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「これで問題はないか。別に俺が助ける必要性はないと言えばないんだが……」
空高くから公也は地上を見下ろしている。そこに存在するのは巨大な放浪魔、そしてその放浪魔と戦う冒険者たち。放浪魔に対し斬撃を落としたのは公也である。理由としては別段深い理由はなく、困っている様子であったり放浪魔に暴れさせ街を破壊させるのもどうかということで助けただけである。ただ、この国は公也にとっては一応敵国とみなされるはず。公也はエルデンブルグと友好的でありこの国とはその関係上敵対関係にあるとみていいはずだ。まあそこは公也にはエルデンブルグの事情が本質的には関係ないというのも要因にはあるかもしれない。
「まあ、放っておくのもな。無意味に死者を出す意味もない」
敵対的な国だからと言ってそこにいる人間すべてが敵というわけではない。そもそも敵だから皆殺しにしなければいけないというわけでもない。無駄な死者、無意味な死者は出さないようにするべきであり、今回の場合はそれこそ戦争中、戦っている相手というわけでもない。街を破壊する魔物を放置しておく方が問題としては大きいだろう。
「さて……ここはここの人間に任せて。俺は王都の方に向かうか……ある程度話をしていて大体どこに向かえばいいかはわかったし。まあ国の王都なんて大抵は最も栄える場所国の中心だったりすることが多いけど……」
公也も別に放浪魔を見に来ただけでそれ自体が本来の目的ではない。通り道にもなるしあくまでついでに近い。倒すのだからその後の処理や場合によっては貰えるだろう報酬を貰うということもできなくないが……まず目立つのであまり良くもないだろう。どちらにしても公也はそのあたりを気にせず王都の方へと向かう……場所に関する情報が入る前も向かっていただがこれは道に沿って、遠くに街が見えればそちらの方、国の場所や範囲からおおよそここだろうというあたりをつけての適当なやり方でである。一応マギリア、ファリアの方から多少この辺りというのは聞いているが……この世界は地図の作製もそこまでではなく、大雑把だろうものなのでそこまで正確に場所を教えてもらったわけではない。まあ大まかにわかるだけでも十分と言えば十分だが。
「……あそこか。特に他と大きく変わりないように見えるが」
外から見る限り、アスモネジルの王都は別段特別な様子の見えない普通の都市である。もっともこれに関してはエルデンブルグの時もそこまで大きな変化、特徴を感じたわけでもないという点で遠目に見て判断できるものでもないだろう。魔法は魔法使いであればその発動を感知、魔法自体の気配を察することでその存在の把握もできるが……そうならないケースもないわけではない。流石に夢見花のような隠蔽をしているとは思わないが、特殊な仕組みでそういった感知が行われている場合は公也もその存在の把握はできないだろう。
「まあ、とりあえず調査してみようか……」
色々と考えるが外から、遠目で見て何もかも判断できるものでもない。何より……気配の違い、雰囲気の違い、違和感、魔法や魔力など大きな力の感知……そういった感覚的なものは公也も決して鈍くはなく、それによって感じるものがある。都市、街の中には満ちる力はないが……王城の方にはなにやら特殊な力が満ちる気配がある、というのを。遠くにいながら感じるそれは膨大で巨大、かなり大きなものであるように感じられる者であった。
「ふむ……あまり城の方には近づけないな。たぶんは言ったら感づかれる可能性が高い……凄い、なんだ? たぶん魔力……だな? 城に濃密に満ちる力の気配……魔法じゃない。魔法じゃないから危険は薄いが、流石にこの中に入ると違和感があるはず……気づかれるのは確実だ。それに城の周り……これはたぶん、結界か? 入った相手を感知する……そんな感じだな。魔法を使わずにある程度把握できるが……下手に調査のために魔法を使えば気づかれる。騒がしくなるし面倒なことになりそうだから今はやめておこう……入ってもバレるだろうな。どっちかって言うとそういう方面が目的だろうし」
王都には特にこれといって何もないが、城には結構大きな魔法による結界が存在する。それだけではなく、城全体に満ちる濃密な魔力の気配、城から漏れ出ている分でも結構なものでそのとんでもない量がわかる。地脈の力ではない。魔力である。この辺りはかなり感覚的なものであるが、公也は大地を流れる世界のそれではなく個人の持つ人の魔力、それが満ちているように感じられた。
「……結構とんでもない話だが。しかし、こんなことをする意味はあるのか?」
魔力を満たす、というのは確かに凄い話であり、結構な魔力……というかとんでもない魔力を必要とする。推定するにこの魔力の持ち主は公也には劣る。しかし比べる対象が公也という時点でとんでもない魔力量である、しかしその魔力をただ空間に満たすのはあまり意味のない行為だ。魔力が自分の物であるため見たしたその魔力に異物が入るとそれを感知できる、などそういった効果を見込めるものの、そもそもそんなことをして探知する意味が薄い。魔法を使わないで咄嗟にとかならまだあり得なくもないが継続的に感知するつもりがあるなら魔法などで行った方がいいだろう。効率が圧倒的に違う。本当の意味でこれでは魔力の無駄遣いと言わざるを得ない。
「まあ、それは俺が考えても仕方がないな……魔法が使えない、とか何か理由はあるんだろう。実際そんな例はあったし……」
ルストは魔法使いと比べてもかなり膨大な魔力を持っている。それでも魔法は使えない体質であったため魔法使いにはならなかった。しかしその分技という形でその魔力を利用する形となり、強力な冒険者となった。ならばこの膨大な魔力の持ち主もそうなる可能性はある……そう考えられるのだが、そんな話は聞いていない。仮にこれだけの魔力の持ち主が何らかの形で力を行使できるならばそれは恐らくユーナイト以上の脅威である可能性もあった。しかしこの国はユーナイト相手にそういった対応をすることはなく、そもそもユーナイト……エルデンブルグの方でこれだけの魔力の持ち主についての話がなかった。話を聞く限りこの魔力の持ち主はおそらく以前からいたはずである。でなければ魔法使い至上主義を現在も維持し続ける理由がわからなくなる。これだけの魔力の持ち主がいるから……というのであればそれが理由、原因になるはず。だが……それならばやはりその存在の情報がエルデンブルグに伝わらなかった理由がわからない。ユーナイトに伝えない、知られたくない理由がこの国にはあった。それは何か……という疑問になるだろう。
「気になる。諜報、情報収集……重要拠点の破壊をして帰っても別にいいが、やっぱりこういうよくわからないものは調べたくなる。手段はいくつか思いつくし……やっぱり探るなら昼じゃなくて夜かな」
よくわからないものであるため公也としてはかなり興味を惹かれる。またこれがこの国の魔法使い至上主義を成立させるものであるならば……その排除も一つの手立てになる。もしかしたらこの魔力の持ち主を始末すればそれだけで一気に情勢が変わる可能性もある。まあそれが決していい方向になるとも限らないわけであるのだが、とりあえず探るだけ探るのはありだろう。




