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暴食者は異世界を貪る  作者: 蒼和考雪
四十五章 傾国の魔
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 フィリアとシーヴェは戦うことができるメイドである。一般的な従者に比べ二人ははるかに強く、多少の戦闘行為であれば全く問題なくできる。ただ、根本的に二人は戦う者、戦闘従事者というわけではない。

 フィリアはメイドでも裏より、いざというときに主を守るため動けるタイプの隠れた戦闘力を持つメイドという感じでそもそも戦いにおいて強者と言える者ではない。仮に冒険者と戦うのであればDランク相手で大分厳しいくらいだろう。それでもそこまで戦えるのはメイドとして見れば十分とはいえる。いざというときに何とか出来る程度の強さがあれば大丈夫な場面は多いだろう。

 シーヴェはこちらの大陸ではない人間てはない他種族が差別されていた大陸出身であり隠れ住む都合上自分たちの安全を確保しなければいけない場で過ごしていた。戦闘力が高いとは言えなかったが公也たちにより彼女の能力を上手く誘導することにより守りにおいては極めて優秀な強さを得るに至った。守りだけで言えばCランク冒険者にも劣らないレベルで守りに特化しているため護衛、主を守る従者としては十分すぎるほどだ。

 そんな二人では決定的に足りていないことがある。それは攻撃力……戦闘において相手を倒す技術とパワーである。特にシーヴェは守りに特化しているということになるが、これは特化しているというよりそれ以外ができない問題がある。彼女はどういう形であれ相手を攻撃しようと自分の力を使おうとするとうまくいかない、ミスをしてしまうもはや呪いかあるいはそういう種族特性、特殊能力のようなものがあり、守りに連動する形で攻撃する形でしか攻撃できない。フィリアはある程度武器を扱えるが従者としてのスタイルの関係上暗器系の武器を使うのが基本であり、そのため攻撃力、相手を倒す直接戦闘においては戦う武器が足りない形になる。

 つまりは現時点での戦闘において、まともに兵士を相手に戦う場合、二人では相手を倒すための決定打が足りなくなるということだ。真正面から戦う場合は特にそうになってしまうのである。


「くっ、いきなり襲い掛かってくるとは……っ!」

「連れて行きます」

「強い……いえ、私ではそもそもこういった相手をどうにかできるわけではないのですが」


 ギリギリと兵士の力により押し込まれているフィリア。根本的に真っ向から戦うようなタイプではないが、それでも多少持たせることはできる……と彼女は考えていたが、そう上手くはいかないようでただの力押しで一方的に押し込まれるような状況となっている。


「くっ、ふっ、とっ!」


 相手の攻撃を無理やり力で負けながらも逸らし、弾き、対応するフィリア。しかし圧倒的に不利な状況だ。


「わっ! っと! ええっ!?」

「………………」

「な、な、なんとか! 守る、守らないと! でもこの状況、キミヤさん気づいてくれるかなっ!?」


 フィリアに対してシーヴェは危なげない感じではある。受けてなんとか守ることはできるが、そもそも彼女はそのまま攻撃に回ることができないため一方的に受け続けるしかない。フィリアは多少攻撃を混ぜることで相手の攻撃の手を緩めさせる、防御に意識を向けさせることができるがシーヴェはそれができない。不利目だが防御一辺倒ではないフィリアと互角だが防御しかできないシーヴェ、どちらの方が果たしてやっていて問題は少ないだろうか。

 さて、現状二人は相手兵士を押さえている状況だ。守る対象はアリルフィーラ、アリルフィーラに関しては逃げることもできるが果たして逃げた方が安全かどうかはわからない。頼りにしているのは公也となるが、公也がこの状況……アリルフィーラが襲われかけ二人が戦っている状況に気づけるかというと、そもそも気づける要因がない、場所が離れて音も声も届かないし知らせることができる者もいない。この城の人間に呼びかけるのも兵士が敵に回っている時点で難しい。むしろ拮抗している現状を外部から訪れた者が破る危険すらあるだろう。公也であれば気づいてくれるかもしれない、ここに来る前にいろいろ話していたこともありもしかしたら……という気持ちはあるが、果たして本当に気付いてくれるかどうかわからない。そもそもちゃんと場所を把握してきてくれるかもわからない。いつ来てくれるか、そんな不安を持ちながら二人はアリルフィーラを守らなければならない。




「………………」


 そんな自分を守る二人を見ながら、アリルフィーラは短剣を抜いていた。流石に場所が場所であるためそれは殺傷能力のない、あえて言うならペーパーナイフに近い多少の切断能力しかないものだ。まあそんなものでも突き刺せば場合によっては相手を傷つける、いや殺すことも不可能ではないが……流石にアリルフィーラの身体能力ではいくら頑張ってもまともに相手を傷つけることは難しい。動かない相手に体重を乗せて思いっきり深く突けば殺せるかも、という程度だろう。

 もしその短剣を使うなら自殺用となるかもしれない。いや、自殺すら難しいものであるが……彼女のような戦闘能力のない人間、それも王妃という立場のような女性が持つ短剣となれば相手を傷つけるよりは自らを殺し利用できなくする目的となる事が多いだろう。自分の立場を理解し、誇りを持っている人物ならばそういうこともある。場合によっては貞操を守るため、ということもあるが。


「公也様」


 すっと、彼女は短剣を構える。


「力をお借りしますね。"主を守る竜は守護の力。その爪は守るために振るわれる"」


 アリルフィーラは短剣を持った手を振るう。




「ごっ」

「っ!?」


 突如、何かに薙ぎ払われるかのように兵士が吹き飛び壁にぶち当たる。それはフィリアの目の前で行われ、フィリアはその一撃を見ることができた。それはまるで竜が爪をhるったかのような一撃だった……いや、竜というか、彼女からすれば見覚えのあるメルシーネの攻撃だった、というべきだろうか。当然この場にメルシーネはいない。そんな一撃を振るうことのできる相手はいない。


「今のは……」


 しかしフィリアは一応知っている。そのような力を振るうことができる可能性を持つ人物を。


「アリルフィーラ様?」


 アリルフィーラに視線を向けたフィリアに、彼女はにこりと笑顔を向けた。



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