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暴食者は異世界を貪る  作者: 蒼和考雪
四十三章 遺産
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30



「もう! なんでキミヤに怒ってるの?」

「悪いことをしたら叱られるものでしょう……」

「別にキミヤは悪いことはしてないわ。私を外に連れ出してくれただけよ?」

「それ自体が問題なのよ……と言っても何が問題か、どう問題か、それはわからないでしょうね」

「……そうだ! キミヤを叱るなら私も叱って!」

「え?」

「キミヤが悪いなら私も悪いもの! それがいいわ!」

「……えっと、そういうものじゃなくて」

「駄目なの?」

「あの、えっと……」


 公也相手にはハルティーアが怒っている、叱りつけている……公也のやったことの問題に関して強く責めるように言い、今後控えてもらうようにするためだ。やらないようには恐らくできないとハルティーアも見ているためあくまで控えさせるためである。しかしそんなハルティーアに物申してきたのがミディナリシェである。いくらミディナリシェが何を言おうとハルティーアは聞き入れない、ミディナリシェは公也がどう行動するかには厳密に関係なく、公也に文句を言うしかないし今回は当事者であるが基本的には関係ないからである。

 しかし、ミディナリシェは自分も叱れと言ってきた。ハルティーアはそれに対して別段どうも思わないというか、その理由がないゆえにどうにもできないというか……そんな意味の分からない内容だった。だからこそ彼女も困惑する。ハルティーアはアンデールの政治、国の運営に関わる様々な要素に携わっている。そのため基本的には利を考え、また性質的に理で考える。道理に沿って、真っ当に物事を考える。だからこそミディナリシェの利も理もない言葉に思考がうまく働かない。彼女の言葉は単なる我儘というか、深く考えず思ったままを言った感覚的なものである。


「そうする理由が」

「キミヤが悪いなら私も悪いの! だったら叱るべきじゃないの?」

「………………ええっと」

「ハティ。この子はこう言っているみたいですし、あまり言いすぎなくてもいいのでは?」

「……ああもう。確かになんというか、毒気を抜かれるというか……困惑するというか…………はあ、おかげでキミヤを叱る気になれなくなってくるわね」

「ふふ……公也様、ハティがこれ以上公也様に色々というのは今回はなくなりましたね。でも、私からも言わせてもらいますけどあまり無理なことや危険なことはしないでくださいね? 私もハティも、アンデールにいる公也様を慕う皆様も公也様が戻ってこないかも、と心配する気持ちがあるのですから」

「…………ああ、そうだな。できる限り本当に危険なことに無理に首を突っ込まないようにする」

「それでもできる限りなのね……まあキミヤだし仕方ないか」


 自身の欲望……邪神から<暴食>の力を受けるほどに知識に関する欲求のある公也、割とそれはそう表に出ないしあまり見る機会もないためそうは見えないだろうが、未知を知ること、知識をため込むこと、それは公也の強い欲求でありそれを避けて生きることはできない。だからこそ、絶対にそうするとは言えず、無理はしない程度にしか言えない。まあ、結構公也は自身がやりたいと思ったら雑に行動する。こればかりは怒られても何を言われてもそうする……という強い意志というよりは、雑で適当な部分が大きいかもしれないが。


「……とりあえず、キミヤに関してはおいておくとして。叱りはしないけど後で色々聞くけど……この子、他所の国の王女様はいったい何者なのかしら? こちらの大陸ではないけど……どこの国の、どういう名前の、どういう立場でキミヤがここまで連れてきた理由、その他いろいろと聞きたいのだけど?」


 ハルティーアはミディナリシェについて訊ねる。公也に関してああだこうだというのは後に回す……怒ったり叱ったりはもうないだろうが、いろいろ言ったり聞いたりはするが……それはともかく、公也が連れてきた彼女のことに関しては色々と知っておかなければいけない。公也が言うにしても、ミディナリシェが言うにしても知ることが重要である。


「ミディは……」

「ミディ……ねえ。仲いいのね」

「いや…………特別仲が良いとは」

「え? そうなの?」

「……なんでミディが」

「ええっと……ミディ、でいいですか?」

「ミディナリシェ・モースジェリアス……アスモネジルの国の王女だ。愛称というか、略称で呼ばせてもらってるわけだが、まあ……特別仲がいいとかそういうのではないはず」

「はずって……気に入ってから攫ってきたとかじゃないんでしょう?」

「ミディは目が見えない。そして膨大な魔力を持っていてアスモネジルはその力を利用していた。閉じ込めてずっと籠の鳥状態だったな。エルデンブルグ……夢見花もよく行く海の向こうの大陸の魔法使いたちの多い国と思想と関係の変化による影響で戦争する可能性があり、それにはミディナリシェがその思想と戦争するための力としての要因があった。一番の破壊工作はその力の源、思想の維持に必要な要因であるミディナリシェをアスモネジルから排除すること……まあ、それが攫ってきた要因の一つだな。あとは当人に訊ねて自由に生きたいか、と聞いて頷いたから連れてきたというのもある。何もすることがないまま閉じ込められ人も来ない場所でずっと生き続けるよりはよっぽどな」

「………………面倒くさい話ね」

「人助け、ではあるのですよね?」

「個々の事情、それぞれの国の事情でもあるけどね。本来なら部外者であるキミヤが関わるようなことではないと思うのだけど。でも……閉じ込められ、利用されるだけの女の子を見つけて放っておくのもどうかとは思うわ。そういう点では決してキミヤの行動が悪いことだとは言えないわね」


 他者の家庭の事情、自分がいる場所ではない国の事情。結局は関わるはずもない他人事であり、関与する必要もない。ただ、困っていたりすれば助けたくなるし酷い扱いを受けていれば救い出したくもなる。悪人ではなく基本は善人である。やっていること自体はいいこと、人助け……ゆえにあまり極端に責めるのも心情的に見れば難しいだろう。まあ、仕事の一環でもあったので完全に善行するという理由だけではなかっただろうが。




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