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「なんだかこうして馬車で移動するのも久しぶりだな」
「そうですね。決してそういった機会がないわけでもありませんが……公也様はもともと他国からの招きに応じないことも多いですし、馬車よりも竜を使った移動が多いですから」
「アリルフィーラ様や他の王妃様方、また城にいる冒険者の皆様は馬車を使うこともありますが……」
「キミヤさんは基本的にずっと竜で移動ですからね」
「馬車に乗る機会も少なく、アリルフィーラ様と一緒にというのも他国に行く僅かな機会のみ。そもそもアンデールから外に出る機会自体アリルフィーラ様も含め少ないのですが」
アンデールは国としては大きくない、というか小さな国である。そもそも王や王妃というのは自国を簡単に出るものでもないだろう。立場上外に出て何かあれば問題になる。公也の場合は色々と他国に出向いているが、それは相応に事情があるというか、そういう役割を担っているから。公也はともかくその他の妃などはほぼ外に出ない。ただ、招き……他国での催しなどに誘われた時は話が違う。そういう時は国対国の対応として出るものである。もっとも公也はその役割常あちこち飛び回ることも多く、ただの祭りやパーティーみたいなものの場合、公也はあまり出ないことが多い。そして公也が出ないのであれば妃であるアリルフィーラたちも基本的にはいくことがない。
なので基本的には外に出る機会はそう多くない。ゆえに馬車をあまり使わない……というのもあるが、アンデールでは馬車以上に優秀なワイバーンやメルシーネみたいな竜種系統の移動手段を使うことが多いため、馬車はあまり使われない。一応馬車はしっかり用意しているものの、そちらよりも竜を使う方が多い。一応竜に乗っての移動は竜が襲ってきたと攻撃対象になる危険があるためあまりよくはないが、アンデールでは竜を使っている、移動手段として用いているという事実はある程度知られているため、乗って行っても問題になることは少ない。もっとも扱いに困る面もあるため、相手の国の事情やアンデールとの関係次第でもある。必要に応じて竜を使えないなどで馬車を使う場面もある……が、そこまで多くはないだろう。
「しかし、あちらに乗らなくてもよかったのですか?」
「あちらって?」
「誘っていただいた王族と共に乗らず馬車を用意してもらっていいのか、ということです。誘われたのはこちらの方です。相手もこちらと話をしたい、友誼を深めたいと思うところはあるのではありませんか」
「ああ……そこは向こうがリルフィも来ているのだから、って」
「リルフィ様と一緒にいる方を優先させてもらったってことですね」
「……キミヤ様がアリルフィーラ様といる機会は最近少ないですから悪いことではないですが」
「フィリアは気にしすぎですよ。公也様も十分彼の国王と友誼をしっかり深めているはずです。そもそも今回誘われたこと自体がその結果ではありませんか? それに公也様が一緒にいてもあまり話をするようなことも多くはないので? 公也様、あまり積極的に話すのは得意ではないですし」
「……はっきり言うなあ」
「武勇伝、これまでの経歴やアンデールの事情など……好奇心から国交、関係構築を考えて色々と聞くべきことはあると思いますが。しかしアンデールはこの国とは遠すぎますし、あまりそこまで熱心に色々と聞く必要は……ないのかもしれませんね」
アンデールはこの国から遠い。とても遠い。一応時間をかけて輸出入、交流を行うことはできるが、そこまで懇意にするのは難しい。今回みたいに依頼をまたするかもしれないためある程度は気を使い友誼を結ぶことはあってもなんとしても関係を結ぶ、構築するとまではいかない。誘ったのはあくまで好意……今回の依頼において多大にありがたい事実と報酬支払の関係の事情を考慮したうえでのもの。まあどちらかというと本当に恩を感じて好意から誘ったのが大きいのだが。そういうこともあり、誘われて同伴する形だが向こうは公也を束縛するつもりはない。そもそもからして今回の宴を楽しんでもらうのが目的にある。
「……それにしても、外が見えるがあまり活気がない、か?」
「どうでしょう。そこまで活気のある場所ばかりでもありませんが」
「馬車に乗っている状態で街を見てもあまりよくわかりません……どこも人が多いわけではないと思いますけど」
「わたしアンデールしか街知らないなあ……リルフィ様について行ってもあまりそういう普通の場所に出向く機会もないし……」
「確かにここから見るだけじゃわかりにくいか……はっきりは言えないし、そもそもここの国のことは知らないからな」
「宴を開き他国の王族を招くくらいです。それなりに盛況なのではないですか?」
「それは……どうなんだろうな」
公也は比較的他国に出向くしそれなりに街に行く機会もある。しかしアリルフィーラはあまりそういう機会はないし、フィリアもシーヴェもアリルフィーラ付きなので外に出る機会がない。一応アリルフィーラとフィリアはそれなりに街などに行く機会もなかったわけではないが、シーヴェはほぼ一切そういった街などに行く機会はなかった。あってもそれはアリルフィーラ付きになってからアリルフィーラと一緒に行く形でである。どうしてもその場所や機会は限定的だ。公也も行く機会があってもその場所がどうなのかというのはあまり気にしないし細かくは分からない。結局のところこの国が他の国と比べどうなのか、というのはわからない。ただ、それでも少し活気がないように見える……そう思えるようだ。
「まあ、別に俺たちが気にすることでもないか」
「それは少し突き放しすぎな気もしますね」
「ですが事実です。アンデールとも離れていますし、別に関わりがあるわけでもありません。今回は宴に参加する国の王族に同伴する形ですし、ここからさらに何か繋がりができることもほとんどないでしょう。仮にあったとしてもこの国のためにこちらができることがあるわけでもありませんから」
「それはこの国の人の仕事ですもんね」
結局のところどうであっても公也たちは関わりを持てない。アンデールの国の人間でありこの国の人間ではない。遠すぎる場所であるし、国と国のかかわりもないこの国に公也たちが手を貸すような理由もない……仮に困窮していてもそれはこの国の事情である。助けを求められても手を貸せないし貸すにしても無償はない、またそうして問題になるのも避けるべきだ。ゆえに何もすることはないしできない。そもそも今回は宴に参加する他国の王の同伴、客人のようなものであるため下手なことはできない。そういう点でも公也たちができることはないだろう。まあ、何かするべきかどうかもわからない状況であるのだが。




