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暴食者は異世界を貪る  作者: 蒼和考雪
四十五章 傾国の魔
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「話を聞いてきたところ、彼はキミヤ・アンデールという人物だそうです」

「ふうん? キミヤ・アンデール…………どこかで聞いたことがあるような気がするわ」

「アンデールという国はご存じでしょうか?」

「いいえ……少なくともこの近隣にはない国ね」

「かなり遠方の国です。そのアンデールという国の王に冒険者が成り、その際にその冒険者が他国の問題解決を依頼されて仕事としてこなすという約束をしているようです」

「奇妙な成り立ちのようね。それ以上になぜここにいるのかが一番の疑問になるけど」


 公也・アンデールという存在については他国でもそれなりに知られている。特にアンデールの近隣の国ともなればそのアンデールの役割もあって十分な内容が知らされている。しかしそれは決してアンデール近隣以外は許容されていないというわけでははなく、離れた国であってもアンデールに依頼を出すのは全然かまわない。ただ、そもそも存在を知らない国の方が最初は多かったためそう依頼が来るようなことはなかった。しかし時間が過ぎ、それなりに実績も伴った結果噂が遠方の国へと届き……それを噂でないと断じられる程度に知ることができた国やたとえ噂でも藁にも縋る思いで依頼を出すような国などはある。この国は噂で聞いてはいるが実際にそれが本当なのか、可能なのかはまだ知らない……といった感じである。もっともその噂も一部の人間しか知らず、審議も定かではないのでそれ以外の人物には広まらず、リシェイラはその噂を知らなかった。

 そしてその噂のことを考えても公也がいることには疑問がある。そもそもリシェイラが王を通じて宴への誘いを出したのは近隣の国にだけである。遠方であるアンデールには当然そんな誘いを出していない。それなのに公也がこの国に来ているのはおかしな話だ。いや、来ているだけならともかく宴への参加者としては来ているのはおかしい。


「実は最近周辺の国で少々大きな問題が起きたらしく……」

「……そういえばそんな話があったかしら。あまり詳しくは聞いていないけど」

「この国から宴への誘いを出した国の一部がその問題のあった国……いえ、彼の人物ともに来た国はそういった国ではありませんが、伝聞で知り得た限りでは問題を抱えていた国の王が彼の人物に依頼を出し、その依頼で大きな成果を出したそうで……その結果彼はその国の王に今回の宴へと誘われたようです」

「……そういえば付き添い、同伴者としての立ち位置だったかしら。なるほど、そういう事情だったの。誘いをかけた王の同伴者……従者や護衛ならともかく他国の王を客人として同伴したなら誘いを出した王の方々と一緒の場に出てくるでしょう。流石に他国の王を従者や護衛と一緒にするわけにはいかないものね」

「少数であれば従者や護衛も同伴できますが」

「ああ、そうね。そういった人物が一切いないのも問題だから当然ね。周りにいた人物はその類かしら」

「王妃もいらっしゃっているようです」

「……あの人物かしら。なるほどね。夫が夫なら妻も妻ということかしら」

「…………? それはどういう……」

「わからないならいいわ。気にしないで」


 リシェイラが見つけた二人、驚異的な力を持つ怪物の公也とその傍にいた特異な意を持つ人物、その二人は夫婦である。まあアリルフィーラのことだが。これに関しては見たリシェイラしかそのことについてはわからないだろう。


「そう。まあそういうことなら別にいいでしょう。本当にそんな王様だとすれば扱いに困る可能性はあるけどあくまで客人としてきているなら問題はないわね」

「そうですか」

「ええ。それじゃあなたはお仕事にお戻りなさい」

「はい」




「人間と話していたようだが大丈夫か?」

「ええ。あの騎士は私の配下……魔物ではないけど、逆らうことのできないようにして言うことを聞かせている人物だから大丈夫よ。本人もそのことがなくても従ってくれるということだし。信頼はできないし信用もできるわけがないけど、ちゃんと人質も取っているから大丈夫でしょう。あの家の当主、あの騎士の父親はこちらの手に落ちているしね」

「そうか」


 リシェイラに公也の情報を提供した騎士はこの国の一つの貴族の家の人間である。リシェイラ付きとなりリシェイラのために働く騎士であるが、リシェイラの魅了や誘惑の支配下には入らないためその当主や騎士の妹を人質にして従えている。そんなことを知らされてもいる立場だがその騎士はなぜかリシェイラに素直に従っている。何を目的としているかわからない怪しい存在ではあるが……それだけでどうにかするようなものでもないため今のところは有用に使っている程度である。


「怪物の正体は分かったのか?」

「かなり遠方の国の王様らしいわ。近隣の国の問題を解決したと聞いているけど」

「……ふむ。確か何物も近づけない魔物と巨大種だったか」

「ああ、そんな話だったっけ?」

「それを解決するか。冒険者として見ても相当なものだ」

「どうにかするのは難しそうな相手ね。私も決して弱くはないけれど強者相手では上手く堕とすことはできない」

「放置すればいいだろう」

「それが一番楽だけど逃げるようで納得はいかないし、それじゃあつまらないじゃない」

「詰まるつまらないで済ませる話ではないが」

「ふふ、まあいいじゃない。いい手があるわ。上手くすれば圧倒的強者でも従えることができる……一番いいのは私の力で手に入れることだけど」

「藪を突かなければ危険はないというのに……お前というやつは」

「嫌なら逃げなさい。私としては別にあなたの力が必要だとは思っていないわ。私も最悪逃げるつもりだし……ええ、どうにかできてもどうにかできなくても、この国は滅茶苦茶になる、滅びの道に向かう。それは変わらない。その際あなたたちがいるかどうかは私にとってはどうでもいいもの。あなたたちはどうするのかしら?」

「………………」


 リシェイラの仲間となっている魔物はリシェイラに対する恩があるという魔物もいる。単に都合がいいから仲間になっているという魔物もいる。それぞれの意思は違うが、今すぐにリシェイラの元を離れることができる魔物は少ない。


「ひとまず様子を見よう。上手くいきそうにないなら俺は逃げる準備をさせてもらおう」

「好きにしなさい。ふふふ……悪だくみは私の得意とすることだもの。ええ、うまくいくわ、行かせて見せますとも」


 リシェイラは公也に手を出すことにしたようだ。それがうまくいくかどうか……公也という存在の危険性を彼女はどれほど高く、あるいは低く見積もっているかによってまた話は違ってくるだろう。もっとも、脅威はなにも公也だけではない。それをわかっていなければ……少し難しい話となってくるだろう。



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