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暴食者は異世界を貪る  作者: 蒼和考雪
四十五章 傾国の魔
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8





「あの女を使う、あの男に言うことを聞かせるための人質にする……仮にあの怪物に会うにしてもその他の人間はいないほうがいいでしょう。あの女を人質にするにしても上手くいくかはわからないけど……従者を利用するのもありね。傲慢な性格なら従者のことを気にしない可能性もあるけどそうでなければ従者の命を盾に、あるいは拷問して苦しめることで言うことを聞いてくれるわ。拷問を見せて従わなければこうすると教えてもいいし。捕まえることさえできればそんなことをしなくても薬や快楽でどうとでもできる……ふふ、まずはそちらから行いましょう」







「すみません。よろしいですか」

「なんだ?」

「いえ、あなたではなくそちらの女性です」

「……私でしょうか?」

「はい。王がお呼びです。来てください」

「……いきなり?」

「この国の王が、ですか?」

「はい」

「……どうしましょうか」

「断る……のも失礼、かな。いや、そもそも何の用で呼び出すかわからないんだが」

「そうですね……」

「そもそも俺とリルフィはあくまで呼ばれた他国の王族の同伴者なわけだし、呼ばれるのはおかしな話なんだが……」

「来てください」

「…………」

「……どうしましょうか」


 公也たちのところに二人の兵士が来てアリルフィーラに呼びかけた。王が呼んでいる、ということである。それに対して公也もアリルフィーラもなぜかと疑問に思う。公也が行っている通り二人はそもそも参加者ではなく他国の王族の同伴者になる。当然本来王が呼び出した人物ではない。そのうえ公也ではなくアリルフィーラを呼んでいる、というのも色々と怪しいというか、疑問に思うとともに何を目的としているのかと怪しむところがある。さらに言えば公也は現時点で若干違和感を感じている。兵士の話し方があまりにも……何というか機械的に見えるからだ。兵士の表情、雰囲気もどことなく何もない感じ、無表情というかそんなふうに見えなくもない。まあこれに関しては実際どうなのか、と思うところであるが。


「とりあえず一応行くだけ行ってみるしかないか」

「……そうですね。立場的に呼ばれた側、お客様の側ですが……誘ってくれた方にも迷惑をかける可能性もありますし」

「向こうの善意で誘われたんだけどな。まあ、だからこそあまり迷惑はかけたくないか」


 とりあえず兵士に言われた通り王の元へ……兵士たちの案内について行くことにしようとする公也とアリルフィーラ。


「すみません。あなたは呼ばれていません」

「……呼ばれていないと行けないと?」

「あなたは呼ばれていません」

「…………」

「キミヤ様。今はひとまずこの場に」

「フィリアとシーヴェは連れて行けそうですし、何かあれば助けを呼びに行きますから」

「……何かあっては欲しくないんだが」

「大丈夫ですよ……多分」

「二人は十分強いですし、揉め事も大丈夫ですよ。そもそも向こうもあまりに無体なことはしないでしょう。こんな宴を開いている状況ですよ?」

「……そうだな」


 しかし公也はついて行くことを拒否される。シーヴェとフィリアは一応ついて行けるようで、今回はそちらにアリルフィーラの護衛を任せ公也は宴が開かれている会場で待つこととなった。







「……嫌な雰囲気です。ここはどう考えても」

「どう考えても?」

「王のいる場、ではないような」

「そもそも王が呼んでいるのに宴の場から離れるのも奇妙な気がします。あれだけの宴を開いたのであれば普通は王ともなればあの場にいるのではありません?」

「そう……ですね。主催者が別の場所に、というのは……いえ、ありえなくもないですが……」


 アリルフィーラたちが連れてこられた場所はどう考えても王がいる場所ではない、宴が開かれている場所から離れたところである。仮に宴の場に王がいないにしても、王がいる場所はなんとなく想像くらいつく。そもそもアリルフィーラが呼びつけられたこと自体謎なのにこんな怪しい場所に連れてこられたというのは……どう考えてもおかしい。


「すみません。こちらにきて下さい」

「すみません。あなたは呼ばれていません」

「……私たちはついて行けないと?」

「あなたは呼ばれていません」

「…………っ?」


 ここにきてフィリアも相手の妙な雰囲気、違和感に気づく。先ほどの公也と同じ対応という時点でさすがにおかしい……語彙がない、言葉が足りない、話をしていないと彼女は思った。


「アリルフィーラ様……これ以上は」

「こちらに来てください」

「フィリアとシーヴェは連れていけませんか?」

「呼ばれていません」

「そうですか……すみませんが、ここまでです。流石に二人を連れていけないのでは私も他国の王に簡単にお会いするわけにもいきません。公也様はあまりそういった考えはしないでしょうけど、外から見て不義を疑われる可能性もありますから」


 他国の王と二人きりで会う、それは一般的に密会と呼ばれるようなものでその内容がわからない、何をしているかわからないというのは他社から見れば疑心を生む。公也はあまり気にしない……というか、アリルフィーラに関しては信頼しているというか、そんな感じなので問題はないが、それ以外はどう思うかわからない。まあそもそもこの国に来ていることを知っている人物は少ないし他国の王と会うということを知っている人物も少ない。外に知られること自体がないので大きな問題はないと言えるのだが。まあそれでも二人きりで会うというのはいろいろと危ない可能性もあるためアリルフィーラとしては断るしかない。いくら王が呼んでいるからと言って流石にこれは非常識だ。そもそも兵士がそういっているだけで本当に王が呼んでいるとは限らない。ゆえにアリルフィーラはここでついて行くのをやめて戻ることを選んだ。

 その言葉に二人の兵士はお互い顔を見合わせる。表情はなく、無表情。


「来てください」

「来てください」

「っ! アリルフィーラ様!」

「リルフィ様! いきなり何するんですか!」


 唐突に、二人の兵士がアリルフィーラに対し襲い掛かった。それをフィリアとシーヴェが止める……良くない流れとなってしまった。



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