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暴食者は異世界を貪る  作者: 蒼和考雪
四十五章 傾国の魔
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「喋りすぎだ」

「別にいいじゃない。あの男は処刑、言葉を発することは許さない……喉を壊してから処刑するもの。それに私に魅了された人間がどれほどいると? あの男がどう言おうとほとんどすべての人間はその内容を気にしないでしょう」

「だが疑心は生まれる。無意味に人間どもに我々のことを知らせる意味はない」

「はいはい。それもそうね」


 城の中に入り込んでいる魔物はそれなりの数がいる。そのすべてがリシェイラの部下、支配下にある……あるいはリシェイラと半ば同盟の関係に近い者もいる。それらはすべてが人に変じられるものではなく、リシェイラの力……傾国の魔の力により人に化けて過ごしている。まあ彼らも別にリシェイラほど悪い考えでいるわけではなく、部下なので従っているという者がほとんど、別段人間を襲わなければいけないということもなくかなり大人しく過ごしている。その中にはリシェイラの行動自体に対して不満、あまりいいとは思わないものもいる。特に同盟を組んでいる立場の者はあまりにも人間に対して攻撃的、行動的なリシェイラの行動は好ましく思わないことも多い。とはいえ、彼らもリシェイラなしで今ここにいるのは厳しい面もあり、リシェイラの意思に従わないわけにもいかないのだが。

 とはいえ、今回のリムスのような人物にわざわざ自分たちのことを教える意味もない。一応今回彼を喋れなくして処刑するが、話ができる状況だった時、自分たちのことを言われる可能性もある。リシェイラの魅了が通じているためその発現を信じるものはそう多くないし、そもそもが荒唐無稽なうえに反逆を企てていた事実もあり、その発言を死を避けるための戯言と思う者も多いだろう。しかし、もしかしてと信じる者、なぜそのような発言をしたのか考える者、そういった者はいないとは言えないだろう。そういった者が疑心を持ちリシェイラのことを調べようとしてこれば面倒くさい話になってくる。そうならないよう、無駄に自分たちのことを教えるようなことはしないほうがいい。そういう意見はあって然るべしである。


「それにしても、最近ああいうのが増えてきたわ」

「やりすぎだからだろう。この国もお前によって大分被害が出てきた。この国の王がお前の言いなりだ。それに対して怪しいと思わないわけもないだろう」

「ええ。今まで通り、国の王に取り入り私の趣味で色々と遊んで、国を滅びに向かわせる……いつも通りのことね」

「お前はそういう者だからな。都合がいいからいろいろと手を貸しているが、あまりにも遊びが過ぎる」

「そういう性分なの。あなただって己の在り方で変えられない部分はあるでしょう」

「わかっている。だが……流石に頻度、問題が起きるまでの間が短くなっている」

「流石にごまかす、隠しきるのが難しくなってきた……ということね」


 リシェイラはこれまで何度か国を滅ぼしている。傾国の魔はそういう魔物、国を滅ぼす性質の魔物だ。もっともそれはかなり迂遠なやり口であり、人に混じり国を傾け、滅びに向かわせる……そんな面倒なやり方をしている。だからこそ彼女はそういう方面に向いた力を持つ。傾国の魔だからそうなのか、そういうことをするから傾国の魔なのか。

 まあ、そんなことをやっているとどうしても問題が出てくる。国を滅ぼすほどの被害をだそうとすれば途中で気づかれる。またリシェイラは遊び……人で色々とやることが多い。そのためどうしてもそういった諸々のせいでその存在がバレるというか、怪しまれるというか。


「どうする?」

「いつも通りよ」

「いつも通りということは……」

「この国を滅びに向かわせる手を打って他国にお邪魔する」

「……それでまた同じように、か」

「ええ。いつも通りでしょう?」


 この国で自分たちの存在がバレるかもしれない、怪しまれ探られるかもしれない……そうなったとき、今のようにもう隠しきることができないような状況に陥った時、彼女らはその問題に対して逃亡という手段で対応している。傾国の魔は国を滅ぼす魔物……国を滅ぼせばそれで終わり、というわけではなく次の国に向かう。その次の国をどうするかは彼女が国を滅ぼしてから行うのではなく、国が滅ぶ前にある程度目星をつけ、そこから国を滅ぼすようにしている。基本的に彼女は王族など国の偉い相手、一番上かそれに近い位置にまで食い込まなければならず、その相手を探すのは市政のごく一般人に近い状況からでは難しい。いきなりどこか貴族の家にお邪魔するというのも難しいわけである。だから今の様に王に近い位置にいる状況で相手を見繕い、そこから懐に入り込む準備をする。それを終えた後、自分がいた国を滅ぼす……勝手に滅ぶように仕向ける準備をし、それを動かす、そういうものである。


「ではどうする?」

「いつも通りよ。この国を大いに傾けるため、贅を凝らした宴を行うの。他国の来賓を招いてね」

「……こちらとしてはあまりその手は好ましくないが」

「バレる危険なんて今までもなかったじゃない。本当に危険な冒険者なんてそう来ないわ。護衛の騎士くらいはいるかもしれないけど、そこに私たちに気づける存在なんていないでしょう」

「魔物を探知する手段を持っているかもしれないぞ」

「それすら誤魔化せるのが私よ」

「…………」

「それともあなたは他に何かいい手が思いつくのかしら?」

「いや。わかった、お前に任せる」

「ふふ、それでいいのよ」


 リシェイラが王に対して命じ、多国から王族を招く。その際に国を傾けるような贅を凝らした宴を行う……民の不満を煽り、国の維持を困難にするような大きな宴。そして他国から来た来賓……例えばその来賓に害を為す、ということしたらどうだろう。仲が悪くなる、そんな程度で済むだろうか。リシェイラはそのあたりを上手く誘導し、国を滅びに向かわせる。ついでにその来賓の中、次に自分が滅ぼすならどこがいいだろうかと国と取り入る相手を見繕う……実に邪悪な考えである。






 その宴とは公也が同伴することとなった宴である。邪悪な奸計によって行われる宴……そこに爆弾に等しい火種が投じられる。それがどうなるか……まあ、まず大人しく終わることはないだろう。もともとリシェイラが騒動にするつもりであるのだから。



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