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「………………」
「………………」
「…………」
「初めまして。ミディナリシェ・モースジェリアスです。三人ともまだ一度もあったことのない人たちですよね? 初めまして」
「初めまして」
「……聞いてはいましたが、本当にモースジェリアス……アスモネジルの王族ですか?」
「ミディナリシェという名前は聞いたことがないけど……流石に王族を詐称することはないでしょう。それに、目が見えないということならばその存在を隠している可能性はないとは言えない。もっともそれを発見すること自体がおかしいし、よく連れてきたものだと思うわ……これって王族の誘拐になるわよね? 普通はしないわよそんなの……」
公也がミディナリシェを連れてきて夢見花、ファリア、マギリアに紹介した。夢見花は別に相手がだれであれ特に気にしないためその名前、立場に反応することはない。まあ夢見花の場合は魔法使いでも敏感に彼女の持つ膨大な魔力に反応しているが。
二人もそのあたりは気づいているが、夢見花ほど過剰な反応はない。マギリアとファリアはどちらかというと国の側としての立場でミディナリシェを見ている。ミディナリシェはアスモネジルの王族……それなりにエルデンブルグで過去も今も立場のあるマギリアとファリアも彼女のことについては知らず、その存在はアスモネジル自体でも隠されていた。そのため彼女が本当に王族であると言われてもわからない。公也がどこからか盲目の女の子を攫ってきただけと考える可能性があるくらいだ。もっともマギリアは彼女の魔力のことを鑑みてミディナリシェが本当に王族である事実はあり得ないとは言えないと思っている。目が見えないならば隠すだろうし、殺さなかったのはその魔力に気づいたから……ミディナリシェの欠損は身体的ではなく感覚能力の喪失であり肉体的には目が見える状態であるはずなのだ。目に濁りがあるとか、色が違うとかそういうはっきりした才があればまだわかったかもしれないが幼子の彼女が目が見えない事実をすぐには気づかず殺すタイミングが遅れてしまった、その結果生きているというのもあるのだが、やはりその魔力に気づいたのも大きい。少なくとも事故死、病死などで死んだとしなかったのはその魔力の利用価値を考えたからだろう。
しかしそれ以上にマギリア、ファリアの立場として困るのはミディナリシェの存在そのものである。彼女も行っているがこれは王族の誘拐に値するものだろう。常識的に考えれば王族の誘拐などとんでもない重罪である。バレていないとは言えその扱いは面倒の一言に尽きる。
「でも、この魔力量を見れば……」
「そうですね。何らかの利用価値はあるでしょう。彼女が魔法使いとして魔法を使うことがない、目が見えないからかもしれませんがそういった部分もありユーナイトほどの恐ろしい怪物にはならなかった……しかしその魔力はそのまま放棄するにも放置するにももったいないものです。王族が隠して匿っていたのもわからなくもありません。しかし、連れてこられるとなると……」
「正直私たちでは扱いに困るわ。隠していた、知らされていないとはいえ王族ともなると普通なら取り返すつもりで動かれるはず」
「さらに言えばそれがエルデンブルグ……この国の指示によるものであれば一発で戦争でしょう。依頼を受けたとはいえ冒険者の勝手、とすることもできなくはなないでしょうがその身柄がこの国にあるのでは結局取り返すことになる……引き渡しの要求くらいはされるでしょう。拒めば戦争、となるでしょうね」
「ちょっとその言い分はあれじゃない? キミヤの勝手、冒険者の行動にすべての責任を押し付けるのは」
「…………ここまでしろと私は言っていません」
「指示はそもそもなかったはずよ。あくまで調査と破壊工作を頼んだ形……その内容は任せるというもの。だからその内容、行動の結果は当人ではなく依頼したこちらにあるはず。責任逃れはよくないわよ」
「……正直私に他国の王族誘拐について関われ問いうのは無理難題が過ぎるのですが」
「私でも無理難題だけど、かといって冒険者にその責任を押し付けるのは冒険者ギルドを敵に回す可能性もあるわよ」
「それは……確かにあり得ますが……」
「難しい話はいい。彼女に関して別にこの国に預けるとは限ってない。公也はどうするつもり?」
「連れてきたのは俺だからな。選ぶのはミディナリシェだろうが……そもそも別にこの国に残す、ということにもならないなじゃないか? 根本的にミディナリシェをどうにかするということが本題ではなく、アスモネジルの魔法使い至上主義をどうにかすること、その原因の調査と排除、破壊工作……そういう点だけで見れば彼女がいなくなったからアスモネジルが魔法使い至上主義を掲げ続けるは難しいのではないか、という考えになるんだが。ミディナリシェの話はともかくその観点で見る場合はどうなんだ?」
「………………それは」
「…………確かに依頼としてはそちらが重要な点でしょう。この膨大な魔力の持ち主を喪失、その利用による力を増大していた王族の弱体化、その王城に対する侵入と壁の破壊、一部とはいえ城そのものの破壊という工作行動……少々やっていることは過剰ですが、正体がバレずどこが関与したかわからない状況であれば一方的にこちらがそうしたというのは難しいでしょう。できなくもないですが証拠がないため弱い……王族誘拐に関しても彼女が表に出なければ向こうが言い出したところでその存在を知らない他国が誘拐するのも難しい。破壊工作に関しては……魔法の暴発、魔力の暴走と言っていましたがその持ち主の存在を知らされていないのであれば他国からの工作、ということにはできるでしょう。もっとも侵入された事実などは防衛の弱さを示すことになり言いづらい……結界の存在もある、ということですし、そういう点でも防げなかったのは弱みになりますか? そもそも他国から送られた侵入者がいて何を目的にしたか、壊した場所が誰かのいるような場所ではない、端の方という事実は……」
色々と考えるがアスモネジルからミディナリシェという魔力源が奪われた時点で魔法使い至上主義を掲げられるほどの力を失ったと言える。厳密には本当の意味でそれだけの力を失ったわけではないが……王族がそれを強く主張できるのも自分たちが強化され魔法使いとしてもなかなかな強さを持つ存在になったから、ユーナイトと比べるとあれだが一般的な魔法使いよりははるかに強いだけの強さを得たのが大きい。それが失われせいぜい普通の魔法使いレベルになってしまったとなれば……流石に掲げ続けるのは難しい。もっともいきなり方向転換、というのも難しくもある。ただいきなりエルデンブルグを吸収するという行動が難しいこともまた否定しきれるものでもない。ミディナリシェの魔力の利用はアスモネジルに大きな影響を与えていたはずである。それほどまでにミディナリシェは特殊というか、他と格別したものであるということになる。




