあの怪物を扱えるようにはできないかしら。あれを放置するのも危ないから殺す方向で考えてもいい。あれも流石に人間相手に……あの怪物はそういうことを気にしない可能性もあるわね。どうすることが最上なのか……悩ましいこと。先ずは兵士たちの回収、いえ、兵士を襲ったと糾弾するためにその状況を確認するための人員を送らなければいけないわね」
リシェイラは兵士二人が倒されたことを把握している。しかし、それを理由にアリルフィーラを捕まえ、公也に言うことを聞かせる……という作戦は少々難しいところがある。そもそもが今回のことの非は大本ではこの国側だ。リシェイラは王の指示ということで動かしたが、もしかしたらそれが流れでリシェイラに都合の悪い結果に繋がる危険もある。リシェイラの魅了誘惑洗脳、それらの特殊能力の影響は決して完全なものではなく、それよりも強い力やなんらかの強烈な精神影響で解ける可能性があり得るもの。そもそもリシェイラがどう頑張っても完全に自分の指示に従わせることはできず、自分の行動や意思決定に疑問が生じるようなことになれば矛盾で精神影響を脱する可能性もある。ゆえにやり方はしっかり考えなければいけない。
ただ、どうするにしても今回の剣をこのまま放置は出来ない。良くも悪くも公也たちを捕まえる……少なくとも兵士を攻撃した事実を上手く使わなければいけない。それがこちらの国の側の非に繋がり下手をすれば逆に悪い状況になる可能性もあるが、それはそれでリシェイラにとってはこの国が滅ぶ可能性、その道に繋がるものでもあるため悪くはない。一番重要なのはリシェイラに対して影響がないこと。最悪今回の宴で招いた国に入り込む手立てを諦めなければいけないが。彼女は時間さえあればなんとかできなくもないということもあり、今はとりあえず傾国の方向性に進ませることを選んだ。
「それじゃあまずは近くにいる兵士を」
そこまで言葉を紡いだところで、彼女は言葉を止める。
「今、のは……! なんたる怪物なんでしょう!」
その理由は彼女が感じたからだ。この城全域を覆う魔力を。
公也は魔法によらない探知能力を知っている。特殊能力ではないそれは魔力によるもの。アスモネジルの王城で公也が感じた魔力によるそのうちに存在するものの探知である。ミディナリシェのその探知能力を知っているため、公也はそれを使うことにした。
しかしそもそも魔力による探知は難しい。前提として魔力を満たすことができるだけの魔力量が必要となる。ミディナリシェの魔力量は膨大であったためずっと城を満たし続けても問題はなかった。公也もまたそれができるほどの魔力量はある。ただ、ミディナリシェのような漏れ出る魔力だけで、というのは効率が悪いし公也の場合は彼女の様にはいかない。ただ、放出に関しては公也は問題なくできる……というか魔力的な効率が悪いとはいえ、公也はそちらのほうができる方だろう。もちろん無駄に魔力を消費することをしない。一瞬……は流石に短いが、少しの間そこにいる存在、城の内部構造を把握できる程度でいい。
だが普通はそれで存在を把握することは難しい。ミディナリシェもあくまでそのすべてを詳しく把握していたわけではなく、魔力の性質、それぞれの魔力の差で判断していたにすぎず、それは彼女が視力を持たなかったゆえの感覚能力の増強の影響もあった。公也では流石にそれだけの把握は難しく、また今回ごく短い間しか使わないうえにほとんどすべてが知らない人物であり、また知らない場所であるがゆえにそれで把握できるものは多くがないだろうと言える。
ただしアリルフィーラとシーヴェとフィリアに関しては話が別となる。これに関しては彼女らの公也とのつながりの大きさがある……特にアリルフィーラはその存在把握が極めてやりやすい。こればかりはアリルフィーラだからこそ、である。
「見つけた」
そして公也は城の中を進みその場所へと移行と宴の場から去ろうとする。
「……あれ? どこに行くんですか?」
「妻を迎えに」
「そういえばいませんね……」
「少し呼ばれたので。彼女を迎えに」
「そうですか」
その際に公也を誘った王と少し会話をする。彼は何も知らない様子であり、今回の件には関わっていない様子である。まあ公也から見てそれが演技かどうかもわからない者であるのだが。どっちだとしても別に公也にはどうでもいい話である。
「リルフィ」
「公也様」
アリルフィーラとフィリアによってシーヴェが兵士を倒したのち、どうしようかと判断に迷っている三人のところに公也が来た。一応彼らに呼ばれて連れてこられた以上アリルフィーラたちがその場を勝手に去るのは流石に問題がある。かといってそのまま捕まってしまうのも問題がある。さて、どうしたことか、どう話せばいいのか、誰に話せばいいのか、現状的にどうすればいいのかわからない状況だった。
そこに公也が来たのでちょうどいいというか、後は公也に任せられると彼女たちは安心した……まあ、公也がいれば何とかなるという信頼感があるのだろう。最悪力押しで。
「大丈夫か?」
「はい」
「……呼び来た兵士が倒れているな」
「ええっと……」
「彼らがアリルフィーラ様に襲い掛かってきたのでしかたがなく」
「危なかったんですよ?」
「そうみたいだな……」
公也は先ほど魔力で城にいる多くの存在を探知している。アリルフィーラたちはもちろん、その他の多くの人物も。人を探知する能力は公也はそこまで高くない。魔力の違い、差があると言っても個人のその差を把握できるほど公也は感覚把握能力が高くない。人間に関して把握できるのはせいぜいがアンデールの住人、公也との縁や繋がりが強い人物くらいである。
だが、それは人間、人種に限った話。仮にそれが人以外の存在であったなら……その存在を把握することくらいはできる。
「しかし、その二人……」
「どうかしましたか?」
公也が倒された兵士について言及しようとする。しかしその前に、この場にこの国の兵士がやってきた。
「おいっ! 大丈夫か?」
「……お前たちがやったのか?」
「ええっと……」
「とりあえず……今は状況説明からになるか。話をするのは構わないが、あまり無理に連行するとかはやめてほしいな」
「む……大人しくついてくるなら手荒なことはしない」
「ならそうしてくれ。ただ、こちらはこちらで宴に呼ばれた……人物に同伴していた立場だ。侵入者とかそういう立場じゃない。その点を把握していてもらいたい」
「なに? それは……」
「こちらとしても判断に困るな」
「とりあえず上に話を通そう。俺たちだけで扱いきれるかわからん」
彼らはあくまで一兵士。この場の状況だけで見れば国の兵士を打ち据えた襲撃者、として見られるが……宴に参加していた人物となるとまた話がややこしくなる。さらに言えば被害だけで見ればここに彼らがいるというのもおかしい、兵士だけしか被害がないのも妙、そもそも現時点で状況把握ができない。無理やり連れて行き恫喝や拷問などで強引に聞き出すことができる可能性もあるが、もし公也たちが無実であった場合問題になる。特に宴に参加する立場であったならなおさら。なので判断を上に任せることにした。それが一番安全で問題の少ない形である。




