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暴食者は異世界を貪る  作者: 蒼和考雪
四十四章 冒険者業
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「植物が枯れているな」

「植物は移動できないですからね……あの汚染の嫌悪に対して逃げることもできず、狂死したのじゃないですか?」

「……植物に意識や精神はないと思うが」

「人間や動物的なものがないだけで生きている以上は意思みたいなものはあるのですよ。本能も結局のところ意思のようなものなのです。まあ狂死と考えずストレスのせいでとも考えられはするのです。どちらでもいいとは思うのですよ」

「そうだな……影響がひどい」

「動物たちは逃げられているはずですし問題はないと思うのですが……この汚染で囲い込むとかすればそこに閉じ込めることができそうですね。利用価値があり得るかもしれないのです」

「人も近づけないんじゃダメだろう。上から入ったりするのか?」


 穢れの王の汚染は他者を近寄せない。やろうと思えばこれで安全な地帯を作ることができる……かもしれない。もっとも仮にそれができるとしても外から近づけない、中から出られないというのは閉じ込めた者や外から近づく物だけではなく、その汚染を扱う自分たちも同様である。一応その汚染の範囲外……例えば汚染の線上であっても空からであれば近づきやすくはなる。まあメルシーネがそこそこの高度を飛んでいる状態で気づいた当たり、大した高さでは全然意味がなさそうである。利用価値は薄いと言わざるを得ない。


「そもそもあの汚染を残したままにするのもな」

「集めるにしても管理が面倒ですし、使うのは無理なのですね。利用価値としても全然ですか」

「そもそも魔法で燃やせるし、利用しようと思えば相手も利用できるだろうという点でな。安定して使えない」

「それもそうですね。まあそもそも考えとして浮かんだものを言ってみただけなのです」


 汚染自体は炎の魔法で消し飛ばすことができるし、風の魔法で集めたり移動させたりできる。残された汚染を利用できるのは用意した側も相手側も可能という点で安全面で問題がある。根本的な安全面でも問題があるし、やはり利用しないほうがいいという判断である。まあそもそもメルシーネもあくまでこんなこともできるのではという意見を言ってみただけだ。やはり倒すのが一番、処理して完全に滅するのが一番という考えに違いはない。




 汚染の度合いの酷い方に進み、植物の枯れ具合からこちらだろうという方向へと向かっていた公也とメルシーネ。そうして進んでようやく穢れの王の姿を見ることができた二人。


「近づきがたいですけど見ただけで目が潰れるというほどやばくはないですね」

「流石にそこまでやばいのは俺でもどうにかできるか怪しいだろ……しかし、近づきがたいのは変わりない、というか下手すれば通ってきた道よりもよほど……」

「大本だから当然なのです。ここがどれだけ距離が離れていると思っているのです……」


 公也たちはかなり遠くから穢れの王を見ている。公也ですらその地点から近づく気にはなかなかなれない、足を進めようとするのを本能的な部分が拒絶してしまう、そんな状態だ。しかし流石に見ただけで影響が出るというわけではないらしい。汚染による影響は近づけない、触れることでその汚染の影響から狂死してしまうが見たりする程度では何の問題も起きない、ただの気配的な影響のものしかないようだ。狂死するのも自分に汚染が移り自分が自分から離れたいのに不可能なためわけがわからず逃げることもできず頭がおかしくなってそうなるというだけである。それはそれでやばいのだが、ともかく影響はあくまで嫌悪の気配、雰囲気、近づきがたい本能的忌避である。それ以外で影響を受けるようなことはない。本体もそういうものであるようだ。


「……しかしなんだ、祟り神?」

「それも何か違うと思うのですよ? 泥の怪物、郊外物質から生まれた怪獣……スライム系統、ですか? 流石にそこまで滑らかではないですね。ですが……あれは何というか、良くない者なのです。汚染、汚れ、汚れ……穢れですか」

「穢れ、か。汚れとかそういうものでも……汚れで穢れになるか。しかし、そんな生き物が?」

「魔物はよくわからない発生と生態をしているのです。ゴーレム……砂漠では砂漠に根付く生物の魔物が出るですがその中に砂のゴーレムもいるのです。スライムやゴーレムなどはその地の影響を受けやすいですが、結局のところ周囲の影響を纏う、あるいはその地の状況を核とするならそういうこともあるかもなのですね。それであの魔物ですが、穢れを核として生まれた魔物なのだと思うのです。もちろんその穢れはどこにでもあるようなものではなく、何らかの要素で存在していた物だとは思うのですが……」

「なるほど。そういう発生要因だとあんな感じになると」

「全部が全部ではないですが……あれはかなり特殊な形、たまたま今回強力な形で発生した物だと思うのです。あるいは成長による突然変異も否定はしきれないですけど……」


 魔物の見た目はドロドロに溶けた黒い粘液状のもの。ただスライムのような者とはまた少し違う。泥の塊がドロドロと粘っこい感じで若干流体のような感じに纏まりながら移動する……そんな感じだ。一応は生物的な見た目として頭部だろう部分、口や目と思わしき部位、それに一応は手や腕などもある。ただ足の類はあるようには見えない。動きと部位から前に前にと進んでいるだけに見えるそれは少々生物というには悍ましい見た目をして、その発する嫌悪感も併せて正直近づきたくない関わりたくないと思わせる存在であった。


「これって意外と凍らせて封じるとかできそうだな」

「できそうですが……倒さないのです?」

「いや……利用価値もないだろうし、放置もできない、残す汚染も悪影響ばかり。倒すのが一番だ。見た目的にできそうだなと思っただけだよ」


 氷などに封じ込める、というのは決して悪い手立てではないだろう。問題はこの魔物が外にどれほどまでの嫌悪の影響を発するか。氷程度ではあっさり貫通するのではないかと思われるため動きを封じることはできてもその悪影響を封じることはできない。やはりこの世界から消して処理するのが一番。まあ氷で封じれば後は処理自体は考えてら実行するということもできる。その存在を示し、全員の目の前で処理、ということもできるだろう。そこまでする必要もないとは思うが……証明という点では確実な手、<暴食>を使えば死体が残らないためそちらの方が倒した証明はしやすいだろう。もっとも今回はきっちり全て消し去る必要があるためそっちでの処理はしないのだが。


「じゃあ行くぞ」


 そうして公也は<暴食>の力を使う。穢れの王の嫌悪の影響はあくまでその存在と構成物質からの作用であるため、<暴食>で食らいそのすべてを取り込み情報化、物質的なものもあくまで一物質としての構成情報としてしまうため公也に悪影響はない。至極あっさりと、<暴食>によって消し去られその存在をこの世界から消した。後は痕跡の処理を終えれば問題は解決する、という状況であった。



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