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暴食者は異世界を貪る  作者: 蒼和考雪
四十三章 遺産
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「………………」

「……………………………………」


 無言の重圧。現在公也はアリルフィーラやミディナリシェなどと一緒にハルティーアの前にいる。別に他二人は近くにいるだけでハルティーアが圧をかけているのは公也だけだ。無表情に近い、若干笑顔っぽくも見える……明らかにブチギレている感じのする表情である。ハルティーアがキレる原因は特に言うまでもない。ミディナリシェの件が原因である。


「ねえ、キミヤ」

「……はい」

「今回、エルデンブルグ……だったかしら? 魔法使いたちの国に行って、頼まれごとを受けたという話よね。夢見花からも聴取したけど、向こうで依頼されて行動した……そういうことみたいね?」

「ああ……」

「仕事を受けるというのはキミヤは王だけど冒険者だし、もともとこちらでもアンデールの国を作る際に役割としてそういう方面で活動する、活躍することがあったから何とも言えないけどそういう活動をすることはおかしくもないし、ちゃんと報酬を受け取ってきたようだからまあダメとは言えないわ。やったこと、その内容はちょっと物申したいものもあるけど、そもそもキミヤを止めるようなこともできないしある程度は仕方ないわ。夢見花だと止める役にはならないでしょうけどいないよりはマシだしまだいてよかったかもしれないわね」

「………………」

「国と国の問題に関わるのは、まあ仕方がないと諦めるしかないでしょう。依頼内容に抵触する部分だったし。でもキミヤが直接かかわるようなものでなくてあくまで依頼を受けて仕事する、程度で済むものだったからよかったと言えるわ。その程度で済むなら」

「………………」

「でもね? この子はなに? なんで連れてきたの? こればっかりは私も怒っていいと思ってるのだけど?」


 もうすでに怒っている。ただ静かに怒りを向けて爆発させていないから本人的にはまだ怒っていない扱いだ。ミディナリシェを連れてきたことはアウトらしい。その他の内容は許容できてもこれはダメ、というのはあるにはある。別に嫉妬とかそういう方面ではない。ミディナリシェの存在、扱い、立場の問題が大きい。


「ハティ。私は気にしませんよ?」

「リルフィ……そっちの意味じゃないわ。別にキミヤが女を連れてきたから怒るなんてしないわよ。不満はあるし、変な事したら面倒なことになるからそういう点では怒るけど、誰か囲うために連れてきたからって怒らないわよ。それならもうとっくに何度怒っているかわからないでしょ」


 恋愛関係の話はそもそもが最初に三人同時に結婚という形である。前提として公也に対しアリルフィーラという……一応は相思相愛な相手がいるわけであるし、自分が入るのも国の関係、政治的な理由があったから。もちろん決して愛がないわけでもないし公也の方もちゃんと……多分、愛がないわけではないと思われるし、王妃と王という立場であり公也の王という立場上妾や側妃が他にいてもおかしくないという点では決してこれ以上増えないほうがいい、ということも立場上できない。もっともアンデールの状況……公也という今回もそうだが問題解決に向く大きな力を持つ存在の力を得たいという点で繋がりを持ちたいと婚姻を迫りたい人物は少なくない。現状明確に外部に示せる立場の存在は三人、アリルフィーラとはルティアーとペルシアのみで正妃と側妃の二人という状況で固定しているからそういった攻勢が弱く済み、また断るのも難しくない状況である。だから下手に増えると面倒……ということにはなるが、ミディナリシェを隠しておくことは難しくないしそもそも公也としてはそういう方面の相手とは今のところ見ていない。

 問題視しているのはそっちではなく、ミディナリシェ自身……魔力の方ではなく王女という立場の方である。


「彼女のことは聞いているわ。他国の王女なんですって?」

「そうだな」

「それを攫ってきたのよね?」

「……そうなるな」

「それが大問題なのよ! どう考えても誰がどう見ても国際問題でしょう!?」


 ハルティーアの行っていることは間違いではない。通常の視点で考えれば王女という存在を攫えば大問題、国際問題……戦争も辞さない騒動に発展し得る。しかしミディナリシェの場合は話が変わってくる。


「ミディナリシェは表に出されず隠されていた。いなくなってもそれがわかるのは向こうだけだ」

「……だから問題ないと?」

「そもそも大陸も違うからな。海の向こうの大陸に自国の王女がいる、なんて想定はしないだろう」

「……そうね。確かにそんなに心配はする必要はない………………からと言って、キミヤの軽率な行動を許すわけじゃないわよ?」

「………………」

「大丈夫そうだから何をしてもいいってわけでもないでしょう! 向こうの立場、向こうの問題、こちらの立場、こちらの問題、関わった人物の立場に問題! この子だって助ければいいってわけでもなかったかもしれない! ええ、私は直接聞いてないし詳しくも知らないけど、キミヤが連れてきたならまあ問題はないんでしょう! だけどあまりにも勝手な行動をしすぎでしょう! 普通の人ならともかく王女よ!? 何か問題になったらどうするのよ!」

「………………」

「別に問題はないけど」

「貴方には聞いてません! 事情は詳しく聞くし、別に追い出したりするつもりはないし仲良くするつもりよ! だけど、それとキミヤのこと、キミヤの好き勝手を叱ることは別なの! こればっかりは他の人には任せられない私がやるべきことなの、そういうことになっちゃってるんだもの! 立場的に! 正直何でこうなっているか文句を言いたいくらいだけど!」


 公也に対して物申すことができる立場にあるのはアンデールでは数が少ない。一応苦言を呈することができるのがクラムベルトやフーマルなど、付き合いも長くそれなりに立場のある人物だ。しかしそれでも公也には届かないし足りない、せいぜい不満を言う程度で終わってしまう。はっきりとこれをするなやるな、問題ある行動だからもっと考えろなど、はっきり注意をできるのは王妃の立場にあるハルティーアくらい……ペルシアは自信を奥に潜め不干渉でアリルフィーラは公也のことを基本的に肯定するためこればかりは本当にハルティーアしかできない、ハルティーアがするべき行動である。彼女の立場は王妃というだけではなくアンデールの政治を担っている部分もある。ゆえにこそ、彼女が公也に言わなければいけない……たとえ公也が聞き入れなくとも。聞き入れても割と注意したことを無視していることが多い。聞く耳持たずというわけではないが自分のやりたいこと、意思を優先するため場合によっては平気で先に行っておいたことを無視する。それでも言わなければいけない……何とも苦労している様子が窺える。






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