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暴食者は異世界を貪る  作者: 蒼和考雪
四十四章 冒険者業
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「あなはた?」

「公也・アンデール……今回の件でこの国から依頼がこちらに届けられたと思うんだが」

「ああ、あなたが……噂に聞く各国の問題解決にいそしむ冒険者の王……しかもAランクだとか」


 そういって公也が話しかけた相手、なんとなく偉そうと言うと言い方が悪いが立場のある人物っぽい彼は公也のことをじろじろと見る。不躾な視線であまりいいものでもないが、公也のことを訝しむのはある意味では仕方のない話。公也は見た目だけでは強そうには見えないし貫禄もあるようには見えない。疑われるのもある意味仕方がない……が、冒険者証を見せれば簡単に信じてもらえるし別にこれ自体は悪いことでもない。それだけきちんと注意してくれる、相手のことをうのみにしないという点では悪いものではない。もっとも頼んだ側の対応としては微妙なところだが。まあ彼らの国はアンデールからほど遠い地域であり、どうしても公也のことを噂程度で実際には知らないだろう。まあそれはこの地に限った話でもなく、一般人は他国の王の顔、見た目を知っている方が珍しいと思われる。

 まあ、Aランク冒険者は見た目だけで判別できる方が珍しいが。知っているAランクのガルジェイスは分かりやすいがルーウィックはそうは見えない、みたいにAランクは見た目通りの強さでないほうが多い。むしろ技や特殊能力が異常で若くとも強いとかそういう本当に天才的な強さを持つものがAランクには多い。一般の最上位はBランクほど、フーマルもそのあたりが限度だとみているようにそこが一般レベルの限界点と見られている。


「これは何をやっている?」

「ああ、あの汚染の処理です……一応今わかっているのは燃やせば汚染は排除できるということです。しかし燃やすのはそれ自体が周りに散らばらせる危険もある行為で……迂闊なことはできません」

「具体的に汚染はどういうものなんだ?」

「あの魔物が通った場所に残るようです。魔物の体液のようなもの……それが残り、あの近づきがたい形容しがたい嫌な気配を発する……時間を置けばこれは浸透するようで、あまり極端に広がることはないですが表面だけに残っていたのが少し地面の中に入り込むようで。早めに処理するのがいいのですが……」

「……少し試していいか?」

「何をです?」

「魔法だ。あの汚染を可能な限り纏めることができたり、処理しやすいようにできれば楽だろう?」

「それはもちろん」

「なら試してもいいだろう? これでも魔法はかなり使えるつもりだ」

「……そうですね。一度任せてみましょう。おーい!」


 公也が魔法による汚染の回収を提案する。公也の能力を彼が知る由もないが、Aランク冒険者として、各地の問題解決をする噂を持つ人物として、公也を一応信用してみることにした。別に本当にできるかどうかは関係ない。できないなら別に汚染をまき散らすようなことをしなければそこまで気にする必要もないし、汚染を集めることができるのならばそれを自分たちも使えればかなり良い結果となる。処理に関しても公也であれば<暴食>なしで穏便に処理する手段を考えてくれるかもしれない。もともとこの汚染とその汚染の大本をどうにかしてくれる人物として読んだわけであるし、頼むこと自体はおかしな話ではない。




「ふむ……土よ、隆起しその内に宿る穢れを一か所に集中させよ。アースケージ」


 魔法により土に干渉し、その土に存在する穢れ……色々応用は効くが、今回は穢れの王が残していった穢れの要因を集める。詠唱としてはケージなどと言っているが別に本当にケージを作るというわけでもなく、あくまで穢れを集める籠のような意味合いで一か所に集めるという要素を指しての物である。


「うわっ」

「……確かに集まったようだが」

「より近づきづらいな」

「だけど大分楽にはなる……」

「しかし、あれに炎の魔法をぶつけると余計に広がる危険もある。それは元々からそうだが心配な点の一つだ」


 集めたはいいがその処理の問題点はある。炎は一般的に熱気を放つ……空気が温まれば上に行く、その程度でも知識を持っていればそれによる空気の移動、風に近いものによって汚染が巻き上がる危険を考える。炎による処理も簡単ではない、ということである。ただ、一番有効……というかこれ以外の処理手段がないとも言えるため炎を使うしかない。


「ふむ……水よ、汚れを選択し洗濯せよ。集め纏まり一つの場所に、水の塊に。ウォーターキューブ」

「何を?」


 水で汚染をからめとり、汚染を集めた一つの四角い水塊を作り上げる公也。土の上に集めた時よりも忌避感が薄くなったが、これは水の層により汚染の影響が遮断され薄まったためだろう。土の魔法でやるよりはいい手ではあるが、水で土の中の汚染を引き上げるのは大変である点から土で一か所に集め水でさらにまとめるのが有効的だ。ただ、これでは処理しきれてはいない。このまま川や海に捨てるというわけにもいかないだろう。隔離するというのは一つの手だが……それはそれで問題がある。あるいは隔離先で外に漏れ出ないように炎で処理するのも手だ。ただ、これは魔法である。いや、処理する手段がそもそも魔法であるという点に目を向けるべきである。


「これなら燃やしてもまき散らされることはないだろうからな」

「……それはどういう?」

「魔法の炎は水の中でも燃える、燃やすことができる……水の内に在りし汚れ、浄化するは炎、それは熱を奪う水の中でも在りて、燃えるべきものと結びつく空の内の燃の要素も必要なく、ただ水の内にありしものを燃やし尽くす。セイントフレアー」


 炎と言ってもそれは必ず実際に存在する炎と同質の炎でなければいけないわけではない。対象を指定し燃えるものを限定して物を燃やすこともできる。魔法の炎は水でも消えないようにできる。こればかりは知識とイメージ、条件付けなどを上手く弄らなければならないが……公也の場合は聖なる火、浄化の火みたいなものもあることを知っている。実際の火にそういう性質があるみたいなイメージの方が強いが創作には熱くない炎、悪魔しか燃やさないような神の炎みたいな例もある。そういったイメージを上手く使えば汚れなどの物のみを燃やすような炎もつくることはできる。


「……凄い」

「俺たちでもあの魔法、できるのか?」

「わからん……」

「だが詠唱さえ分かれば使えなくは……」

「どうだろうな。やってみなければわからないが」

「流石にいきなり試すわけにもいかん」

「……良い参考事例です。あなたの使った魔法に関してはこちらで試しても?」

「構わない。今回の件の後処理だけでも大変だろう? 俺も他の仕事があるからここにずっといるわけにもいかない」

「感謝します……詳しく仕組み、原理、魔法に関する内容を教えてもらっても?」

「多少は良いだろう。全部は流石に言えないし理解してもらえるかわからないが……」

「本当に助かります」


 公也の持つ知識、魔法の応用に関わる分野……世界の外寄りの知識や異世界の創作情報なども含めていることもあり、こればかりは教えても理解してもらえない可能性もある。ただ、要は使えればいいだけだ。使えるの出れば時間はかかっても処理はできる。その程度でもうまく残すことができれば公也の関与の必要性も薄く、後を任せることができる。とりあえずはそれを目標にする、という話である。



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